非定型うつ病についての議論 非定型症状 逆植物症状 拒絶過敏 双極性成分

要約

以下概観するが、
1.逆植物症状は指標になるか
2.双極性障害との関係
このあたりが重要と思われる。

そもそもは、三環形抗うつ剤が効かない、MAOIが効く、という一群がありそうで、統計的に処理したら、非定型症状(食欲増加、過眠、鉛様麻痺、対人関係の拒絶への敏感さ)気分の反応性(良い出来事に気分が反応する)という、鑑別診断に使える項目が見つかったということで、これは大きな功績だった。症状で鑑別して、薬が決まるというのだから、理想的である。

しかし、SSRIの時代になって、三環系もMOAIも使わなくなった。もともと日本ではMOAIは認可されていない。SSRIでいいようだとの印象はある。
現在症状でうつ病と非定型うつ病鑑別して、MOAIを使って、よい治療ができるというビジョンはいまはあまり通用しない。

双極性障害と単極性うつ病、さらにその周辺の鑑別が話題になった時代があって、双極性障害のうつ病期によくみられるとか、あるいは、躁うつ混合状態状態の一部が非定型うつ病にあたるのではないかとかの話が出た。いまは下火。

病前性格との関係も議論に上がり、自己愛性格とか未熟型とかの性格傾向と結合させて、病像を理解しようとする試みはあるが、広く肯定されたものとはなっていない。

全体として、現状で、何が非定型うつ病かの定義が不明確で、それぞれが提唱しているのだから、論じるとしても難しい。

個人的には満田の非定型精神病論を基にした非定型うつ病論が好きだが、国際的にはあまり話題にならない。このページの最後で紹介する。


各種の主張

1. Columbia大学グループの主張

  • 主張: 非定型うつ病は、軽症で慢性経過をたどる非内因性うつ病であり、MAOIが特異的に奏功する病態である 。
  • 背景:
    • 従来のうつ病概念では説明できない、MAOIが有効な軽症慢性うつ病群の存在が明らかになった
    • 定型うつ病(TCAが奏功する内因性うつ病)との鑑別を重視した 。
  • 鑑別ポイント:
    • 気分の反応性(良い出来事に気分が反応する)の存在 。
    • 非定型症状(食欲増加、過眠、鉛様麻痺、対人関係の拒絶への敏感さ)の存在 。
    • メランコリー性、緊張病性の特徴の除外
  • 理論的問題点:
    • 気分の反応性と非定型症状群の関連性が低い 。
    • 非定型症状群の内部関連性が低い 。
    • 症状学的まとまりに欠ける 。

2. New South Wales大学グループの主張

  • 主張: 非定型うつ病は、軽症で慢性経過をたどる非メランコリー性うつ病であり、不安症状と対人関係における拒絶過敏性が重要な特徴である 。
  • 背景:
    • Columbia大学グループとは異なり、MAOIの有効性を重視しない 。
    • 不安症状とうつ状態の関連性を重視し、不安がうつ状態に先行するという考え方をとる 。
  • 鑑別ポイント:
    • 対人関係における拒絶過敏性の存在 。
    • 不安・恐怖症状の存在 。
    • 気分の非反応性をメランコリーの指標としない 。
  • 理論的問題点:
    • Columbia大学グループとの間で、非定型うつ病の定義やメランコリーの捉え方に違いがある。
    • 方法論の違いから、両者の対話が十分に進んでいない 。

3. Pittsburgh大学グループの主張

  • 主張: 非定型うつ病は、過眠、食欲増加などの非定型(逆)の植物症状と鉛様麻痺を特徴とするうつ状態で、双極性障害のうつ状態の標徴である 。
  • 背景:
    • 双極性障害のうつ病態に関心が高まる中で、非定型症状が双極性障害の重要な特徴であることが示唆された 。
    • Pollittによる「うつ病性機能転換」の概念を発展させ、逆植物症状を重視する 。
  • 鑑別ポイント:
    • 過眠、食欲増加、体重増加、性欲増加などの逆植物症状の存在 。
    • 鉛様麻痺の存在 。
    • 双極性障害の病歴または家族歴 。
  • 理論的問題点:
    • 単極性うつ病との鑑別が難しい場合がある 。
    • 鉛様麻痺の概念が時代とともに変化しており、評価が難しい 。

