特集 阿部:うつ病患者の気質・発病状況・発症・症状形成を包括的に説明する Tellenbach 691 特集 精神病理学の古典を再読する―DSM 精神医学の補完をめざして― うつ病患者の気質・発病状況・発症・症状形成を 包括的に説明する Tellenbach 阿部 隆明  近年,操作的診断基準である DSM が普及するにつれて,症状の数やその持続期間によってう つ病が診断され,それに基づいた治療アルゴリズムが作成されている.たしかにこれで症状評価 の信頼性や標準的治療は担保されるとしても,患者個人のパーソナリティや発病状況,症状形成, 経過を一体として理解することにはつながらない.Tellenbach のメランコリー親和型(Typus Melancholicus)は,真面目,几帳面,対他配慮という単極うつ病者の病前性格として矮小化され ているが,本来はもっと射程が長く奥の深い考想の所産である.彼は内因性を積極的に規定し, エンドン(内因)を身体と精神の分離に先行して存在する領域に位置づけた.共同世界とこの内 因とが交差する地点で,発症に特異的な状況が構成されるが,この状況因を自ら招き寄せるのが メランコリー親和型である.この特徴をもつ人たちは勤勉であり,良心的で,義務を意識し,作 業において正確であるうえに,自分自身の作業に平均以上の高い要求を課している.彼らにとっ て病態発生的意義をもつ状況は,インクルデンツ(封入性)とレマネンツ(負い目性)の前メラ ンコリー布置である.前者は病前の秩序結合性と噛み合って,限界への閉じ込めを意味し,後者 は自分自身の作業への高い要求の背後に取り残されることである.この 2 つの状況が極端に先鋭 化して,メランコリー親和型が自己矛盾にとらわれ出口がなくなると,エンドンが変化してメラ ンコリアが生じる.従来の気質論とは一線を画するTellenbachの発病状況論が日本で受け入れら れた背景には,下田の執着性格論の存在があり,Tellenbach 自身も秩序への固定と執着との共通 性を指摘していた.上述した前メランコリー布置は執着性格を含めて,他のパーソナリティでも 見いだされるという意味で,Tellenbach の考想は決して古びたものではなく,今日のうつ病患者 の理解にも資するところが大きい. <索引用語:うつ病,病前性格,発病状況,メランコリー親和型,執着性格> は じ め に  近年,DSM‒Ⅲ6)以降の操作的診断基準が普及 するにつれて,症状の数やその持続期間によって うつ病が診断され,それに基づいた治療アルゴリ ズムが作成されている.こうして,症状評価の信 頼性は担保され,標準的な薬物療法や精神療法が 推奨されている.とはいえ,これだけでは,患者 個人のパーソナリティと発病状況,症状形成,経 過を一体として理解できないし,テイラーメード の治療にもつながらない.   他 方,Tellenbach, H. の 主 著『 メ ラ ン コ リー』21,22)は気分障害の全体像を理解するうえで 今なお参考になる点が多い.同書は,1961 年に出 版され1983年まで版を重ねたが,最近はほとんど 言及されることもない.わずかに彼の提唱したメ ランコリー親和型(Typus Melancholicus)がう つ病の病前性格の一型として,時にふれられるだ けである.しかも,真面目,几帳面,対他配慮と 著者所属:自治医科大学とちぎ子ども医療センター子どもの心の診療科 692 精神経誌(2020)122 巻 9 号 いう一部の単極うつ病者の病前の特徴として矮小 化されている.とはいえ,この類型は本来もっと 射程が長く奥の深い考想の所産である.以下で は,従来の病前性格論と比較しながら,『メランコ リー』の今日的な意義について論じたい. Ⅰ.Tellenbach の生涯  まず,Tellenbach の生い立ちについて簡単にま とめておく.彼は 1914 年にドイツの Köln で生ま れた.1933 年から 1938 年にかけて,Freiburg, Königsberg,Kiel,München で医学と哲学を並行 して学んだ.哲学の学位論文のタイトルは,「若き ニーチェの人間像における使命と発展」(1938)で あった.第二次世界大戦中は軍医として召集さ れ,捕虜生活を体験した.戦後は München で神 経科医として働き,「末梢神経のアレルギー性病 因の問題に関して」と題する論文で,1952 年に教 授資格を取得した.その後は,研究の比重を精神 医学に移して,特に Binswanger, L.,von Gebsat tel, V. E.,Minkowski, E. の現存在分析や Straus, E. W. の現象学的心理学に親しんだ.1956 年に Heidelberg 大学に移り,1958 年に教授となった (ちなみに精神科主任教授は 1955 年から von Baeyer, W.,1973 年からは Janzarik, W.).