EVOP 進化精神医学教科書043 Chapter 4 – Causes of Psychopathology3. 個々の精神病理的兆候・症状・症候群の概念化:概観(続き)

Chapter 4 – Causes of Psychopathology
3. 個々の精神病理的兆候・症状・症候群の概念化:概観(続き)


精神障害の伝統的な概念化と分類(traditional conceptualizations and classifications)は、
進化論的(evolutionary)観点からの神経科学的証拠と十分に整合していないことが多い。


また、個々の兆候(signs)と症候群(syndromes)の意味を、
認知-感情-行動単位(cognitive-emotional-behavioural units)の機能的な統一性として捉える努力も、
これまで十分とは言えなかった。



まず、“意識(consciousness)”という用語についてだが、
精神医学においては多様な意味合いを持っている。


意識とは、覚醒(wakefulness)と警戒(vigilance)、
そして自己の反射的認識(reflexive awareness of the self)を包含する広い概念だ。


これらの異なる側面は、
異なる、かつ広範に分離された脳システムにより支持されている(supported by different brain systems)。



たとえば、
生存上の利点(advantages in terms of survival)として、

覚醒と警戒は、
捕食者(predators)から逃れる能力を向上させる。


こうした注意力のメカニズムは、
進化上古い脳幹構造(evolutionarily ancient structures)によって維持されている。


この領域に病変(lesions)が生じると、
昏睡(coma)に至ることがある。



より進化的に新しい能力として、
自己に対する認識(awareness of the self)、すなわち、

身体状態(somatic states)、感情(emotions)、思考(thoughts)について
内部的表象(internal representations)を持つ能力がある。


また、“主体性(agency)”の体験も、
進化史的に古い脳システムとは大きく異なっている。



人間における自己反省(self-reflection)は、
近縁種にも部分的には見られるが、
(たとえば、一部の霊長類は鏡像自己認知を持つ)

人間では圧倒的に高度に発達している。



人間は、他者の願望(desires)や計画(plans)、考え(thoughts)を認識し、
それに応じた内的表象を構築できる。


この能力が、人間特有の高度な社会性と自己認識を可能にしている。



しかしながら、
自己の主体性を意識的に反映する能力は、

自己意識(self-conscious awareness)と密接に関連しているため、
障害されると重大な心理病理的兆候となることがある。


たとえば、他者の心的状態を正確に表象できない場合、
誤った解釈(misinterpretations)が生じ、

これが妄想(delusions)や無秩序な思考(disorganized thought)として現れる場合がある。



また、
自己の発話(own inner speech)を外部からの命令(external command)と誤認することもある。

これにより、
自己行動に対する制御感覚(sense of control over one’s behaviour)が失われることがある。


これについてはChapter 2で述べた通り、
自己反映的能力(self-reflective abilities)は、

社会的環境(social environment)への適応的応答として進化してきたと考えられる。



さらに、空間的・時間的定位(orientation in space and time)もまた、
独立して進化した可能性がある。


たとえば、鳥類における季節移動(seasonal migration)は、
主に空間情報の符号化と回収(retrieval of location)によって支えられている。


霊長類においては、
空間的定位は資源探索行動(foraging behaviour)に不可欠だったと考えられる。



霊長類は、特に最も資源の少ない場所において、
最も成功した種となっている。


彼らは、経験豊富な個体(experienced individuals)の模倣(imitation)を通じて、
エネルギー豊富な資源(nutrients)を見つけることができた。



このため、
この種の情報にはセマンティック記憶(semantic storage capacity)が必要である。


意味記憶(semantic memory)は、
長期間にわたって蓄積された情報を保持し、

それが将来の生存(future survival)に寄与する。


エピソード記憶(episodic memory)、すなわち過去出来事の主観的経験(subjective experience of past events)も、
ヒト特有の進化的能力とみなされている。


これにより、
自己および他者の心的状態を再表象する能力がさらに高まったと考えられる。



方位喪失(loss of orientation)や記憶喪失(memory loss)は、
とくに認知症(dementia)の様々な型において、
深刻な影響を及ぼす。



精神病理学的観点(psychopathological point of view)から見ると、
“正常な”対応物(‘normal’ equivalents)に基づいて症状を再分類することは有益である。


たとえば、
道具使用行動(proskinetic behaviours)や模倣行動(echophenomena)は、
適応的行動の病理的変異(pathological variants of adaptive behaviours)と理解できる。



対照的に、
無気力(akinetic)および緊張性無動(cataleptic)症状は、
自己保存行動(self-defensive behaviour)の障害として説明できるかもしれない。


たとえば、
運動葛藤(motivational conflict、例:闘争・逃走反応)の際に観察されるようなものだ。



非言語的行動(non-verbal behaviours)をエソロジー観察法(ethological observation)で体系的に分類することは、
精神病理学における重要な進展であった。



症候群レベル(syndromal level)では、
気分障害(mood disorders)やそれに関連する行動は、

誇張された(exaggerated)あるいは異常な(maladaptive)防衛機制(defense mechanisms)として理解できる。



たとえば、
うつ病(depression)では、
社会的ストレス(social stress)や孤立(social isolation)に対する応答として、

無力感(helplessness)と逃避不能感(inescapability)が誇張されて現れる。



反芻(rumination)や自己評価低下(self-devaluation)は、
サブミッション行動(submissive behaviours)の進化的変異(pathological variants)とみなすことができる。


もっと重篤な場合(severe forms of depression)には、
患者は凍り付いたような行動パターン(catatonic stupor or ‘freezing’ behaviour)を示す。

これは、捕食者からの脅威(predation threat)にさらされた場合に進化的に形成された行動戦略かもしれない。



興味深いことに、
多くの解離性症状(dissociative signs and symptoms)もまた、
同様のメカニズムによって説明できるかもしれない。



タイトルとURLをコピーしました