4. ソフト双極スペクトラム研究グループの主張

  • 主張: 非定型うつ病は、軽微で短期間の気分の動揺(mood swing)を示すソフト双極スペクトラムの標徴である 。
  • 背景:
    • 双極II型障害やソフト双極スペクトラム障害の概念が提唱される中で、非定型うつ病がこれらの病態と関連する可能性が示唆された 。
    • 従来の単極性/双極性の二分法にとらわれず、連続的な病態として捉える 。
  • 鑑別ポイント:
    • 軽微で短期間の気分の動揺の存在 。
    • 双極性障害の病歴または家族歴 。
    • 他のソフト双極スペクトラム障害の症状の合併 。
  • 理論的問題点:
    • 従来の単極性うつ病との境界が不明確になる場合がある 。
    • ソフト双極スペクトラムの概念自体が議論の余地がある 。

全体的な問題点

  • 非定型うつ病の定義が研究グループによって異なり、統一的な見解が得られていない 。
  • DSM-IVにおける定義の拡大により、疾患単位としての妥当性が失われつつある 。
  • 今後の診断基準の見直しと、それに基づいた臨床研究の積み重ねが求められている 。


うつ病性機能転換(depressive conversion)

「うつ病性機能転換(depressive conversion)」という概念は、Pollitt(たとえば、J. Pollitt)によって提唱された独特な精神病理学的視点の一つであり、身体症状や行動の変化を通じて抑うつ状態が表現されるメカニズムを指します。

1. 背景と意味

Pollittは、うつ病の症状が必ずしも明瞭な抑うつ気分として表現されるわけではなく、むしろ他の形に「転換」されて表現されることがあると述べています。ここでの「転換(conversion)」とは、古典的なヒステリーにおける身体転換(conversion disorder)を想起させる用語であり、内的葛藤や情緒的苦痛が身体的または行動的な症状に置き換えられることを意味します。

2. うつ病性機能転換の特徴

Pollittによれば、以下のような形で抑うつが転換されることがあります:

  • 行動的転換:たとえば、突然の退行的行動、日常的活動の停止、極端な無関心など。
  • 身体的転換:原因不明の痛み、運動障害、感覚障害などが現れるが、器質的病因は認められない。
  • 対人関係の変化:対人関係の劇的な退避、過度な依存、反抗的態度への変化など。

3. 臨床的意義

この概念の重要な点は、抑うつが「非抑うつ的」に表現される可能性を強調している点にあります。つまり、気分の落ち込みや悲哀といった典型的な抑うつ症状が乏しい場合でも、背景に抑うつ状態が潜在している可能性を見逃さないことが重要だという示唆を含んでいます。

4. 関連概念との比較

  • フロイトの転換ヒステリー(conversion hysteria):内的葛藤が身体症状として現れるという意味では類似。
  • アレキシサイミア(失感情症)との関連:感情を認識・表出できない人が身体症状を通じて心理的苦悩を表す。
  • 仮面うつ病(masked depression):身体症状や不定愁訴が中心で、抑うつが「マスク」されている状態。

補足:Pollittに関する情報

Pollittは、児童精神医学や小児期の精神病理に関する論考で知られており、この「うつ病性機能転換」の概念も、子どものうつ病の理解に関連して語られることが多いです。


逆植物症状


1. Pollittの「うつ病性機能転換」の要点再確認

Pollittの考えでは、うつ病の核心的な感情(悲哀、無価値感など)が直接には表現されず、身体的・行動的な症状に「転換」されて表れるとされます。これはとくに小児や青年、またはアレキシサイミア傾向の強い患者で顕著とされます。

たとえば:

  • 突然歩けなくなる(運動機能の変化)
  • 声が出なくなる(失声)
  • 食欲亢進や睡眠過剰(典型的ではない抑うつ像)

2. 「逆植物症状」とは何か?

一般に、うつ病では以下のような**植物性症状(自律神経系の異常)**が伴うとされます:

  • 食欲低下
  • 体重減少
  • 早朝覚醒
  • 性欲減退
  • 便秘

これに対し、**「逆植物症状(逆向きの自律神経症状)」**とは、通常とは逆の反応を指し、たとえば:

  • 過食
  • 体重増加
  • 過眠
  • 過度な倦怠と休息への欲求
  • 性欲亢進(まれだが報告あり)

3. どう発展させるのか?