その後 は,1971 年に創設された臨床精神病理学部門の医 療部長を 1979 年の退職まで務め,1994 年に München で死去した.なお,1967 年と 1974 年に 来日しており,本邦にも知己が多かった. Ⅱ.『メランコリー』について  上述のような経歴を生かした哲学的な議論も含 まれる『メランコリー』が難解という印象を与え ていることは否めない.とはいえ,気分障害の世 界的な研究動向も踏まえていることは,1961 年の 初版から 1983 年の第 4 版に至るまで,版を改める たびに確認できる.すなわち,その間に行われた 単極うつ病と双極性障害の分離,ライフイベント 研究,操作的診断基準の発表などが参照されてい る.以下では主に第 4 版22)の内容を中心に紹介し たい. 1.内因性について  彼は問題の所在の歴史的展望と題して,古代ギ リシャ以来の書物に登場するメランコリアに関し てまとめたうえで,根源としての内因性を論じ る.まず,これまでは除外診断的に規定されてき た内因性を積極的に規定し直す.内因性(Endo genität)は古代ギリシャ語のエンドゲネースに由 来し,こちらは「内部に生まれた」という意味で, デルポイの碑文に最初の用例がみられるという. 精神医学用語としての内因は,19 世紀末から 20 世紀初頭に登場し,まだ正体のわからない身体的 な 原 因 を 意 味 し て い た が, 彼 は, エ ン ド ン (Endon:内因)を身体と精神の分離に先行して存 在する領域に位置づけた.共同世界とこの内因と が交差する地点で,発症に特異的な状況が構成さ れて,メランコリーという内因的な現存在変化, すなわち人間のあり方の変化が誘発される.この 状況因を自ら招き寄せるのがメランコリー親和型 である. 2.メランコリー親和型について  彼はまず,1959 年に行われたメランコリアの事 後調査を参照する.メランコリアの病名でHeidel berg 大学病院に入院した症例のうち事後調査が 可能だった 119 例を取り上げた.対象はもっぱら 単極うつ病で,うつ病相の後に軽躁期を示した若 干例が含まれている.職業的内訳は主婦が 82 例, 裁縫業が 14 例,事務職が 13 例で,患者はどちら かというと負担の軽い従属的な地位にとどまり, 下層中産階級に属していて,主婦もほとんどがこ の社会階層に属する男性の妻だったという. Tellenbach によると,これらの症例すべてから 几帳面さへの固着(秩序への固定)が見いだされ, うつ病期と躁病期の両方をもつ患者の過半数にお いても同じ結果が得られた.彼はこうした特徴を メランコリー親和型と名づけ,これを有する人 は,勤勉であり,良心的で,義務を意識し,仕事 において正確であるうえに,自分自身の仕事に平 均以上の高い要求を課しているとした.この秩序 指向性が対人関係に向けられると,「他人に尽く 特集 阿部:うつ病患者の気質・発病状況・発症・症状形成を包括的に説明する Tellenbach 693 す」という形で「他人のためにある」というあり 方が生じる.規範に忠実すぎるという意味では, 病的正常性(pathologische Normalität)とも言い 換えられている. 3.メランコリアの発症  病態発生的意義をもつ状況は前メランコリー布 置として定式化されている.その空間的様相は, インクルデンツ(Inkludenz:封入性)と命名さ れ,患者の秩序結合性と噛み合っている.これは 限界への閉じ込めを意味し,このタイプの人間は 自らの秩序の遂行に基づいて,もはやこの限界を 踏み越えることができない.住まいの秩序と一体 化した専業主婦などが好例である.  また前メランコリー布置の時間的様相はレマネ ンツ(Remanenz:負い目性)と呼ばれ,これは 自分自身の作業への高い要求と関連していて,自 分自身の要求の背後に取り残されていくことを指 す.この要求は次第に取り戻すことのできない負 債になる.仕事の質と量の両立に固執するあま り,時間的に追い込まれていく会社員などが好例 である.  この 2 つの様相が極端に先鋭化しメランコリー 親和型の人が自己矛盾に捉われ出口がなくなる と,これまでの心身状態からの断絶(Hiatus)が 生じ,エンドンが変化する(エンドキネーゼが発 動する)ことで,メランコリアが発症する.いず れにしても,メランコリー親和型の人々が自ら発 病状況を構成していくことが重要なのである.こ の点で,職場のストレスを契機に抑うつ的になる という,発症契機と発症との関連が了解できる単 なる抑うつ反応とは異なる.  共同世界とエンドンの関係は社会リズムの問題 として捉え返すことができるし,上述した前メラ ンコリー布置は他のパーソナリティでも少なから ず見いだされるという意味で,Tellenbach の考想 は決して古びたものではなく,今日のうつ病患者 の理解にも資するところが大きい. Ⅲ.