PTSD(心的外傷後ストレス障害)へのコンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT) の適用例を詳しく説明します。
🔥 PTSDへのCFT適用の特徴
PTSDでは、トラウマ記憶により脅威システム(闘争・逃走・凍結)が慢性的に活性化し、フラッシュバックや過覚醒、回避、麻痺・解離などが起こります。
CFTはこの「脅威システム」が常にオンになりやすい人に対して、
- 安心システム(ケアリングシステム)を強化し、
- 自分に対する安全・思いやりの回路を築く
ことを目指します。
トラウマ治療の中では、曝露 や 認知の再構成 と並行しつつ、「自分をケアする能力」を育てる役割を持ちます。
💔 PTSDの典型的な訴え
- トラウマ体験を思い出すだけでパニックや過覚醒。
- 「自分が弱かったから、あの状況になった」「自分は汚れている」という深い恥。
- 自己嫌悪や自責が強く、「自分は救われる価値がない」と感じる。
- 他者の親切さすら脅威に感じてしまう(人間関係の警戒心)。
🌿 CFTの臨床での適用例
🧩 ケース例
👩 クライエントの背景
- 20代女性。10代で性暴力を経験し、以降PTSD症状。
- 夜はフラッシュバックが多く、他者の優しさにも恐怖。
- CBTの自動思考記録は多少できるが、「自分に優しくする」という感覚が理解できない。
💡 治療の進め方
① 「脅威システム」の正常性を説明
- 「あなたの脳は大きな危険を経験したから、今も警戒し続けてしまうのです。」
- 「脳があなたを守ろうとしている証拠です。決しておかしいわけではありません。」
この理解が、恥や「自分がおかしい」という二次的苦痛を和らげます。
② 「思いやり」への恐れ(fear of compassion)を扱う
- 「優しさ」が逆に怖い場合(加害者が優しさを偽装していた経験があるなど)、無理に進めず、
- まずはその恐れ自体を共感的に扱う。
- 「優しさが逆に怖いのはとても自然なことです。あなたはそれで守ってきたんです。」
③ 小さな安全の体験から
- 安心できる景色、動物、音楽、触感などから「安全」のイメージをつくる。
- そこから徐々に「コンパッション(優しさ)」のイメージへ。
例:
「小さな猫があなたの膝で安心して眠っているところを想像してみましょう。
あなたに何も期待せず、ただあなたの体温を感じて心地よく寝息を立てています。」
④ 思いやりの声を育てる
- 自己批判や恥の声が強いので、あえて「優しい声」を自分の中に作っていく。
- 最初は「友人が同じことを話してきたら、あなたは何と言うか?」から始める。
- それを自分に向けて話してみる。
⑤ フラッシュバックや回避行動への応用
- フラッシュバックが起きたとき、「あなたは今、もう安全です」と穏やかに自分に声をかける練習。
- 「あなたの脳はまだ危険だと思い込んでいるけど、今ここにはその危険はないよ」と繰り返し。
- これを神経回路に刷り込むように続ける。
🚪 CFTの大きな役割
PTSDの治療では
- 曝露療法(過去の記憶に触れる) が非常に重要ですが、
- CFTは、その過程で再トラウマ化しないための「安全基地」を作り、安心システムを並行して強化します。
📝 まとめ
✅ PTSDのCFTでは
- 自己批判・恥を理解し、寄り添う
- 「脅威システム」の過剰な作動を脳の自然な防衛として説明し安心させる
- 小さな優しさのイメージから徐々に育てていく
- トラウマ記憶への曝露を支える「安全基地」としての役割