コンパッション-1


🔷 第1章 要約:「コンパッション ― 定義と論争」

■ 概要

  • コンパッションは、他者の苦しみに対する感受性と、それを和らげたいという動機として注目され、心理学、神経科学、仏教思想など多分野で研究が進んでいる。
  • しかし、その定義・構成要素・感情との関係には依然として多くの混乱と論争がある。

■ コンパッションの定義と問題点

  1. 言語的・文化的差異による混乱
    • ラテン語の語源“compati”(共に苦しむ)に由来するが、文化によって「哀れみ(pity)」や「同情(sympathy)」と混同される危険がある。
    • 西洋哲学では、ショーペンハウアーは肯定的に捉えたが、ニーチェは「弱さ」として否定的に評価。
  2. 感情 vs 動機の区別
    • コンパッションは特定の感情(悲しみや怒り)としてではなく、行動へと導く動機として理解すべき。
    • 感情は一時的だが、動機は長期にわたり行動を導く。

■ 多面的な構成要素(研究者の視点)

研究者構成要素・定義
Jazaieriら認知(苦しみの認識)、感情(同情的反応)、意図(緩和の願い)、行動(援助の準備)
Ekman感情的、行動的、懸念的、願望的の4次元
Neff(自己コンパッション)認識、共通の人間性、感情的共鳴、苦痛の受容、援助行動

■ 仏教・動機付けアプローチからの定義

  • 仏教では、すべての苦しみの普遍性と無常性への洞察がコンパッションの源。
  • ダライ・ラマは、真のコンパッションは「友人だけでなく、敵に対しても向けられるもの」と強調。
  • コンパッションは、苦しみに向き合い、予防しようとする「心の方向性(意志・願い)」

■ コンパッションの核心的定義(ギルバートらによる提案)

「自己と他者の苦しみへの感受性と、それを和らげ、予防しようとするコミットメント」

  • 「自己」も含まれ、「予防」も明示されている。
  • 苦しみに背を向けず向き合う動機と、賢明な行動を取ろうとする努力を含む。

■ 結論

  • コンパッションは単一の定義に収まらない、多面的・動機的な現象
  • 精神療法、倫理、哲学、宗教などの分野において、定義や表現は異なるが、他者の苦しみを理解し、それに応答しようとする志向性が共通している。
  • より良い理解と応用のためには、柔軟な定義と多様な視点の統合が求められる。

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