うつ病概念の拡大と『メランコリー』  『メランコリー』が参照されなくなった理由の 1 つに,うつ病概念の拡大がある.これは大うつ病 (major depression)という内容の不均一な DSM の診断名が広く受け入れられたことに加え,日本 では depression がほとんどうつ病と訳されるよ うになったという事情に由来する.他方,英米圏 では,うつ病に関して内因性や心因性を区別しな い単一論の長い伝統があり17),この広い診断名を 抵抗なく受け入れられる土壌があった.伝統的に ドイツ語圏の精神医学に依拠してきたわが国の精 神医学界でも,1980 年代から始まる操作的診断の 普及とともに,メランコリア,すなわち内因性う つ病への関心が薄れてきた.また,ドイツ本国で も Tölle, R.23)は内因性うつ病で入院した患者の人 格特徴を調査した結果,敏感性格,自己愛的性格, 抑うつ性格,強迫性格,ヒステリー性格,無力性 格,依存性格,回避性格と多岐にわたることを指 摘し,メランコリー親和型構造は全体の約 3 分の 1 であると報告した.  最新の操作的診断基準である DSM‒57)でも,内 因性という言葉は見あたらないが,メランコリア の特徴を伴うものという特定用語が残っており, 同特徴を伴ううつ病が内因性うつ病とほぼ重な る.とはいえ,臨床研究においてこうしたうつ病 を別に扱うことは稀であり,ほとんどの研究対象 が大うつ病である.抑うつエピソード(major depressive episode)の臨床特徴は多様であって, この状態を呈する成人患者のうち,メランコリア の特徴を伴うものは 45%と報告されている15).ま た,植物神経症状ひとつをとっても,不眠と食欲 低下が主症状であるメランコリアの特徴を伴うう つ病と過眠と食欲亢進が主症状である非定型の特 徴を伴ううつ病は対極にある2).こうした内実の 不均一な抑うつエピソードを対象にすると,従来 のメランコリー論は成立しない. Ⅳ.うつ病者の病前性格論  メランコリー親和型以前のうつ病者の病前性格 論については,以前にも論じたことがあるが1), 694 精神経誌(2020)122 巻 9 号 ここで簡単に整理しておきたい. 1.うつ病と性格  うつ病と患者の病前性格との関連については, いくつかの推論が可能である.例として,①一定 の性格が体質因や環境因と協働してうつ病が発症 するという素因モデル,②一定の性格特徴はうつ 病の準臨床的な表現であるというスペクトラムモ デル,③一定の性格とうつ病には共通の遺伝的体 質が基礎にあるという共通原因モデル,④一定の 性格特徴はうつ病への罹患率を高めるのではな く,臨床像や経過,治療反応性に影響を与えると いう病像形成モデルが挙げられるが,それぞれ重 なり合う部分も大きい.このうち,最も長い伝統 があり,今日でも影響力を保持しているのは,①, ②,③と関連する気質論である.  気質論の嚆矢となるのは,Kraepelin, E.12)の躁 うつ病(manisch‒depressives Irresein)概念の下 位分類に含まれる基底状態(Grundzustände)で ある.これは躁うつ病の前段階ないし発病してい ない中間期の状態とされ,さらに抑うつ性素質 (depressive Veranlagung),躁性素質,刺激性素 質,気分循環性素質の 4 型に分類された.それぞ れ,うつ病,躁病,混合状態,躁うつ病の状態像 を気質レベルまで薄めた状態に対応する.抑うつ 性素質とは,「いつも陰うつな感情をもち,仕事の 達成感による満足よりも,やったことの間違いの ほうに目がゆくタイプである.つまり,人生の心 配や苦労,失望に対する特別の感受性があり,臆 病小心で自主性,自信がなく,どんな責任にも尻 込みし,危険な行為を避ける.また,非常に几帳 面,良心的で,忍耐力もあるが,他の人々との交 わりからは身を引き,対人場面で争うことはな い」(下線は著者)とされるが,下線部が示すよう に,メランコリー親和型と共通する特徴が指摘さ れていることは興味深い. Kretschmer, E.14)は,躁うつ病を正常人格の異 型の先鋭化と把握し,循環気質(Zyklothymie)‒ 循環病質(Zykloid)‒躁うつ病の移行系列を想定し た.循環病質は,社交的,善良,親切,温厚とい う基本特徴をもつとされ,なかでも陰気に傾くタ イプはうつ病との親和性が高い.この場合は「物 静か,平静,陰うつ,気が重い」といった力動面 の特徴が重視されていて,几帳面という人格構造 面を重視する Tellenbach とは対照的である.  最近では新クレペリン主義者を自認する Akis kal, H. S.4,5)が,双極スペクトラムの最軽症型であ る感情病気質(affective temperaments)の 1 つ として,うつ病に親和的な抑うつ気質(depressive temperament)を提唱している.