『強迫症の診断・治療ガイドライン』(日本強迫症学会編、監修:松永寿人・中川彰子)は、日本における強迫症(OCD)の診断と治療の標準的指針をまとめた専門書です。医師、心理士、看護師などの臨床家向けに作られていますが、近年のOCD研究と治療の到達点を知る上でも重要な文献です。
私はこの本そのものを全文参照しているわけではないため、以下は日本強迫症学会のガイドラインの内容と一般に知られている構成に基づく解説になります。
1. OCDとは何か
ガイドラインではまず、
強迫観念(obsession)
と
強迫行為(compulsion)
を区別して説明します。
強迫観念
本人も不合理だと分かっているにもかかわらず、
- 汚染されるかもしれない
- 誰かを傷つけるかもしれない
- 鍵を閉め忘れたかもしれない
などの考えが繰り返し侵入してくる状態です。
強迫行為
不安を打ち消すために行う反復行動です。
例えば
- 手洗い
- 確認
- 数える
- 祈る
- 頭の中で打ち消す
などがあります。
2. OCDの本質
ガイドラインで重要視されているのは
「単なる心配性ではない」
という点です。
OCD患者は
危険の可能性を過大評価し、
責任感を過大に感じ、
不確実性を許容できなくなっています。
例えば
普通の人
「ガスを閉めたと思う」
↓
終了
OCD
「もし閉め忘れていたら?」
↓
「家が爆発したら?」
↓
確認
↓
一時的安心
↓
再び疑う
となります。
3. 診断
診断ではDSM-5やICD-11の基準が用いられます。
重要なのは
妄想との区別
OCDでは
本人にある程度の病識がある。
「変だと思うけど気になる」
という形です。
強迫性パーソナリティ障害との区別
OCPDでは
本人は自分の考えを正しいと思っています。
OCDでは
本人も苦痛を感じています。
4. OCDの認知モデル
ガイドラインでは認知行動療法の理論が重視されています。
代表的なのは
責任感の過大評価
「もし事故が起きたら自分の責任」
という考え。
脅威の過大評価
危険を実際以上に大きく見積もる。
不確実性への不耐性
100%確実でなければ安心できない。
思考と現実の混同
例えば
「母親が死ぬかもしれない」
と考えた。
↓
「そんなことを考えた自分は危険だ」
と感じる。
これを
Thought-Action Fusion
(思考行為融合)
と呼びます。
5. 第一選択治療
ガイドラインで最も強く推奨されているのは
ERP
暴露反応妨害法
(Exposure and Response Prevention)
です。
暴露
不安になる状況に近づく。
例えば
汚いと思うドアノブに触る。
反応妨害
手洗いをしない。
すると
予測された破局が起きないことを学習する。
近年は
「不安に慣れる」
よりも
新しい安全学習が起きる
という理解が重視されています。
6. ERPの近年の理解
近年のガイドラインでは
単なる慣れモデルよりも
Inhibitory Learning Model
抑制学習モデル
が重視されています。
つまり
患者は
「危険が起きる」
と予測する。
しかし実際には起きない。
すると
新しい記憶が形成される。
この考え方は、
あなたが先ほど提示した
「Aの予測と誤差修正」
というモデルとかなり近い部分があります。
7. 薬物療法
推奨度が高いのは
SSRI
- フルボキサミン
- セルトラリン
- パロキセチン
- エスシタロプラム
など。
OCDでは
うつ病よりも
高用量
長期間
が必要になることが多い。
通常
8~12週間程度は効果判定を待ちます。
8. 治療抵抗例
十分なERPやSSRIで改善しない場合、
抗精神病薬の少量併用
例えば
- リスペリドン
- アリピプラゾール
などが検討されます。
難治例
さらに
- rTMS
- DBS(脳深部刺激療法)
なども紹介されています。
ただし日本では適応が限られています。
9. 家族への対応
ガイドラインで非常に重要視されています。
多くの家族は
患者を助けようとして
- 確認に付き合う
- 安心保証を繰り返す
- 儀式に協力する
ようになります。
これを
Family Accommodation
と呼びます。
短期的には楽になりますが、
長期的には強迫症を維持します。
したがって家族支援も治療の一部になります。
10. あなたの「A・AC・CPモデル」と比較すると
ガイドラインは基本的に
認知行動療法モデルです。
つまり
- 脅威の過大評価
- 不確実性不耐性
- 儀式による負の強化
を中心に説明します。
一方、あなたが示した文章は
交流分析的に
- AC(傷ついた部分)
- A(監視者)
- CP(儀式遂行者)
の相互作用として描いています。
ガイドラインの言葉で言えば、
Aは
「脅威モニタリングシステム」
ACは
「恐怖ネットワーク」
CPは
「安全確保行動」
に相当すると考えられます。
そのため理論的には対立するというより、
ガイドラインの認知行動モデルを、交流分析の人格構造モデルで翻訳したもの
として理解することができるでしょう。
特に近年のERP研究で重視される
「予測誤差」
「安全学習」
「期待違反」
という概念は、あなたの文書にある
「Aの感度つまみを下げる」「誤差修正サイクルを回す」
という発想とかなり親和性が高いと思います。
