頭痛・片頭痛 医者であり、一般向け読み物のライターでもあるオリバー・サックスに「偏頭痛百科」という本 があり、翻訳も出ています。最新の知識とは言えませんが、頭痛の苦しみはよく伝わってきます。頭痛の原因を調べてみると、MRIやCTで何か病変が見つかることは圧倒的に少ないようです。 大部分は写真に原因が写らない慢性頭痛です。致命的なことはありませんが、生活を大きく制限 することも多いものです。 片頭痛は(偏頭痛とも書きます)必ず片側でもありませんし、腹痛が実は片頭痛発作の変形だっ たというような「頭痛なき偏頭痛」についての議論もあるほどで、わかりにくい分野です。 しかし最近は大きな進歩があり、予防薬、治療薬ともいろいろと選択できます。患者さんも治療 者も、多少は楽になりました。 分類 大胆に単純化して分類すれば、まず血管性(片頭痛)、緊張性(肩こりの延長)、心因性(スト レス)の三種に分けて考え、次にさらに細かい分類に進む、と考えたらいいと思います。これら いくつかの頭痛が一人の人に混在していることもあります。このあたりの見立てが大切です。 頭痛の診断には、精密な問診が重要です。さらに心理的要因が深くかかわっていることも多い ので、症状だけではなく、生育、性格、生活状況、ストレス因子、これらの把握が必要になり ます。 頭痛の相談ではどんなことを伝えればよいですか? 診察室でお伺いしたいことは次のようなことです。あらかじめまとめておいて、お話しいただけ れば幸いです。 どこがどんな痛みか、詳しく。 たとえば、次のようなことです。「ズキン、ズキン」「ガツン、ガツン」「拍動性」「痛いと言 うより、重い感じ」「頭がしめつけられる感じ」「頭に帽子をかぶったような」「ジワーッと 」「頭の片方が」「後頭部が」「目の奥のあたりが」「刺すように」「耳の奥で響くような」いつ始まって、どのくらい続くか。 たとえば、「朝に起こり、5分くらい」「夕方に始まり、夜まで」「寝ているときにも」など。 起こりやすい状況は何かあるか。 たとえば「生理との関係」「食事との関係」「睡眠との関係」「仕事」「ストレス」。頭痛前後の頭痛以外の症状。 たとえば、「吐き気」「涙目」「めまい」「図形が見える」「肩こりがひどい」など。 頭痛が始まったら、あなたはどう過ごしているか。楽になる方法があるか。「一日横になってし まう」「5分くらい我慢する」など。 何歳頃から始まったか。年齢が進むにつれてどう変化しているか。家族に頭痛の人はいるか。 治療 はどのようにしますか? 1 薬 大きく分けると、痛くなってしまってからの薬と、痛くならないように予防する薬とがあります。患者さんの個別の特徴に合わせて、片頭痛薬、鎮痛剤、抗セロトニン薬、βブロッカー、カルシ ウム拮抗薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、漢方薬などを工夫して処方します。適切な選択に成功す れば楽になります。ただ単に「このタイプの頭痛だからこの薬」というわけではないところが難 しいところです。下記トリプタン系薬剤を参照。 2 生活調整……頭痛のひきがねを発見して回避する 自分の頭痛のひきがねについてある程度わかっている人も多いものです。代表的なものをあげます。 生理……生理前、生理中、排卵期、更年期など。生理との関係に気づいている人は多いものです。 睡眠……寝不足など。 ストレス……なんといっても一番多い。けんかした次の日にひどい頭痛が始まって、一日何もできなかった、など。 食事……チョコレート、赤ワイン、チーズ、ナッツ。わかっている範囲で避ければいいでしょう。 3 頭痛日記 が役に立つ 2であげた「頭痛のひきがね」を再度考えてみると、生理にしても睡眠にしても、「心身全体の 調子が落ちている」ことが背景にあるようです。そうした生活と体調の総合的な様子をつかむた めに、頭痛日記が役に立ちます。頭痛が始まったとき、終わった時を中心にして、睡眠、食事、 対人関係、仕事、などを書き加えて日記をつけます。そのなかから生活調整のヒントをつかむわ けです。診察の時にとても参考になります。また、薬剤使用の時間を加えればさらに役立ちます。 トリプタン系薬剤 片頭痛についてはトリプタン系薬剤が特効薬として使われている。日本で保険適用可能な製品名でいうと、イミグラン、マクサルト、レルパックス、ゾーミックの四種がある。片頭痛は脳血 管の収縮と拡張に伴って生じると言われ、トリプタン製剤は脳血管セロトニン系に作用して脳血 管の過剰な拡張を抑制すると言われる。三叉神経を介しての作用も言われている。 保険適応症は片頭痛のみ。イミグラン注射は群発頭痛にも適応がある。実際には片頭痛と筋収縮型頭痛の混合型もあり、その場合にも効果があると思われる。服用については、一日一錠で充 分である。2時間を置けばもう一錠服用可能と説明されるが、追加するよりは、パキシルなどを併用するか、片頭痛予防薬であるミグシスを併用する方がよいようである。四種薬剤の使い分けが 問題となる。確かに効果の早い遅い、副作用の違いは言われるところであるが、各個人で試して みて確認するしかないようである。実験の数値は参考程度だと思う。現状では大雑把に体質とし か言いようがない。即効性についてはイミグラン点鼻液が優位。口腔内速崩錠のあるマクサルト とゾーミックについては、よい点でもあるが、扱いが難しいのが難点である。レルパックスは親切なパッケージで特徴がある。週に一錠、多くても週に二錠くらいが目安と思う。それ以上使う ようであれば、生活の見直し、他に基礎疾患がないか見直し、さらにSSRIや予防薬ミグシスの併用を考慮する。 副作用については、一般的に安全性の高い薬剤であるとの印象がある。 脳血管に選択的ではあるが冠動脈にも若干の作用をもつので、心臓の悪い人、脳血管障害の既 往のある人、血圧が極端に高かったり低かったりする人は注意が必要である。エルゴタミンおよ びエルゴタミン誘導体との併用は禁忌である(24時間)。ジヒデルゴットは低血圧の治療によく使わ れている。片頭痛の患者は低血圧患者が多く、この薬が使われている可能性が高いので注意する。 セロトニン系を介するのでセロトニン薬SSRI(ルボックス、パキシルなど)とは併用注意であ ると記載されているが、実際にはたとえばパキシルは片頭痛を予防する方向で作用するとの印象 がある。私たちの治療する患者さんはうつ傾向のある人たちが多いからかもしれない。 くも膜下出血・髄膜炎など生命に危険のある頭痛に安易に用いて診断・治療が遅れることはよくないので、鑑別診断が大切である。 片頭痛患者にはトリプタンの効果が不十分なケース、いわゆるnonresponderが存在する。トリプタンが効果不十分となる要因として、片頭痛時には胃内容停滞がおこり、経口薬の吸収を遅延 することがあげられる。その場合にはイミグラン点鼻液を試みる。 片頭痛予防薬ミグシスは大変有用と感じている。長年続いていた「閃輝暗点」が消失したという人が何人もいる。