Afterthought: 胎児期の環境と心理社会的準備 (Prenatal Environment and Biopsychosocial Preparedness)
1. 胎児プログラミング(Foetal Programming)の概念
- 胎児期の環境は、出生後の子どもの発達に長期的な影響を及ぼす可能性がある。
- 例として、母親の妊娠中のうつや不安は、
- 子どもの出生体重の低下
- 早産
- 学齢期における行動上の問題(特に男児では注意欠如・多動傾向)
に関連しているとされる。
2. 出産前ストレスの影響
- 妊娠中期(特に22〜32週)に母親がストレスを受けると、子どもに
- 不安症状
- 外向的行動問題
- 注意欠陥問題 が現れやすくなる。
- また、母親のストレスが
- 胎盤機能やホルモン調節(特にHPA軸:視床下部-下垂体-副腎系) に影響を与え、子どものストレス反応を変化させることが示唆されている。
3. 脳発達への影響
- 胎児期の慢性的ストレス暴露は、
- 海馬の縮小
- HPA軸の過敏化
- 不安傾向の増大 に関連する可能性がある。
- 特に、妊娠後期(脳の成長が著しい時期)にストレスがかかると、
胎児・新生児の脳はストレスの影響を受けやすくなる。
4. 生態学的視点からの解釈
- このような胎児プログラミングの影響は、
- 環境が不安定で危険な場合(=r選択戦略的環境) に適応的だった可能性がある。
- つまり、不安や警戒心の高い行動傾向を胎児期に準備させることで、
過酷な環境において生存確率を高めた、という考え方です。
5. 興味深い例
- ニューヨーク市のテロ(9.11)後、妊娠中にテロを経験した母親の女児では、
- 出生時体重が特に低下していたというデータがある。
- これは、「トリヴァース=ウィラード仮説」(Chapter 1参照)と関係している可能性がある。
(※トリヴァース=ウィラード仮説:母親の健康状態や環境に応じて、性別や子孫投資戦略が変わるという進化生物学の仮説)
文中の斜体部分まとめ
- ポイント1
“The contemporary devaluation of the elderly may not be the case in hunter-gatherer societies…”
→ 現代の高齢者の社会的価値低下は、狩猟採集社会では見られなかったかもしれない。 - ポイント2
“In cross-cultural comparison, approximately two-thirds of children are securely attached…”
→ 文化横断的に見ても、安定型愛着は多数派である。
ここまでで、
- 胎児期〜出生直後〜幼少期〜思春期〜成人期〜生殖後期
という、人間のライフヒストリーの全ステージが、 - 生態学的条件
- 進化的選択圧
- 心理社会的発達
とどう関わっているかが一貫して描かれてきました。