Pollittの「うつ病性機能転換」では、抑うつの感情が行動・身体機能に「転換」されるとされました。これをさらに発展させて、「逆植物症状を重視する」ということは、抑うつの本質的な苦悩が、“植物性機能の過剰化”として転換されて表現される可能性があるという仮説です。

その意味するところ:

  • 「うつ病だから食欲がない」は固定観念。
  • 実際には、過食・過眠・無気力の過剰化が、その人なりの苦悩表現(function conversion)である場合もある。
  • とくに若年者や発達特性を持つ人、高齢者、文化的抑圧の強い人では「逆」の形で表出されることがある。

4. 臨床的意義と応用

この視点の臨床的意義は大きいです:

  • 抑うつ感情の**非典型的表現(atypical depression)**を理解できる。
  • 身体症状が主体の患者を「身体表現性障害」や「仮面うつ病」として排除せず、より深くうつ的構造の多様性を読み解くことができる
  • 精神病理を“感情→身体”という単線的理解にとどめず、双方向・変換可能な現象として捉えることが可能になる。

その後の、逆植物症状の研究

近年、うつ病における「逆植物症状(reversed vegetative symptoms)」—具体的には**過眠(hypersomnia)過食(hyperphagia)**など、典型的なうつ病症状とは逆の自律神経症状—に注目した研究が進展しています。以下に、その主要な研究動向をまとめます。


1. 逆植物症状の臨床的意義と診断基準の簡素化

従来、DSM-IVでは「非定型うつ病(atypical depression)」の診断において、気分反応性や対人関係の過敏性など複数の基準が求められていました。しかし、近年の研究では、過眠と過食の2症状のみでも非定型うつ病を特定できる可能性が示されています。

ある研究では、DSM-IVの基準を満たす非定型うつ病患者の86%が、過眠と過食の2症状のみでも特定可能であり、感度77.7%、特異度90.5%という高い診断精度が報告されています。

このような簡素化された診断基準は、特にプライマリケアの現場での迅速なスクリーニングや早期介入に有用であると考えられています。


2. 逆植物症状の疫学的特徴と臨床的リスク

大規模なコミュニティ調査によると、逆植物症状のみを呈するうつ病患者は、若年層、女性、双極性障害との関連性が高いことが示されています。

また、これらの患者は、自殺念慮、薬物依存、幼少期のトラウマなどのリスク因子を多く抱えている傾向があります。

一方で、逆植物症状を持つ患者は、典型的なうつ病症状を持つ患者と比較して、社会的支援が乏しく、回復までの期間が長いことも報告されています。


3. 逆植物症状の安定性と再発時の傾向

逆植物症状は、うつ病の再発時にも比較的安定して現れることが確認されています。

ある研究では、逆植物症状を持つ患者の90%が再発時にも同様の症状を呈しており、これらの症状が個々の患者のうつ病の特徴的な表現型である可能性が示唆されています。


4. 生物学的基盤:腸内細菌叢との関連

日本の研究では、うつ病患者の腸内細菌叢に特有の変化が見られることが報告されています。 (うつ病患者に特徴的な腸内細菌叢の異常を解明し、腸内細菌叢の組成データからうつ病リスクを推定する新たな方法を開発 -うつ病の病因解明と早期発見に向けて- | シンバイオシス・ソリューションズ株式会社のプレスリリース)

特に、水素産生菌の減少が確認されており、これが脳内の炎症抑制に影響を及ぼし、うつ病の発症や症状の持続に関与している可能性があります。 (うつ病患者に特徴的な腸内細菌叢の異常を解明し、腸内細菌叢の組成データからうつ病リスクを推定する新たな方法を開発 -うつ病の病因解明と早期発見に向けて- | シンバイオシス・ソリューションズ株式会社のプレスリリース)

このような腸内細菌叢の異常は、逆植物症状を呈するうつ病患者に特有の生物学的マーカーとなる可能性があり、今後の研究が期待されています。


5. 高齢者における逆植物症状の重要性

高齢のうつ病患者においても、逆植物症状や対人関係の過敏性が見られることがあり、これらの症状は若年の非定型うつ病患者と類似した臨床像を示すことが報告されています。

高齢者では、これらの症状が見逃されやすいため、逆植物症状の評価が診断と治療計画において重要であるとされています。


まとめ

  • 逆植物症状(過眠・過食)は、非定型うつ病の重要な指標であり、診断の簡素化や早期介入に寄与する可能性があります。
  • これらの症状は、特定のリスク因子や生物学的基盤と関連しており、個別化された治療戦略の構築に役立つと考えられます。
  • 高齢者においても逆植物症状の評価が重要であり、年齢に関係なくこれらの症状に注目する必要があります。

