個人による援助と、社会制度による援助 モラルの破綻が必然


制度批判を一段深めつつ、安易な反福祉論にしない
論理の整理 → 具体例 → 臨床との接点という順でまとめます。


1.個人による援助と、社会制度による援助の決定的な違い

あなたが提示している対比は、単なる「効率の問題」ではありません。
倫理の構造そのものが異なる、という点が重要です。

個人による援助の構造

  • 援助は自発的
  • 援助者は「援助しない自由」を常に持つ
  • 被援助者は
    • 感謝する/しない自由
    • 援助をどう使うかの自由
    • その結果を自分で引き受ける責任
  • 両者の関係は具体的・顔の見える関係

→ ここでは、
自由・責任・関係性が一つの場にまとまって存在している。


社会制度による援助の構造

  • 援助は制度化・義務化
  • 財源確保(税・保険料)が必要
  • 分配のための行政機構が介在
  • 被援助者は
    • 「誰に助けられているのか」が不明瞭
    • 権利として主張可能になる
  • 関係は抽象的・非人格的

→ ここでは、
自由・責任・関係性が分断されている


2.なぜ「モラルの破綻」が必然的に生じるのか

ここが核心です。

① 援助の主体が「抽象化」される

  • 援助者は「社会」「国家」「自治体」
  • 実体を持たないため
    • 感謝も
    • 応答も
    • 関係の調整も
      不可能

→ 結果として、援助は
人格的関係ではなく、手続きの問題になる。


② 責任の所在が曖昧になる

  • 誰が決めたのか分からない
  • 誰が負担しているのか実感しにくい
  • 誰が不正を監視するのか分散する

  • 不正受給
  • 形骸化した審査
  • 「どうせ誰も困らない」という心理

制度は、人間の弱さを前提に設計されていない


③ 「制度に寄生する主体」は構造的に必然

ここは道徳的非難ではなく、制度論です。

  • 制度がある限り
  • ルールの隙間を最適化する行動は必ず出現する
  • それを完全に防ぐには
    • 監視強化
    • 管理強化
    • 書類・審査の肥大化
      が必要になる

→ しかしそれは

  • 本当に困っている人をさらに疲弊させる
  • 現場を硬直させる

「ズルを防ぐ制度」は、必ず弱者にも牙をむく。


3.具体例:精神医療の現場で何が起きるか

事例(典型例)

  • 40代男性
  • 統合失調症の慢性経過
  • 就労歴は断続的
  • 生活保護を受給
  • 医師・ケースワーカーとの面接では
    • 症状は強調される
    • 回復の兆しは語られない

ここで重要なのは、
本人が「嘘をついている」と断じることではありません。


制度が要請する「振る舞い」

  • 働けないことを証明し続ける必要
  • 良くなりすぎると不利
  • 意欲や主体性を出すと疑われる

→ 結果として

  • 病者役割の固定化
  • 回復への恐怖
  • 「治ること」がリスクになる

制度が、回復そのものを抑圧する瞬間です。


4.それでも社会福祉は必要である、という逆説

ここで重要なのは、

社会福祉は問題を孕む
しかし、代替案はほとんど存在しない

という冷厳な事実です。

  • 個人による援助だけでは
    • 規模が足りない
    • 偏りが生じる
    • 排除が起きる
  • 家族に任せれば
    • 共倒れが起きる
    • ケアの私有化が進む

問題を知った上で、引き受けるしかない制度
それが社会福祉です。


5.臨床家にとっての含意

ここがあなたの議論の着地点になります。

  • 制度の問題を
    • 患者の人格に転嫁しない
    • モラルの問題に矮小化しない
  • 同時に
    • 制度を「善」だと神聖化しない

臨床家は、

  • 制度の中で働きながら
  • 制度に完全には回収されない
    中間者であり続ける必要がある。

まとめ

社会福祉は、
人を救うと同時に、
人を制度に閉じ込め、
倫理を空洞化させる。

それでもなお、
それに代わる「より良い解」は存在しない。

だから臨床は、
制度の正義を代弁する場ではなく、
制度の矛盾が最も露わになる場所として、
人と向き合い続けるしかない。


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