強迫性障害の進化的仮説 ポイント解説

論文「強迫性障害の進化的仮説:心理的免疫システム?」は、強迫性障害(OCD)がなぜ人間の中に存在するのかについて、新しい視点を提供しています。以下でポイントを分かりやすく解説します。

論文の主要なポイント

1. 強迫性障害(OCD)を「進化的」な視点から見る

  • この論文は、OCDが単なる病気ではなく、進化の過程で人間が獲得した「適応」の一部が、何らかの理由で過剰に働いてしまった結果ではないかと考えています。
  • 「究極的因果関係」という言葉が使われますが、これは「なぜ私たちは特定の性質を持つのか(進化の観点から)」という意味です。つまり、OCDの症状が、祖先の時代に生き残る上で役立つ何らかの機能を持っていたのではないか、と問いかけています。

2. 「心理的免疫システム」としての強迫現象

  • 論文では、強迫観念(頭から離れない不安な考え)や強迫行為(繰り返し行われる行動)を、私たちの心の中にある「心理的免疫システム」のようなものだと例えています。
  • 体の免疫システムが、目に見えない病原体から体を守るように、心の免疫システムは、将来起こりうる危険から私たちを守るための「リスクシナリオ生成システム(IRSGS)」として働いているのではないか、と提案しています。

3. 「オフライン」のリスク回避メカニズム

  • 不安や恐怖は、目の前にある危険からすぐに身を守るための「オンライン」(即時的)な反応です。
  • 一方で、強迫観念は、まだ起こっていないけれど「将来起こるかもしれない」危険を予測し、それに対処するための行動を計画する「オフライン」(事前の準備)のメカニズムだと説明されています。つまり、仮想的な危険を頭の中でシミュレーションし、それに対する対策を練る練習のようなものです。

4. 適応的な機能が過剰に働くとOCDになる

  • このIRSGSが正常に機能していれば、私たちは実体験をすることなく、危険を予測し、それを避ける方法を学ぶことができます。これは、祖先の時代には生存に非常に有利な能力だったはずです。
  • しかし、このシステムが「過剰に活動」してしまうと、些細なことでも過度に危険だと感じたり、必要以上の繰り返し行動をしてしまったりして、OCDの症状につながる、というのがこの論文の主な仮説です。

5. 他の精神疾患との関連性

  • PTSD(心的外傷後ストレス障害):OCDと同様に、過去のトラウマ体験が侵入的な思考やイメージとして繰り返されることから、PTSDもこのIRSGSの過活動と関連している可能性が示唆されています。トラウマが、将来のリスクを避けるためのシステムを過剰に活性化させてしまう、という考えです。
  • 反社会性パーソナリティ障害(APD):逆に、このIRSGSの活動が「低い」場合、危険を予測したり回避したりする能力が低く、無謀な行動や反社会的な行動につながる可能性がある、という予測もされています。

6. 検証可能な予測の提示

  • この論文は、単なる仮説だけでなく、この考えが正しいかどうかを実験などで確かめることができる具体的な予測をいくつか提示しています。例えば、反社会性パーソナリティ障害の人は、社会的な内容の強迫観念が少ないだろう、といった予測です。

初心者への解説

私たちが普段、何か心配事があると何度も確認したり、特定のやり方にこだわったりすることがありますよね。例えば、鍵を閉めたか何度も確認したり、手が汚れた気がして何回も洗ったり。このような行動は、誰にでも多少はあります。

この論文は、「なぜ人間は、そんな心配性の気持ちや、何かを繰り返してしまう行動をするのだろう?」という疑問に対して、**「それは、昔から私たちが危険から身を守るために持っていた、特別な心の機能が、行き過ぎてしまった状態なのかもしれない」**と提案しています。

例えるなら、私たちの体には「免疫システム」があって、ウイルスから守ってくれます。でも、アレルギーみたいに、たまに免疫システムが過剰に反応して、体に悪いことが起こることもありますよね。

これと同じように、私たちの心にも「心の免疫システム」のようなものがあって、それが「将来の危険を予測して、何とか回避しようとする機能」だと考えます。普段は「あ、これ危ないかもな」とか「こうしたらもっと良くなるかも」と、私たちの安全や効率を上げてくれる大切な機能です。

しかし、この「心の免疫システム」が、まるでアレルギーのように**「過剰に働いてしまう」と、必要以上に心配したり、何度も何度も確認したりする行動につながり、それが強迫性障害として現れるのではないか**、というのがこの論文のユニークな考え方です。

つまり、OCDの人は、もともと「危険を予測して回避する」という、人類の生存に役立ってきた能力を、人一倍強く持っているのかもしれない、ということです。この考え方は、OCDを単なる「病気」として見るだけでなく、私たちの「人間らしさ」の一部として理解しようとする新しい視点を与えてくれます。

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