第15章:多職種連携とアウトリーチ型支援の可能性

第15章:多職種連携とアウトリーチ型支援の可能性

1. はじめに

精神疾患の治療と回復支援において、医療のみならず福祉、就労、教育、司法などを含む多職種の連携は不可欠である。特に、統合失調症やうつ病といった疾患は、単に薬物療法にとどまらず、生活支援や社会的再統合を視野に入れた包括的なアプローチが求められる。

また、近年注目されている**アウトリーチ型支援(訪問支援)**は、通院困難な患者や社会的孤立状態にある人々への有効な介入手段として、統合失調症とうつ病の双方に適用されている。本章では、これらの支援モデルの実際と可能性について、両疾患の比較を交えながら考察する。


2. 多職種連携の意義と構成

多職種連携とは、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士、ピアサポーター、就労支援員などが、共通の目標に向けて情報を共有しながら協働する支援体制を指す。

疾患特に関与が重要な職種支援の重点
統合失調症精神科医、PSW、OT、訪問看護師、ピアスタッフ社会的自立、服薬管理、生活支援
うつ病精神科医、心理士、産業医、復職支援スタッフ感情の安定、職場復帰支援、心理的ケア

統合失調症では、慢性的な経過を見越した生活支援型の多職種連携が求められる一方、うつ病では、発症から回復までの経過に応じた段階的な介入と復職支援が重要となる。


3. アウトリーチ支援の特徴と適用

アウトリーチ支援は、医療機関に通院できない、あるいは治療への動機づけが低い人々に対して、支援者が地域・自宅などの生活の場に出向いて行う支援である。日本では、ACT(包括型地域生活支援プログラム)や訪問看護、地域定着支援事業などがその代表例である。

統合失調症における意義

  • 再発・再入院の予防(特に退院直後)
  • 服薬アドヒアランスの確保
  • 社会的孤立からの回復支援
  • 「ひきこもり」状態への支援

うつ病における活用

  • 重度うつ状態での安全確保(自殺リスクの高い事例)
  • 外出困難なクライアントへの段階的支援
  • 家族を巻き込んだ支援計画の調整

うつ病においては、アウトリーチは危機介入的意味合いが強く、一方で統合失調症においては長期的かつ継続的支援の手段として用いられる傾向がある。


4. チームアプローチにおける課題と展望

共通課題

  • 情報共有の仕組み不足
  • 職種間の専門性のずれ
  • 支援目標の不一致

特有の課題

  • 統合失調症:支援の長期化により支援疲れ制度の限界が課題に
  • うつ病:急性期~回復期におけるタイムリーな連携の必要性が高い

今後の展望としては、以下の点が重要である:

  • 電子カルテの連携やICTの活用による情報共有の効率化
  • 多職種による共同ケースカンファレンスの普及
  • 当事者と家族を含めたチーム形成

5. 終わりに

統合失調症とうつ病における多職種連携およびアウトリーチ支援は、その疾患特性に応じてアプローチを変える必要があるが、いずれにおいても**「医療の外に出る支援」**という視点が重要である。当事者の生活の質(QOL)を高め、孤立や再発を防ぐためのこれらの支援モデルは、今後さらに深化していくことが期待される。


参考文献

  • Thornicroft, G. (2006). Shunned: Discrimination Against People with Mental Illness. Oxford University Press.
  • 村上靖彦(編)(2020)『精神疾患と地域生活支援』医学書院.
  • 吉川ひろみ(2021)『アウトリーチ支援と多職種連携の実践』中央法規.
  • 岡田靖雄(2017)『ACTモデルによる地域精神医療』星和書店.

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