30.統合失調症とうつ病の患者および家族への支援と心理社会的アプローチ


統合失調症とうつ病における患者とその家族への支援と心理社会的アプローチ

― 対比的視点からの検討 ―

統合失調症とうつ病はいずれも精神疾患として、本人の生活の質を低下させるだけでなく、家族にも精神的・社会的・経済的な負担をもたらす疾患です。しかし、疾患の病態や経過、社会的影響のあり方には顕著な差異が存在し、それに伴い支援のアプローチも異なってきます。本章では、患者および家族に対する支援の共通点と相違点を明確にしながら、心理社会的アプローチの実践的意義を検討します。


1. 家族が直面する負担の性質と対応

観点統合失調症うつ病
発症年齢・急性期の対応青年期から発症しやすく、家族が症状(幻覚・妄想など)に直面する。病識の欠如が多く、本人が治療を拒否することもある。幅広い年齢層で発症。自責感や希死念慮などが家族にとって心理的負担となる。本人は受診を希望する傾向が比較的強い。
慢性経過への備え慢性化しやすく、長期的に家族が生活支援・服薬管理・社会適応を担う。再発の兆候を見逃さないよう観察が求められる。再発性はあるものの、寛解と再発を繰り返すパターンが多い。支援の時期は比較的限定されるが、再発への不安が常に付きまとう。
家族教育の重点病識・幻覚妄想への対応・服薬継続の理解・感情表出の適正化(Expressed Emotionの低減)が重要。気分の波への理解、自殺リスクの察知、共感的関わりが中心。患者の自己否定感への過干渉は逆効果になることも。

2. 心理社会的支援と社会復帰の道筋

観点統合失調症うつ病
就労支援の必要性長期離職が多く、就労へのハードルが高いため、IPS(Individual Placement and Support)など専門的就労支援が不可欠。寛解後の早期復職が可能な場合も多いが、職場ストレスへの再曝露が再発を招くため、慎重な復職支援が求められる。
リハビリテーション社会的スキル訓練(SST)や認知機能リハビリが必要。対人関係や感情制御に長期的介入が有効。自己効力感や対処スキルを高めるための認知行動療法(CBT)や職場適応訓練が中心。
ピアサポートの役割疾患を受容しにくい患者にとって、回復経験を共有することが回復モデルの形成に寄与。病後の社会的孤立や再発不安に対し、体験共有が安心感と自己受容を促進。

3. 経済的・制度的支援の違い

観点統合失調症うつ病
経済的支援の必要度長期療養が前提となりやすく、障害年金や生活保護の活用が持続的に必要なケースが多い。軽〜中等度であれば就労継続が可能なこともあり、短期的支援で十分なケースも。重症では同様の制度的支援が必要。
障害認定・手帳取得精神障害者保健福祉手帳の取得率が高く、福祉サービスとの連携が前提となる。取得に至らない例も多く、必要な支援にアクセスできないまま孤立することも。診断名が壁になる場合あり。

4. 結論:個別性と共通性をふまえた支援の統合的アプローチ

統合失調症とうつ病は、症状構造や経過の違いにより、支援の焦点も異なります。しかし、いずれにおいても「患者中心の包括的支援」と「家族への系統的な介入」は不可欠です。支援は、疾患の特性に応じた個別性を保ちながらも、疾患横断的なレジリエンス向上社会的包摂の視点を持つことで、より実効性の高いものとなるでしょう。


参考文献(追加)

  1. Mueser, K. T., & Gingerich, S. (2006). The Complete Family Guide to Schizophrenia. Guilford Press.
  2. Dixon, L. B., et al. (2010). Psychosocial treatments for schizophrenia. Schizophrenia Bulletin, 36(1), 48–70.
  3. Cuijpers, P., et al. (2011). Psychosocial treatment of depression: A meta-analytic review. American Journal of Psychiatry, 168(6), 581–592.
  4. Davidson, L., et al. (2006). Peer support among persons with severe mental illnesses: A review of evidence and experience. World Psychiatry, 5(1), 32–39.
  5. 日本精神神経学会 (2020). 『精神科医療における家族支援ガイドライン』.
  6. 厚生労働省. 精神障害者保健福祉手帳制度・障害年金制度の概要(最新版資料).

タイトルとURLをコピーしました