その中身をみる と,Schneider, K. の抑うつ者の特徴とともに,習 慣的な過眠傾向や午前中の不調,考え込む傾向, 無快楽,精神運動不活発といった,睡眠覚醒パ ターンや日内リズムにふれている.これは一部の 双極うつ病の症状パターンであり,気質と症状の 一部が一体となっていて,メランコリー親和型と は異なる. 2.執着性格とメランコリー親和型  上記の気質論では,抑うつ的な気質からうつ病 への移行が重視されていて,発病状況はあまり考 慮されていなかった.繰り返しになるが,Tellen bach の業績はうつ病の病前性格と発病状況を セットで考えた点にあるのだが,日本ではすでに 下田が 1920 年代から同様の理論を構想してい た3).『メランコリー』が日本で最も受け入れられ たのは,こうした素地があったためである.ここ では,執着性格とメランコリー親和型との比較を しておきたい.  下田19)はまず,「一度起こった感情が正常人の ごとく時とともに冷却することがなく,長くその 強度を持続し,あるいはむしろ増強する傾向をも つ」気質を重視する.この気質に基づいて形成さ れる性格標識が,「仕事に熱心,凝り性,徹底的, 正直,几帳面,強い正義感や義務責任感,ごまか しやずぼらができない」というものであるが,こ の記述はメランコリー親和型を彷彿とさせる.  執着性格からの躁うつ病発症過程については, 「ある期間の過労事情から睡眠障害や疲労性亢進 などの精神衰弱傾向を呈するが,感情興奮性の異 特集 阿部:うつ病患者の気質・発病状況・発症・症状形成を包括的に説明する Tellenbach 695 常によって休息に入ることができずに,疲憊に抵 抗して活動を続け,その疲憊の頂点で発揚症候群 または抑うつ症候群を発する」と述べられている. 感情興奮性の持続という精神生理学的な特性が重 視されている点は,Tellenbach の人間学的な発病 状況論とは異なるが,同じ発病過程を異なった側 面からみているともいえる. Tellenbach 自身も,後に Shinfuku, N.と Ihda, S.20)によって海外に紹介された執着性格を参照し て,「仕事に熱心,正直,几帳面,強い正義感や義 務責任感は,メランコリー親和型の秩序性と重な る」として,執着を秩序への固定に引きつけて理 解している.Kraus, A.13)も,この几帳面も思考や 感情に執着するという全般的な傾向,すなわち長 く持続する感情緊張に還元されると指摘し,両者 の共通点を強調している.  他方で,両者の差異も明確である.疫学に関し てみると,下田の弟子の中16)によって1932年に発 表された初老期うつ病の疫学調査が興味深い.対 象は当時の医療状況を反映して,男子が 61%を占 めた.さらに彼は,女子が少ない理由を,その社 会的地位の低さや誘因に遭遇する機会の少なさ, 軽度なものは放置されていることにみた.患者の 多くは上流階級に属し,職業としては 20%が医師 であるとしていた.誘因は 70 例中 57 例に認め, 男子では事業の失敗や業務過労,選挙運動,女子 では近親者の死亡や家庭的心痛であると報告し た.患者の性格に関しては,まだ執着性格に改称 前の偏執的性格が用いられているが,チクロイド 的偏執的性格 25 例,偏執的性格 7 例,チクロイド 気質 2 例,偏執的あるいはチクロイド的基調に他 の因子が混ざるもの27例,偏執的あるいはチクロ イド的基調を見いだせないもの 8 例となってい る.時代的な差異はあるにしても,メランコリー 親和型に関する調査結果と執着性格に関するそれ とでは,性比や社会階層の点で対象が異なってい たといえる.  この執着性格が再評価されるのは,1960 年代の 平澤の一連の研究8,9)によってであるが,これは Tellenbach の『メランコリー』に触発されたもの だった.まず,彼は軽症単極うつ病の病前性格と して,几帳面,仕事熱心,対人過敏を取り出した. すなわち,下田の執着性格の二大特徴である熱中 性と几帳面のバランスが大きく後者へとシフトし たのである.また,対人的態度も円満で人あたり がよいと,循環気質の特徴まで付け加えられた. さらに彼は外来軽症単極うつ病の調査から,紛争 者は一人もみられず,熱中性より几帳面が顕著に 表れているとして,Tellenbach のメランコリー親 和型の妥当性を高く評価した.このように,几帳 面さが重視されていく背景には,双極性障害ない し重症の単極うつ病から軽症単極うつ病への観察 対象の移動がある.清水18)のいう執着性格のメラ ンコリー親和型化が起こったのである.ちなみ に,上述したように,Kraepelin の抑うつ性素質 もメランコリー親和型の特徴の一部を示している ので,これは元来エネルギー水準の低い人の性格 防衛の所産ではないかという思いが湧く.抑うつ 性素質はエネルギーの低さが前提とされている点 で,うつ病症状との連続性が想定されるが,執着 性格ではエネルギー面で抑うつ症状とは対照をな す.