DITの基礎的文献である Lemma, Target, & Fonagy (2012) 『Dynamic Interpersonal Therapy: A clinician’s guide』 の要約を、章構成に沿って日本語でまとめます。臨床家向けの実践的なガイドブックであり、特にNHSのIAPTプログラム向けに作成されたものです。
📘 『Dynamic Interpersonal Therapy: A clinician’s guide』(2012)要約
🔹 序章:背景と目的
- DITは、精神力動的アプローチとエビデンスベース実践を結びつける試み。
- NHSの「IAPTプログラム」において、時間制限があり、構造化された心理療法へのニーズに応える形で開発。
- 患者の症状に影響する「繰り返される対人関係パターン(IPAF)」に焦点を当てる。
第1章:精神力動的理解と対人関係の役割
- うつ病の心理的背景には、無意識的な対人関係のテーマが存在。
- クライアントは、これらのパターンに無自覚であり、それが対人困難と情緒の問題を引き起こす。
- 治療は、これらのテーマを意識化し、より柔軟な対応を可能にすることを目指す。
第2章:構造と治療的枠組み
- セッション数:16回(週1回、各50分)。
- 各段階での目的が明確に設定されており、構造的でありながら柔軟性も持つ。
- 初回セッションで「IPAF(繰り返される対人パターン)」を見つけ、以後の治療の中心に据える。
第3章:評価と「対人焦点(IPAF)」の形成
- 評価面接では、現在の症状と対人関係の出来事を関連づけて探る。
- 人生史・重要人物との関係・現在の困難における反復パターンからIPAFを同定。
- IPAFは、患者とセラピストが共有できる**「フォーカス・ナラティブ」**として明文化される。
第4章:中期の治療(セッション4〜14)
- 転移-逆転移や「ここ・いま」のやりとりの中で、IPAFが現れる機会を活用。
- クライアントがこれまで無自覚だった関係パターンと情動反応を理解できるよう促す。
- セラピストの役割は、過度な解釈ではなく、「共感的に明示すること」に重点を置く。
第5章:終結プロセスと移行
- 終盤(セッション15〜16)では、治療の変化を統合し、将来への見通しを確認。
- 患者が新しい対人関係の選択肢を持ち帰ることが治療の目的。
- 終結もひとつの「別れの体験」として、IPAFが再活性化される可能性を含む。
第6章:トレーニングとスーパービジョン
- DITは、精神分析的訓練を受けていない臨床家にも習得可能な構造を持つ。
- 実施には一定のトレーニング(特にIPAF設定の技術)が必要。
- スーパービジョンでは、転移-逆転移の理解が重要視される。
補遺:ケースフォーミュレーションと記録の例
- 実際のケース例やIPAFの定式化の方法が提示されている。
- 例:
- IPAF:「他者にニーズを伝えると失望させ、見捨てられる」という信念
- 行動パターン:自己犠牲的で感情を抑える → 抑うつ感・怒り・関係破綻
🔸 本書の意義
- 精神分析的枠組みを構造化し、マニュアル化した点が画期的。
- 精神力動的アプローチの利点(深い理解、関係性の変容)を保持しつつ、
- 時間制限、治療効果の測定可能性、現代的な対人理論との統合も実現。
- 特にうつ病の再発予防や自己理解の促進に有効。
🔖 推奨される臨床家
- 精神力動的心理療法に関心がありながら、時間制限やマニュアル化にも対応したい心理士・医師。
- IAPTなどの公的医療制度下で、効率的かつ深い治療を行いたい人。