Chapter 4 – Causes of Psychopathology
2. 心理的適応性における進化的制約(続き)
他者の心的状態(mental states)を理解する能力は、
社会的相互作用を調整する上で非常に重要な、進化的に発達した心理メカニズムの一つである。
この能力は、幼児期後期から思春期にかけての発達過程で、
社会的文脈に応じた大幅な可塑性(plasticity)を伴いながら成熟していく。
人間は、「心の理論(Theory of Mind)」の発達に関して、
おそらく非常に“開かれた”プログラムを持っている。
この柔軟性は適応上の利点をもたらす一方で、
潜在的な機能不全的発達(dysfunctional development)のリスクも高めている。
心理病理学に対する他の潜在的リスク因子としては、
感染症(infectious disease)や長期にわたる病気(prolonged disease)がある。
感染症への脆弱性が高まることは、
特に周産期(perinatal period)において、
病原体や毒素(toxins)への曝露が増加することに関連している。
広義には、これらのリスク因子は、
現代環境と進化環境とのミスマッチ(mismatch)の産物とみなすこともできる。
たとえば、人口密度の増加は、
感染症の拡散率を高めることにより、
感染症関連のリスクを増大させた。
同様に、母親の体や母乳中に蓄積された毒素も、
現代に特有の問題となっている。
さらに、栄養失調(malnutrition)問題もまた、
とくに発展途上国において深刻な広がりを見せている。
これらの要因は、特定の仕方で脳発達に影響を及ぼす可能性がある。
適応的に遅延された小児脳(paedomorphic brain)は、
とくに前頭葉および頭頂葉皮質(prefrontal and parietal cortices)のミエリン化(myelination)を遅延させ、
これにより脳回路の可塑性(flexibility)が拡大する。
しかし、これは、感染性、情動性、毒性的要因による有害な事象(harmful events)への
脆弱性(greater vulnerability)という代償を伴う。
これらの要因が脳発達および神経回路に与えるタイミングと影響については、
依然として不明な点が多い。
異常な出生間隔(abnormal birth spacing)も、
心理病理学的リスクのもう一つのメカニズムである可能性がある。
ヒトにおいては、協力的な子育て(cooperative breeding)戦略の進化に伴い、
出生間隔(birth intervals)が何度も短縮されてきた。
しかし、出生間隔がさらに短縮され、
とくに栄養支援が不足している場合、
虐待(maltreatment)、ネグレクト(neglect)、虐待リスク(risk of abuse)は
著しく増加する可能性がある。
サイドノート:
小児脳の適応的な遅延発達は、
感情的・感染的・毒性的影響への脆弱性を高める一方で、
結果として脳回路の可塑性が高まる。年齢間隔の短縮は、栄養サポート不足と結びつくと、
虐待リスクを高める。
同様に、愛着スタイル(attachment styles)も、
遺伝子変異(genetic variation)によって媒介される可能性がある。
たとえば、ドーパミンやセロトニン受容体多型(receptor polymorphisms)は、
不安定な愛着(insecure attachment)と関連していることがある。
これらの遺伝的変異は、
予測不可能な環境条件下で、有利となり得る行動戦略を促進する場合もある。
つまり、進化的に有益な行動傾向と環境的条件との相互作用により、
心理病理学の発症が促進されることがあるということだ。
生物社会的需要(biosocial demands)は、
ライフヒストリー段階(life history stages)とともに変化する。
機能不全(dysfunction)のリスクは、
年齢と脳の成熟(brain maturation)に応じて変動する。
とくに、ライフヒストリーの特定の段階においては、
新しい適応的戦略への需要が最大化され、
そのために心理病理リスクが上昇する。
乳幼児期(early infancy)は、
親からの安全な資源確保(secure sufficiency)が最も重要な課題であり、
感情的にも身体的にも(emotionally and physically)、
生存をかけた資源確保が求められる。
幼児期から青少年期(childhood and youth)は、
知識(knowledge)、社会的規範(social rules)、対人相互作用スキル(interaction skills)の獲得が重要である。
青年期(adolescence)および若年成人期(early adulthood)には、
親族関係の強化(cementing peer relations)、配偶者獲得(finding a suitable mate)、
子どもを持つ(having children)ことが重要課題となる。
晩年(old age)では、
子や孫への知識の伝達(transmitting knowledge to the next generation)に重点が置かれる。
生殖および性的選択(sexual selection)は、
ライフヒストリー段階に応じてさまざまな影響を及ぼしてきた。
しかし、ライフヒストリー段階に特有の形質(traits)は、
現代においては有害な効果をもたらすこともある。
これを「バランス型多型(balanced polymorphism)」と呼ぶこともある。
このため、心理障害のリスクは、
ライフヒストリー上の重要な変化点(life stages with major changes)で高まることが予想される。
サイドノート:
ライフヒストリー段階の変化に伴う心理的課題は、
発症リスクを高める可能性がある。
特に、青年期から成人期への移行期は、
大きな社会的・心理的負荷がかかる。
3. 個々の精神病理的兆候・症状・症候群の概念化:概観
重要な問いは、
精神病理を説明するためにマクロレベルでの原因と最終原因(ultimate causes)を
個別の兆候や症候群にまで結び付けられるかどうかである。
より詳細な精神病理学の記述は、Chapter 5において提示されるが、
その前に、個々の兆候や症候群の意味についての基本的理解を深めておく必要がある。