コンパッション(思いやり)を進化論的・社会的メンタリティとして捉え、人間に特有の能力としてその意義を探究します。
● コンパッションは進化した動機
- 人間のコンパッションは、他者の苦しみに対する感受性と、それを和らげ予防しようとするコミットメントに基づく。
- これは生存や子孫を残すための進化の過程で、ケアリング(世話をする)動機から派生した。
- 菩提心(他者を苦しみから解放しようとする仏教的意図)にもつながり、倫理や道徳の核心。
● 社会的知性の進化
- 人間は「気づいていることに気づける(メタ認知)」存在であり、複雑な共感や心の理論(他者の心を推測する力)を持つ。
- これはケア行動や共同主観性(相手と視点を共有する力)を可能にし、社会的な絆を深める基盤になった。
- こうした能力は文化を形成し、意味を作り出し、またマインドフルネス(意図的な気づき)と結びついている。
● ケアリングの進化と人間
- 人間は哺乳類の中でも特に長い子供時代を持ち、多くの養育者からケアを受ける必要があった。
- これが他者の苦痛やニーズに敏感で、助けようとする(コンパッション)進化的基盤となった。
● 社会的メンタリティとしてのコンパッション
- 社会的動機は生存・繁殖戦略に根ざしており、コンパッションもまたその一つ。
- 人間は「社会的メンタリティ(社会的な目標を達成するための対人関係のダンス)」を通して、協力やケアを進める。
- ケアを引き出す・与える、協力する、競争する、性的関係を築くといった対人ダンスが存在し、コンパッションはケアリングのメンタリティに特有。
● 意図と感情の複雑な関係
- コンパッションには動機と意図が不可欠で、感情は必ずしもそれに伴わない。
- 例えば、うつ病の親は子をケアしたい意図を持っていても、感情(愛情や喜び)が伴わないことがあり、それが苦痛の原因にもなる。
- コンパッション・フォーカスト・セラピーは、この意図を行動に結びつけることで治療を行う。