「円安」「国債安(金利上昇)」「(外貨建てで見れば割安な)株高」 赤信号を見てもぼんやりしているのはなぜか

現在の日本経済は「円安」「国債安(金利上昇)」「(外貨建てで見れば割安な)株高」という、構造的な脆弱性を露呈するトリプル安に近い局面にあります。それにもかかわらず、政府も有権者も決定的な対策を打たず、あるいは危機感を持って向き合っていないように見える状況は、非常に危ういものです。

なぜこのような「不作為」が続くのか、集団心理的な障壁を含め、多角的に論じます。


1. なぜ正面から取り組もうとしないのか(構造的要因)

① 「偽りの繁栄」としての株高

現在の株高は、企業の稼ぐ力が飛躍的に向上した結果という側面よりも、「円の価値が下がったことで、外貨から見て日本株がバーゲンセール状態にある」という側面が強いです。しかし、日経平均株価が史上最高値を更新すると、政府はそれを「アベノミクスの成果」や「経済再生の証」として宣伝に使えます。この「数字上の景気の良さ」が、構造改革の痛みを先送りにする免罪符になっています。

② 財政の「出口戦略」の喪失

政府が円安を止めるために金利を大幅に上げれば、1000兆円を超える国債の利払い費が急増し、国家財政が破綻(あるいは深刻な予算逼迫)する恐れがあります。つまり、「問題を直視してメスを入れると、その瞬間にシステムが崩壊しかねない」というジレンマに陥っており、延命措置を続けるしかないのが実情です。

③ シルバー民主主義の影響

有権者の中心である高齢層にとって、最も恐ろしいのは「インフレ」以上に「制度の激変」です。抜本的な構造改革(社会保障カットや産業の入れ替え)は短期的には痛みを伴います。選挙に勝ちたい政治家は、現役世代の未来のための長期投資よりも、高齢層を刺激しない「現状維持」を選択します。


2. 集団心理的な障壁(なぜ危機を感じないのか)

心理学・社会心理学の観点から見ると、日本社会にはいくつかの強力なブレーキがかかっています。

① 正常性バイアスと「茹でガエル現象」

「戦後ずっとこの国はやってこれた」「急に破綻することはない」という正常性バイアスが強く働いています。急激なショック(震災や戦争)には反応できても、円の購買力がじわじわと低下し、国力が削られていくような「緩慢な衰退」に対しては、危機感を抱きにくいのです。まさに、温度が少しずつ上がる水の中で逃げ出せない「茹でガエル」の状態です。

② 学習性無力感

「誰が首相になっても変わらない」「自分が声を上げても経済は動かない」という感覚が長年の停滞で定着しています。これにより、有権者は経済政策を批判的に検証することを放棄し、目先の給付金や減税といった「小さな利益」に誘導されやすくなっています。

③ 責任の分散(傍観者効果)

「日銀がなんとかするだろう」「政府が考えているはずだ」という、専門家や権威への過度な依存があります。しかし、実際には日銀も政府も身動きが取れなくなっており、全員が「誰かがブレーキを踏むだろう」と思いながら崖に向かっている状態です。

④ 損失回避性

人間は「将来の大きな利益」よりも「目先の小さな損失」を過剰に恐れます。産業構造の転換には、ゾンビ企業の淘汰や労働移動が必要です。しかし、失業や倒産という「目先の痛み」を避けることを優先し続けた結果、日本全体の生産性が改善されないまま今日に至っています。


3. どうすればよいのか(打開策の方向性)

この閉塞感を打破し、危機に正面から向き合うためには、以下のステップが必要です。

① 「不都合な真実」の情報公開

政府は株価などのポジティブな指標だけでなく、「実質購買力での日本経済の地位」「金利が上がった場合の財政シミュレーション」など、厳しい現実を国民に正確に開示すべきです。危機を共有して初めて、痛みを伴う改革への合意形成(ナショナル・コンセンサス)が可能になります。

② 「保護」から「代謝」へのパラダイムシフト

これまでの日本は、弱い企業や産業を補助金で守ることに注力してきました。これを、「個人(労働者)を守り、企業(組織)の入れ替えを促進する」政策へ転換する必要があります。リスキリング(学び直し)への大規模投資と、労働市場の流動化をセットで行い、円安に依存せずとも外貨を稼げる高付加価値産業へ人を移動させなければなりません。

③ 財政規律の再構築と、給付から投資への転換

バラマキ型の給付ではなく、次世代の生産性を高める分野(科学技術、教育、少子化対策の本丸)に資源を集中させる必要があります。これは高齢層の負担増を意味しますが、ここを避けて通ることは、集団自決的な先送りでしかありません。

④ 投資教育と「円一辺倒」からの脱却(個人の防衛)

国が動かないのであれば、国民一人ひとりが「円」という資産のみに依存するリスクを理解し、外貨建て資産や自己研鑽(人的資本)へ投資することで、国と一蓮托生にならない強さを持つことも、社会全体のレジリエンス(復元力)を高めることにつながります。

結論

現在、日本経済に点灯している信号は「黄色」を通り越して「赤」に近いものです。しかし、「壊れるまで直そうとしない」という日本特有の危機対応パターンが発動してしまっています。

これを打破するには、政治のリーダーシップだけでなく、有権者が「目先の甘い薬(補助金や現状維持)」を拒否し、「長期的な生存のための苦い薬」を受け入れるだけの成熟した政治意識を持てるかどうかにかかっています。心理的な「茹でガエル」の状態から脱却するには、まず「今、水は沸騰しつつある」という事実を、感情論抜きで受け入れる勇気が必要です。

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