離れた木同士がコミュニケーションする

離れた木同士がコミュニケーションする
植物のコミュニケーションについて一石を投じた論文と、その顚末(てんまつ)が興味深い。約40年前、ワシントン大学の動物学者だったデイヴィッド・ローズ氏は、大学の実験林がカレハガの幼虫に食害されていることに気がついた。しかし、害虫の発生から3年後、幼虫が次々に死に始めたという。

食害を受けた木々を調べてみると、体内の化学成分が変化し栄養が少なくなっていた。さらに驚くことに、食害を全く受けていない、遠く離れた木々も、化学成分の変化や食害への抵抗性が見られた。植物が分泌し、空気中を漂う化学物質が森の危機を伝える情報を伝達しているのだとローズ氏は考え、この仮説を発表した。

この論文は多くの研究者から無視されたという。なぜなら当時は、植物は動物より岩石に近いと考えられており、主体的に行動することはあり得ない、というのが通説だったからだ。やがてローズは科学の世界から退いた。

翻って現在、植物が食害を受けたときに同種の木や近傍の植物にシグナルを伝えることは科学的にも認められ、それを「コミュニケーション」と表現することもある。ローズは時代を先取りし過ぎたのだ。こうした、新概念を切り開こうとする科学者たちの奮闘も本書の面白さを支えている。

隣りあうヒマワリに場所を譲る
最新の植物行動学の知見を見てみよう。例えば、近親のヒマワリを並べて植えると、お互いに日陰を作らないように茎を曲げる。地下でも栄養豊富な場所を避けるように根を張り、競争を回避するのだという。「譲りあい」という高度な社会性がヒマワリに備わっていると著者は示唆する。

さらに雑草などほかの植物に対しては、化学物質を放出し、発芽を抑制する仕組みが知られている。まるで身内をひいきし、よそ者に冷たくする人間のようだ。現時点ではヒマワリがどのように互いの距離を認識するのかなど分からない点も多い。だが、植物の社会性という新しい概念が、徐々に確立している様子がうかがえる。

本書に登場する科学者たちは「植物の知性」という言葉の使用に慎重だ。だが、著者は積極的に植物の知的なふるまいを信じ、それを伝えようとしている。人間や一部の動物だけのものとされがちな知性について、本書は改めて考えるきっかけを作ってくれる。

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