35歳前後の、高学歴・適応良好だった層の、不可解な認知機能の崩壊(1)

最近思うこと。
大卒して、入社試験も合格して、数年働き続けて、ほどほどにうまく適応していた人が、35歳くらいになって、突然働けなくなる。頭が働かない、集中できないとのことで暫定的にうつ病と診断する。しかし、回復ははかどらない。あたかも、認知症が超早期に始まってしまったかのようで、20歳の頃にはできていたことができなくなっている。
エクセルを使うことが難しい。エクセルは、かなり高度なこともできるので、難しい部分もあることは理解できるが、会社で平均的に要求されているレベルのことができない。
あるいは、会社で独自に使用しているソフトについて、マニュアルを読んでも理解できず、周囲の人に聞こうとしても、どのように効いていいか、分からない。上司からはきつい言葉を投げかけられる。
発達障害としては、大学も普通に入学して卒業したし、入社試験も合格しているので、可能性は低い。
早発性の認知症にしては年齢が若すぎるし、脳画像も異常はない。
しかしなぜか、仕事はできない。
このようなタイプの人が一定数いるのは、現在の診断カテゴリーに欠落があるのか、それとも、これは遷延している抑うつなのか、シゾフレニーの陰性症状タイプ(昔で言う単純型シゾフレニー)なのか、悩む。
どのような可能性があるか、検討してください。


とても臨床的に「今ここ」で起きている現象ですね。
しかもこれは一例ではなく、確かに一定数いる。その感触は正しいと思います。

順序立てて、できるだけ「診断名を当てる」方向ではなく、
何が壊れているのか/どの水準で破綻しているのかという観点で整理します。


1. まず共通して観察されている現象を抽出する

あなたの記述から、このタイプにはかなり一貫した特徴があります。

① 発症前は「平均以上に社会化されていた」

  • 大卒
  • 入社試験を突破
  • 数年間は就労継続
  • 極端な対人トラブルや逸脱はない

② 30代半ば前後で破綻

  • 「突然」働けなくなる
  • ただし急性精神病エピソードではない
  • 明確な躁や幻覚妄想はない

③ 主訴はきわめて具体的・実務的

  • 頭が働かない
  • 集中できない
  • Excelが扱えない
  • マニュアルを読んでも理解できない
  • 質問の仕方がわからない

④ 客観検査では説明がつかない

  • MRIなど画像は正常
  • 年齢的に認知症は否定的
  • 発達障害の既往としては弱い

ここから分かるのは、

「知能」や「記憶」そのものではなく、
高度に社会化された認知運用が崩れている

という点です。


2. 「抑うつ」で説明できる部分/できない部分

遷延性抑うつ(特に非定型・メランコリー混合型)

確かに以下は抑うつで説明できます。

  • 思考制止
  • 注意の持続困難
  • 作業開始困難
  • 自己効力感の低下

しかし、あなたが違和感を持っているのはここでしょう。

  • 回復が遅すぎる
  • 気分症状が改善しても「仕事能力」が戻らない
  • 以前できていた具体的スキルが戻らない

これは単純な「抑うつの認知症様症状(仮性認知症)」よりも、
もう一段、深いレベルの破綻を疑わせます。


3. 「シゾフレニア・スペクトラム(陰性・発達的側面)」の可能性

あなたが言及した

単純型シゾフレニー

これは、今の診断体系ではほぼ解体されていますが、
臨床現象としては消えていない

ここで重要なのは、幻覚妄想ではない

このタイプでは、

  • 明確な陽性症状は出ない
  • むしろ「社会的・認知的な摩耗」が前景に出る

特に、

  • 文脈把握の困難
  • 抽象的ルールの運用困難
  • 暗黙の了解が読めない
  • 「どこが分からないかが分からない」

これは、統合失調症の認知機能障害・陰性症状と非常に親和的です。

ただし、

  • 20代では代償できていた
  • 社会的要求が上がった30代で破綻した

という経過を取ると、
「発症」というより代償破綻と見る方が自然です。


4. 発達特性 × 過剰適応 × 中年期破綻

ここが、かなり重要な仮説だと思います。

発達障害「ではない」が、発達的脆弱性はある

  • 知能は十分
  • 学業は問題なし
  • しかし、
    • 融通が利かない
    • 手順記憶・文脈依存が弱い
    • 曖昧な状況で固まる

こうした特性は、

  • 受験
  • 定型的業務
  • 明確な評価軸

では目立たない。

しかし30代以降、

  • 業務が複雑化
  • 暗黙知が増える
  • 自己判断が求められる
  • 部下指導や横断調整が入る

この段階で、

「今までのやり方」が通用しなくなる

結果として、

  • 認知資源の過剰消耗
  • 遂行機能の破綻
  • 二次的抑うつ

が起きる。

この場合、

抑うつは原因ではなく「結果」

です。


5. 「高次脳機能的だが、器質ではない」破綻

非常に重要なポイントです。

この人たちは、

  • 単純注意
  • 短期記憶
  • 基礎知能

は保たれている。

壊れているのは、

  • 複数情報の統合
  • 優先順位づけ
  • 文脈に応じた操作
  • エラーからのリカバリー

つまり、

現代のオフィスワークに特化した高次遂行機能

です。

これは、

  • 医学的診断名がつきにくい
  • 検査で拾いにくい
  • しかし社会的には致命的

という、非常に厄介な領域。


6. 現在の診断体系の「空白」

あなたの違和感は、かなり正確だと思います。

  • うつ病:説明力が足りない
  • 発達障害:経過と合わない
  • 認知症:年齢・画像が合わない
  • 統合失調症:陽性症状がない

つまり、

「社会的認知・遂行機能の遅発性破綻」

をきちんと受け止める診断概念が、
現在ほぼ存在しない。

DSMもICDも、

  • 急性発症
  • 明確な症候群
  • 病因論的まとまり

を重視しているため、

ゆっくり壊れ、
社会だけで先に脱落する人

を拾いにくい。


7. 臨床的に考えうる整理(暫定)

診断名というより、作業仮説としては、

  • 発達的脆弱性を背景に
  • 社会的要求の高度化によって
  • 遂行機能・社会的認知が破綻し
  • 二次的抑うつが重なっている状態

これを、

  • 「遷延性抑うつ」とだけ呼ぶのは不足
  • 「シゾフレニー」と断定するのも粗い

しかし、

「元に戻る」前提での治療計画が破綻する

タイプであることは、かなり一貫している。


8. 臨床的に重要な含意

このタイプで最も有害なのは、

  • 早期復職の圧
  • 元のパフォーマンスへの期待
  • 「努力すれば戻る」という言説

これが、

  • 自己評価の崩壊
  • 症状の固定化
  • 二次障害

を招く。

治療的には、

  • 回復=元に戻る、という物語を一度解体する
  • 能力の再配分・縮小・再設計
  • 「できない理由」を病名よりも構造で説明する

ことの方が、はるかに重要になります。


9. 最後に

あなたが感じている

何かが欠落している感じ

それは、

  • 臨床家の勘として正しい
  • そして今の精神医学が十分に言語化できていない領域

だと思います。

この人たちは、
「病気になった」のでも、
「怠けた」のでもなく、

社会が要求する認知様式から、静かに脱落した人

なのかもしれない。

そしてその現象は、
高度化し続ける社会の副産物として、
今後さらに増える可能性があります。

このテーマ、
もし文章化するなら、かなり重要な記録になると思います。

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