🔶必須精神力動的心理療法の基本技術
―初心者のための導入と実践的理解―
1. はじめに:この講義の目的
- 精神力動的心理療法とは何かを理解する
- セラピストとしての「技術」だけでなく「在り方」に焦点を当てる
- クライアントと「深く向き合う」ための視点と基本的態度を学ぶ
2. 精神力動的心理療法とは?
🧠定義
- 無意識の働きや過去の経験が現在の行動・感情に影響を及ぼすという前提に基づいた心理療法
🔍主な特徴
- 長期的・関係性重視
- 自己理解の深化と人格の成長を目的とする
- 「症状の背景」にある人間全体に注目
3. 心理療法の2つの主要な目的
目的 | 内容 |
---|---|
① 苦痛の軽減 | 不安・抑うつなどの症状を軽くする |
② 人間的成長 | 自己理解と関係性の改善を通じて豊かに生きる力を育む |
精神力動的療法は特に②を重視!
4. セラピストとしての最初の壁
❗️新人が感じること
- 「どうすればいいかわからない」
- 「何か話さないと」「助けなきゃ」という焦り
- 自分の不安が強くなり、相手に集中できない
🔑対処法
- まずは「聴く」ことに専念
- 成功よりも「共にいること」を重視
- スーパービジョン・自己省察・実践の繰り返しが不可欠
5. 習得される芸術:技術ではなく“在り方”
🎨なぜ「習得される芸術」なのか
- 技法は知識として学べるが、治療的関係を築く力は経験を通じてしか身につかない
- 自分の「不安」や「コントロールしたい衝動」と向き合う必要がある
💡ポイント
- 時間がかかる(5年、10年単位)
- 内面化された知恵・態度こそが「技術」の土台となる
6. 深く聴くということ:調律のプロセス
🎧「聴くこと」は技術ではない
- ただ言葉を聞くだけではない
- 感情・沈黙・身体感覚も含めて「相手を感じる」
🔁3段階のプロセス
- クライアントが「何かを発信」
- セラピストが自分の内面でそれを受け取り、解釈
- 応答する(必ずしも言葉とは限らない)
「調律」とは、母子の関係に似た、非言語的・共感的な応答のプロセス
7. 初心者が陥りやすい罠とその乗り越え方
よくある行動 | 背景 | 望ましい対応 |
---|---|---|
アドバイスをしたくなる | 無力感の回避 | 感情を共に体験する姿勢を持つ |
沈黙を避けようとする | 不安・焦り | 沈黙に「意味」があることを理解する |
早く成果を出そうとする | 評価への恐れ | 関係性の深まりを信じて待つ |
8. 他のアプローチとの違い
比較項目 | CBT(認知行動療法) | 精神力動的療法 |
---|---|---|
期間 | 短期 | 中長期(場合によっては年単位) |
焦点 | 症状の改善 | 人格全体への理解と成長 |
方法 | 問題解決的・構造的 | 関係性重視・探索的 |
評価基準 | 行動の変化 | 自己理解の深さと持続的変容 |
9. 治療関係の力:共に在ること
- 真の変容は「共にいる関係性」から始まる
- セラピストが急がず、操作せず、ただ存在することに意味がある
- 「あなたの痛みはここにあってよい」というメッセージを伝えること
10. 結び:これからの学びに向けて
✨セラピストとして大切な心構え
- 自分自身の「わからなさ」を受け入れる
- クライアントの苦しみを「共に経験する覚悟」を持つ
- 技術だけでなく「自己の成熟」が不可欠
この道は長く、時に迷いもある
しかし、それはあなたが深い人間になる旅でもある
推奨アクティビティ(演習用)
- 「ただ聴く」ことを5分間、実際にペアで練習してみる
- 沈黙を含めた会話を録音・振り返り、感情の動きに気づく
- 自分が「何か言いたくなる瞬間」を記録し、その理由を考察する