「ポスト・ポストモダン(Post-postmodern)」的実践とは、ポストモダンによる脱構築の先に、
「再び何かを築きたい」「つながりたい」「意味を見いだしたい」という再構築への志向を含んだ思想的・臨床的な動きです。
とくにナラティヴ・セラピーや実存的精神療法においては、以下のような形で現れています。
🌀 ポスト・ポストモダンとは何か?
段階 | 特徴 | キーワード |
---|---|---|
近代(モダン) | 真理・理性・普遍性を信じる | 科学・進歩・主体性 |
ポストモダン | 真理や自己の解体、相対主義 | 脱構築・断片性・多声性 |
ポスト・ポストモダン | 解体の後、「再びつながり直す」志向 | 意味の再構築・応答・共在性・希望の倫理 |
☞ ポスト・ポストモダンとは「もはや信じられないが、それでも関係し、共に語ることをあきらめない」態度。
📚 ポスト・ポストモダン的な精神療法実践:4つの視点
1. 🧩 脱構築から再構築へ ― ナラティヴの再生
ポストモダンは「大きな物語(grand narrative)」を解体しました。
しかし、ポスト・ポストモダンでは:
- 小さな物語(small stories)を大切にし、
- 複数の声を「共に響かせ」、
- 物語の断片から新しい意味を編み直す実践が生まれています。
▶ 例:マイケル・ホワイト(Narrative Therapy)
ポストモダン的技法 | ポスト・ポストモダン的展開 |
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問題の外在化 | 希望の語り直し、オルタナティブ・ストーリーの創造 |
多声性の尊重 | クライアントとともに“次の章”を書く(co-authoring) |
脱構築 | 再構築的対話(re-authoring conversations) へ |
2. 🕊 「私」という語りの倫理 ― 応答と承認
ポストモダンが「主体の死」を語ったのに対し、
ポスト・ポストモダンでは「語る主体の“脆く、揺らぐ声”」を再び聴こうとします。
▶ 例:リチャード・カーニー「応答の倫理(anatheism)」
- 神の不在を前提に、それでも「誰かが呼びかけてくる」声に応答する倫理。
- ナラティヴ・セラピーでは、「問題」ではなく「呼びかけ」に耳をすます技法として応用。
▶ 精神療法的応用
技法 | 内容 |
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応答的傾聴 | 語られた内容より「なぜ今それを語ったか」に注目する |
名づけ直し | 「被害者」→「生き延びた者」「語る力を持った者」へ |
記憶の承認 | 「痛みの語り」を共に聞き、共に沈黙する場をつくる |
3. 🧭 存在論的転回 ― 関係する自己への回帰
ポスト・ポストモダンは、**「何を信じるか」ではなく「誰と関係しうるか」**という問いへと転じます。
▶ メルロ=ポンティ、ナンシー、アガンベンらの哲学
- 存在は閉じた主体ではなく、「関係のうちにある開かれた存在」
- 治療関係そのものが、意味と倫理の空間になる
▶ 臨床的展開
観点 | 内容 |
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関係的自己 | 自己は「語り合う場」によって絶えず生成される |
空間の倫理 | 沈黙・間・場の雰囲気が「語られざるもの」を育てる |
呼びかけと応答 | 「わからなさ」や「迷い」も、他者との関係において意味を持つ |
4. 🌱 希望・回復・スピリチュアリティの再構築
ポスト・ポストモダンでは、「癒す」「治す」ことよりも、
**「生き直す」「再び語り合う」「希望に触れる」**という志向が強くなります。
▶ ACT・レジリエンス・ナラティヴ医療との接続
- 「価値に生きる(values-based)」ことを回復の中心に置く
- 「症状」ではなく「意味の再生」が焦点
🛠 ポスト・ポストモダン的技法の例(簡易一覧)
技法名 | 実践の特徴 |
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リオーサリング(再物語化) | 問題中心の語りを、希望・意味・つながりの物語へ編み直す |
応答の対話 | 相手の語りに、真理ではなく「共鳴」で応答する |
“出来事としての私”への注目 | アイデンティティを固定的な自我ではなく、関係性の中で生成されるプロセスとして扱う |
場の生成 | 治療者-クライアント関係そのものを「意味と倫理が生まれる場」として尊重する |
存在の微細な経験への気づき | 呼吸、身体感覚、空間、沈黙、など「語られないもの」に注目する |
🧶 まとめ:ポスト・ポストモダン的精神療法とは
視点 | ポイント |
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✅ 解体の先へ | 相対主義にとどまらず、「再びつながる物語」へ |
✅ 自己の回復 | 自律的主体ではなく、「語り・記憶・応答」のなかにある自己 |
✅ 治療関係の力 | 治療者が「治す人」ではなく、「共に在る人」となる |
✅ 意味の共創 | 苦しみの意味は、対話と語りのなかで生成される |