結論を先取りすれば,執着性格ではむしろ自 己愛的傾向も強く,その執着の対象が当時の価値 規範だった可能性がある.その際,こうした社会 的規範への同一化の程度と,熱中性という個体の エネルギー水準の高低によって病像の差が出現す ると思われる.  ちなみに,Tellenbach の研究を受けて心理計測 的な調査をした von Zerssen, D.24)の報告を参考 にすると,執着性格は些事拘泥,権威従属的,一 面的関心という点でメランコリー親和型の,熱狂 能力あり,元気という点でマニー親和型の特徴を 併せもつ.換言すれば,執着性格は構造的にはメ ランコリー親和型,力動的にはマニー親和型の側 面があり,双極性障害の病前性格という点では納 得のいくところである.対象への執着が強まれば うつ病へ,熱中性が優位になれば躁病への親和性 が高まる.このように,執着性格は感情の興奮性 の持続という高いエネルギーをもつことに加え, それが一定の対象に向けられ滞留するという点 696 精神経誌(2020)122 巻 9 号 で,躁うつ病の病前における力動と構造との関連 性10)を見事に指摘していたのである. お わ り に Tellenbach の『メランコリー』が,うつ病の病 前性格論や発病状況論に大きな影響を与えたこと は確かである.問題は,メランコリー親和型の特 徴がエネルギーの低い人の性格防衛としても,う つ病発症後の性格としても出現しうるので,性格 特徴のみを強調すると,本来の趣旨がぼやけてし まう点である.メランコリー親和型の人自体はエ ネルギーが低いわけではないのである.また,性 格と発症の了解関連を排しているので,なぜうつ 病を呈するのかという疑問には答えられていない.  とはいえ,メランコリー親和型概念の利点は, 単なるライフイベントではなく,病前性格と発病 状況との関連を個別に検討する必要性を強調した ところにある.現代では,職場そのものがメラン コリー親和化しているという加藤11)の指摘もあ る.すなわち,正確性と期日厳守を求められる職 場は,まさしくインクルデンツとレマネンツを引 き起こす.また,孤独な育児の状況からうつ病を 発症させる女性でも,逃げ場のなさはインクルデ ンツと,時間に追われる状況はレマネンツと解釈 できる場合がある.メランコリー親和型概念は, こうした発病状況の理解には今なお有効であると 思われる.  なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない. 文    献 1)阿部隆明:うつ病者の病前性格.精神経誌,109 (9);846‒853,2007 2)阿部隆明:うつ病と内因性.臨床精神医学,40 (8);1033‒1041,2011 3)阿部隆明:下田の執着性格論と現代の気分障害研 究.臨床精神病理,34(1);53‒59,2013 4) Akiskal, H. S., Mallya, G.:Criteria for the“soft” bipolar spectrum:treatment implications. Psychophar macol Bull, 23(1);68‒73, 1987 5) Akiskal, H. S.:The psychiatric clinics of North America. Bipolarity:Beyond Classic Mania. W. B. Saun ders Company, Philadelphia, 1999 6) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 3rd ed (DSM‒Ⅲ). American Psychiatric Association, Washing ton, D. C., 1980(髙橋三郎,花田耕一,藤縄 昭訳:DSM‒ Ⅲ精神障害の分類と診断の手引き.医学書院,東京,1982) 7) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed(DSM‒ 5). American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013(日 本精神神経学会 日本語版用語監修,髙橋三郎,大野 裕監 訳:DSM‒5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院, 東京,2014) 8)平澤 一:うつ病にあらわれる「執着性格」の研 究.精神医学,4(4);229‒237,1962 9)平澤 一:軽症うつ病の臨床と予後.医学書院, 東京,1966 10) Janzarik, W.:Strukturdynamische Grundlagen der Psychiatrie. Enke, Stuttgart, 1988(岩井一正,古城慶 子,西谷勝治訳:精神医学の構造力動的基礎.学樹書院, 東京,1996) 11)加藤 敏:職場結合性うつ病.