今後の研究では、逆植物症状の生物学的メカニズムの解明や、それに基づく新たな治療法の開発が期待されています。


以下に、非定型精神病および逆植物症状とうつ病に関する重要な論文を、それぞれ5つずつご紹介します。これらは、インターネット上で無料でPDF形式で入手可能なものです。


📘 非定型精神病に関する重要論文(PDF入手可)

  1. Understanding Psychosis and Schizophrenia
    英国心理学会が発行した報告書で、精神病の理解と対応について詳述されています。
    PDFをダウンロード
  2. Psychosis
    知的障害を持つ個人における精神病についての研究で、診断や治療の課題が論じられています。
    PDFをダウンロード
  3. Dealing with Psychosis: Full Workbook
    ワシントン州保健社会サービス局による、精神病の対処法をまとめたワークブックです。
    PDFをダウンロード
  4. Understanding Psychosis
    NAMIミネソタ支部が提供する、精神病の理解と回復に関するガイドです。
    PDFをダウンロード
  5. Cognitive Behavioral Therapy for Psychosis: Intensive Training Handouts
    NEOMEDが提供する、精神病に対する認知行動療法のトレーニング資料です。
    PDFをダウンロード

🌿 逆植物症状とうつ病に関する重要論文(PDF入手可)

  1. Reversed Neurovegetative Symptoms of Depression: A Community Study of Ontario
    過眠や過食などの逆植物症状を持つうつ病患者の地域調査です。
    PDFをダウンロード
  2. Depressed Older Patients with the Atypical Features of Interpersonal Rejection Sensitivity and Reversed-Vegetative Symptoms
    高齢のうつ病患者における逆植物症状と対人関係の過敏性についての研究です。
    全文を読む
  3. Neurovegetative Symptom Subtypes in Young People with Major Depressive Disorder and Their Structural Brain Correlates
    若年のうつ病患者における神経植物性症状のサブタイプと脳構造との関連を調査した研究です。
    全文を読む
  4. Atypical Depression Spectrum Disorder – Neurobiology and Treatment
    非定型うつ病の神経生物学的背景と治療についてのレビューです。
    全文を読む
  5. Sequence of Improvement in Depressive Symptoms Across Cognitive Therapy and Pharmacotherapy
    認知療法と薬物療法におけるうつ病症状の改善順序を比較した研究です。
    全文を読む

満田久義(みつだ ひさよし)の「非定型精神病論」は、日本の精神医学における独自の視座を提供した重要な業績の一つです。彼の理論は、従来の「定型的」な精神病(たとえば古典的な統合失調症や躁うつ病)に当てはまらない、しかし確かに臨床に存在する多様な病態を記述するために展開されました。この「非定型精神病」という枠組みを用いて「非定型うつ病」を考察することは、単なる症候の羅列では捉えきれない人間存在の深層に触れる営みでもあります。


◆ 満田の非定型精神病論の概略

満田の非定型精神病論は、主に以下の点を特徴とします。

  1. 発症の急性性と可逆性
     発症は突然であるが、寛解も比較的速やかで、長期の人格変化を残さない。
  2. 多様な症状構成
     一人の患者において、統合失調症様、躁うつ病様、神経症様の症状が時間的に推移することがある。
  3. 病前性格との関連性の薄さ
     病前性格が病像を説明しきれない。
  4. ストレスとの関連
     精神病的病像であっても、ストレス因との時間的関係が明瞭であることが多い。

これらの特徴は、精神病と神経症の中間にあるような病態群、あるいは両者を横断するような「流動的精神病像」として捉えることが可能です。


◆ 非定型うつ病とは何か

「非定型うつ病」(Atypical Depression)は、DSM-5などではうつ病の「特徴的様式(specifier)」の一つとして定義されており、以下のような症状が特徴です。

  • 気分反応性(良いことがあれば一時的に気分が上がる)
  • 過眠
  • 過食
  • 拒絶過敏
  • 四肢鉛様麻痺感

しかし、これらの診断基準は「うつ病のヴァリアント」としての記述に留まり、精神病水準の深さや変容性にはあまり焦点を当てていません。ここで、満田の非定型精神病論の視点を導入することで、非定型うつ病の「構造的理解」が可能になります。


◆ 非定型精神病論に基づく非定型うつ病の理解

1. 多彩で可変的な病像

非定型うつ病は、時にうつ病性の沈滞と不安、時に神経症的な回避や過敏さ、あるいは一時的な高揚や解離的傾向すら示すことがあります。このような「症状の変容性」は、満田が述べた非定型精神病の特徴と一致します。

