CT55 シナプス間隙におけるメカニズム

図6:三環系抗うつ薬(TCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、およびケタミンの分子メカニズム。

TCAは、H1受容体(H1Rs)をブロックすることでプロテインキナーゼC(PKC)経路を抑制することができる。TCAは、前シナプス膜に存在するドーパミントランスポーター(DAT)を阻害することでドーパミン(DA)の再取り込みを減少させ、シナプス間隙におけるDA濃度を上昇させることで、後シナプス膜のドーパミン受容体(DARs)への作用を増強する。

活性化されたDARsは、Ca²⁺依存性のCaMKIIおよびCaMK4、さらにCREBの分泌を促進する。別経路として、DAによって刺激されたDARsはcAMP-PKA経路を活性化し、それがMAPK/ERK1/2経路を刺激することで、CREBおよびBDNF(脳由来神経栄養因子)のレベルを上昇させる。

TCA、SSRI、SNRIはいずれもセロトニントランスポーター(SERT)を阻害することで、5-HT(セロトニン)の再取り込みを抑制できる。特にSSRIはSERTに対して選択的に作用し、シナプス間隙の5-HT濃度を増加させ、後シナプス膜のセロトニン受容体(5-HTRs)に作用することで抗うつ効果を示す。これもcAMP-PKA経路を活性化する。

さらに、TCAとSNRIはノルアドレナリントランスポーター(NET)を阻害することでノルアドレナリン(NE)の再取り込みを抑え、シナプス間隙のNE濃度を上昇させる。これによりNEはアドレナリン受容体(ADR)に作用し、後シナプス膜におけるcAMP-PKA経路を活性化する。

また、NEがADRに作用することにより、AC/cAMP/PKA経路とは別に、TrkBの刺激を介してプロテインキナーゼB(Akt)のリン酸化およびmTORC1(ラパマイシン標的タンパク質複合体1)を活性化し、これによってPSD95(ポストシナプス密度タンパク質95)やグルタミン酸受容体1(GluR1)の分泌が促進される。

ケタミンはGABA作動性介在ニューロンに存在するNMDA受容体(NMDAR)のアンタゴニストとして作用し、これらニューロンの興奮を抑制する。これによりGABAのGABA-B受容体(GABABR)への作用が減少し、GABA作動性介在ニューロンによるグルタミン酸放出の抑制が解除される。その結果、グルタミン酸が後シナプス膜のAMPA受容体(AMPAR)を刺激し、BDNFのレベルを上昇させる。さらにBDNFの放出はTrkB/AKT/mTORC1経路を刺激する。

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