金原出版,東京, 2013 12) Kraepelin, E.:Psychiatrie:ein Lehrbuch für Studierende und Ärzte, 8, Aufl. Barth, Leipzig, 1913(西丸 四方,西丸甫夫訳:躁うつ病とてんかん.みすず書房,東 京,1986) 13) Kraus, A.:Der Typus melancholicus in östlicher und westlicher Forschung. Nervenarzt, 42(9);481‒483, 1971 14) Kretschmer, E.:Körperbau und Charakter, 9. Aufl. Springer, Berlin, 1921(相場 均訳:体格と性格―体 質の問題および気質の学説によせる研究―.文光堂,東京, 1960) 15) Lamers, F., Burstein, M., He, J. P., et al.:Struc ture of major depressive disorder in adolescents and adults in the US general population. Br J Psychiatry, 201 (2);143‒150, 2012 16)中 脩三:初老期鬱憂症.神経學雑誌,34;655‒ 680,1932 17)大前 晋:「軽症内因性うつ病」の発見とその現代 的意義―うつ病態分類をめぐる単一論と二分論の論争, 1926~1957 年の英国を中心に―.精神経誌,111(5);486‒ 501,2009 特集 阿部:うつ病患者の気質・発病状況・発症・症状形成を包括的に説明する Tellenbach 697 18)清水光恵:本邦におけるメランコリー親和型をめ ぐる学説の変遷―日本文化論との結びつきから―.精神医 学史研究,16(1);69‒81,2012 19)下田光造:躁鬱病に就いて.米子医誌,2;1‒2, 1950 20) Shinfuku, N., Ihda, S.:Über den prämorbiden Charakter der endogenen Depression:Immodithymie (später Immobilithymie)von Shimoda. Fortschr Neurol Psychiatr Grenzgeb, 37(10);545‒552, 1969 21) Tellenbach, H.:Melancholie. Springer, Berlin, Heidelberg, New York, 1961(木村 敏訳:メランコリー. みすず書房,東京,1978) 22) Tellenbach, H.:Melancholie. Vierte, erweiterte Auflage. Springer, Berlin, 1983(木村 敏訳:メランコ リー,改訂増補版.みすず書房,東京,1985) 23) Tölle, R.:Persönlichkeit und Melancholie. Ner venarzt, 58;327‒339, 1987 24) von Zerssen, D.:Premorbid personality and affective psychoses. Handbook of Studies on Depression (ed by Burrows, G. D.). Excerpta Medica, Amsterdam, London, New York, p.79‒103, 1977 Tellenbach Comprehensively Explains the Premorbid Personality, Pathogenic Situation, and Symptom Formation of Patients with Depression Takaaki ABE Department of Child Psychiatry, Jichi children’s Medical Center Tochigi   With the spread of the DSM operational diagnostic criteria, depression has been diagnosed according to the number of symptoms and their duration in recent years, and a treatment algorithm based on those factors has been created. While this ensures the reliability of the symptom assessment with some certainty, it does not lead to understanding of the individual patient’s personality, pathogenic situation, symptom formation, and course as a whole.   