2. ストレスとの関連性

非定型うつ病は、対人関係ストレス、特に拒絶や孤立といった社会的な痛みに敏感に反応します。これは満田のいう「ストレス感受性の高さ」と「病像形成への影響の大きさ」と合致します。反応性の高いうつ状態が、内因的な「メランコリー型うつ病」と異なる質を持っていることが浮き彫りになります。

3. 一過性・可逆的な経過

非定型うつ病では、気分の揺れが大きく、エピソード的に症状が出現・消失することがあります。これも満田の「可逆的精神病像」という視点と一致します。

4. 人格変化を残さない

長期的にみても、非定型うつ病の患者は統合失調症のような持続的な人格変化を呈さないことが多いです。これもまた、満田の「非定型精神病=回復しうる存在」とする考えと響き合います。


◆ 人間学的視点からの補足

非定型精神病論が重要なのは、精神病を「構造」や「診断名」に還元するのではなく、存在の流動性、歴史性、関係性のなかで捉え直そうとした点です。非定型うつ病の患者が示す「拒絶への過敏さ」「他者との関係の中でゆらぐ自己感覚」は、まさに人間存在の深みに触れる問いです。

これを実存的に言い換えるならば、「非定型うつ病とは、存在の安定を求めながらも、それを裏切る関係性のなかで自己を見失ってゆく苦悩」とも言えるでしょう。そこでは病と健康の境界は曖昧であり、時間的にも断絶せず、むしろ生活史のなかで連続的に浮上する「意味の危機」として理解されるべきです。


◆ 結語

満田の非定型精神病論は、非定型うつ病のような診断カテゴリーを、より柔軟で深い仕方で理解するための鍵を提供します。それは、精神病理を「構造物としての病」ではなく、「変化しゆく人間の姿」として受け止めることです。

非定型うつ病とは、もはや「うつ」の異型ではなく、人間関係における傷つきやすさと存在の不安が、時に精神病的に噴出するような病理なのかもしれません。そしてそれは、精神療法や関係性のなかで、ゆっくりと癒され、変容しうるものでもあるのです。


このようにまとめるとき、「非定型うつ病」として、DSMによる定義を引用しているので、話が分かりにくい。

私なりの理解を述べる。
・クレペリンの時代に、精神病の分類を試みたが、症状で分類するのは無理そうだった。
・最初はみんな不眠、不安などで、次第にそれぞれ固有の症状が出て、最後はみんな人格水準低下に至ると観察された。
・それが理由で、単一精神病論もあった。
・クレペリンは、長期経過に着目した。すると、精神病は、「持続して段階的に増悪してゆくもの」(早発性痴呆タイプ、つまりシゾフレニー)と「循環して繰り返し、中間地点では正常に戻るもの」(循環病タイプ、つまり双極性とか単極性うつ)とが割れられた。
・それぞれの中核症状としてシゾフレニーは自我障害、被害妄想、幻聴。循環病タイプは気分障害。このような対応があった。ただし、シゾフレニーでも気分障害は見られるし、循環病でも妄想は見られるので、決定的な鑑別点ではない。むしろ、長期経過を鑑別点とした。

このような成果が得られた中で、
・長期経過は長期段階的増悪型、症状は気分障害、という一群がある。
・長期経過は循環型で、症状は自我障害、被害妄想、幻聴、という一群がある。
当時は、てんかんも、激しい精神症状を呈するので、てんかんも考慮し、また、女性の月経周期との関連も観察されるなどして、これらを統合して論じたのが、満田の論議であったと、個人的にはとらえている。

そこで、非定型うつ病について、論じるとすれば、「長期経過は長期段階的増悪で、症状はうつ型の気分障害」のものがそれにあたる。
その場合の、症状の特徴、特定の症状が併存しやすい理由、各症状の現れるタイミング、などを論じ、治療について論じることになる。

自我障害・被害妄想・幻聴気分障害
段階的増悪シゾフレニーX
循環型Y双極性・単極性

Xには暫定的に非定型うつ病が入る。
Yには暫定的に非定型精神病が入る。

というのが、個人的な意見である。

しかしそもそも最近では、双極性障害は遺伝的に単極性障害と遠く、シゾフレニーに近いとの結果が出ている。だから、気分の障害でも、双極性障害と単極性障害は別のものであって、このように同じ箱に入れるのは問題がある。

しかし私の考えでは、単極性うつ障害については、双極性障害が基本で、「躁状態先行仮説」を採用しているので、このように同じ箱に入れることも理由がある。

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