Afterthought: 精神疾患予防の可能性について

Chapter 4 – Causes of Psychopathology
Afterthought: 精神疾患予防の可能性について


これらの例は、
精神病理学において、兆候(signs)や症状(symptoms)の認知的・感情的・行動的プロセスに対して、
生物学的(生得的、evolved)な意味を付与する重要性を示している。


精神病理現象の多次元的分析は、
患者の主観的な体験(patient’s subjective experiences)に対する理解を高めるだけでなく、

認知・感情・行動を社会的文脈(essentially social animals)のなかで分類する意義をも明らかにする。



Afterthought: 精神疾患予防の可能性について


精神病理学の負担を軽減するための最良の方法は、
その発現(manifestation)を防ぐことである、という点に疑いの余地はない。


精神疾患の表現型変異(phenotypic variation)が生じる仕組みについての理解は、
かつては優生学(eugenics)によって精神障害の発症を防ごうとする動きにも利用されかねなかったが、
現在ではこの考え方は完全に否定されている(Chapter 1参照)。


幸いにも、
環境条件(environmental conditions)は遺伝子(genetics)に比べてはるかに可塑的(malleable)であり、
予防措置(prevention measures)の対象として適切である。



そのため、
2004年の世界保健機関(WHO)報告書では、
障害調整生命年(DALY)に基づき、精神障害に対する一次予防(primary prevention)が
極めて重要な課題と位置づけられた。


現在、精神病理学の原因に関する知識の多くは先進国に基づいており、
発展途上国における精神障害の有病率については、まだ十分に知られていない。


しかし、
世界全体で現在およそ4億5千万人が精神疾患を抱えていることは、問題の深刻さを物語っている。



2020年までには、
うつ病(depression)だけで約3億人が影響を受けると推定されている。


また、現在、
主要死因の上位10項目のうち5項目が精神障害に関連しており、

うつ病は2020年には第2位に上昇すると予測されている(現在は第5位)。


さらに、
心理的苦痛(psychological distress)は心血管疾患(cardiovascular diseases)など
身体疾患のリスクを高めることも明らかになっている。



精神的健康の向上に効果的であると示された二つの戦略


  1. 精神的健康の促進(promotion of mental health)
  2. 精神障害の予防(prevention of psychiatric disorders)

これらは補完的なものであり、
前者はレジリエンス(resilience、精神的健康問題に対する耐性)を高めること、
後者はリスク要因(risk factors)を低減することを目指している。



理想的には、
一次予防(primary prevention)は、
特定の疾患単位(specifically increased risk)ではなく、
ポピュレーションレベル(population level)で実施されるべきである。



リスク因子のスクリーニングによる選択的予防(selective prevention)は、
特定の精神障害リスクが高い個体群(populations at risk)に対して行われる。


これは、
生物学的・心理学的・社会的リスク因子に基づく。


リスクが高いが、現時点では診断基準を満たさない者(individuals who meet risk indicators but not diagnostic criteria)を対象に、
発症・再発・悪化を防ぐことを目指している。



精神障害の予防や精神的健康の促進には、
リスク因子(risk factors)と保護因子(protective factors)の特定が不可欠である。


リスク因子とは、
発現(manifestation)、重症度(severity)、持続期間(duration)を悪化させる要素である。


対照的に、
保護因子とは、
レジリエンス(resilience)を高める要素であり、

自己効力感(self-esteem)、ポジティブな考え方(positive thinking)、問題解決能力(problem-solving skills)、
および社会的つながり(social competence)などが含まれる。



心理病理学的問題は、
多くの場合、
複数のリスク因子が存在し、保護因子が欠如している組み合わせにより生じる。


精神病理学におけるリスク因子は、
特定の疾患に特異的でない(non-specific)ことも多い。


たとえば、
貧困(poverty)、栄養不良(poor nutrition)、社会的差別(social discrimination)、
家庭内暴力(family-related risk factors)などである。



予防因子のなかでも、
安全な愛着(secure attachment)と社会的支援(social support)は
レジリエンスを促進する主要因である。



研究では、
思春期(adolescence)の母親が
低出生体重児(low birth weight infants)を早産(preterm delivery)するリスクが高いこと、
また子どもへの虐待リスク(abusing or maltreating their children)が高いことが示されている。


これらの進化的背景(evolutionary background)についてはChapter 3で詳述されているが、
こうしたリスク条件は、未来予測の不確実性(unpredictability of future prospects)と関連している可能性がある。



社会的に不利な若年母親を対象とした在宅支援プログラム(home visiting programmes)では、

・身体的虐待と身体的放置(reduction of physical abuse and neglect)の減少、
・青年期における非適応的行動の減少(reduction of maladaptive behaviours)、
・出生体重の改善(increased birth weight)、

などの効果が報告されている。



また、
第二子の出生も12か月遅れる傾向がみられた。


追跡調査(follow-up)では、
在宅支援を受けた子どもたちが、

・高いIQスコア(higher IQ scores)、
・薬物・アルコール問題の減少(reduction of drug and alcohol problems)、
・性的パートナー数の減少(reduction in number of sexual partners)、
・母親の雇用率の向上(increased employment of mothers)、

などの成果を示した。



これらの知見は、
進化的素因(evolutionary propensities)が精神病理に対して必ずしも免疫ではないことを示している。



抑うつ女性(depressed women)の子どもは、
約50%が抑うつ障害(depressive disorder)を発症するリスクを抱えている。


また、
抑うつ女性の過去には、
しばしば社会的孤立(social isolation)との関連がみられる。



これは、
過酷な状況下における適応的資源抽出戦略(opportunistic resource extraction)に起源を持つ、
進化的に保存された無意識的な(non-conscious)戦略が背景にあるかもしれない。


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