The typus melancholicus of Tellenbach has been trivialized as the premorbid personality of patients with unipolar depression in terms of seriousness, orderliness, and consideration for others, but in fact it is the product of long‒ranging, deep thought. He actively stipulated endo genicity and placed the“endon”in a domain that exists prior to the dissociation of the physical and mental. Situations specific to the development of depression are configured at the point where the shared world and this endon intersect. It is the people with typus melancholicus themselves who induce these situations.   These people are diligent, conscientious, and aware of duty. In work, they are accurate and have high expectations of themselves that their own work be better than average. For them, situations with significance in pathological development are the pre‒melancholic constel lation of includence(Inkludenz)and remanence(Remanenz). Includence means engaging with a premorbid affinity for order and confining oneself within limitations. Remanence is being left 698 精神経誌(2020)122 巻 9 号 behind by one’s own high expectations of one’s performance. When these two situations come to a head and the individual with typus melancholicus caught in this self‒contradiction has no way out, melancholy occurs with changes in the endon.   Behind the acceptance in Japan of Tellenbach’s theory of pathogenic situation, which is clearly distinguished from conventional temperament theory, is the“immodithymia(shuchaku‒ seikaku)”theory of Shimoda. Tellenbach himself pointed out the commonality between fixation on order and tenacity(shuchaku). In as far as the pre‒melancholic constellation mentioned above is detected in other personalities including immodithymia, Tellenbach’s thought is not outdated at all but makes a significant contribution to the understanding of patients with depression today. <Author’s abstract> <Keywords: depression, premorbid personality, pathogenic situation, typus melancholicus, immodithymia> Powered by TCPDF (www.tcpdf.org)