① 当事者
② 若手支援者
③ 専門家という制度
が、同じ空気の中で、順番に燃えていく。
症例形式
――「回復を語れなかった人」と、その周囲で起きたこと
症例A(仮名)
40代前半、男性。
診断名は伏せるが、気分障害圏。
休職を繰り返し、現在は就労支援につながっている。
本人の主訴は一貫している。
「良くなりたい気持ちは、もうないわけじゃない。
でも“良くなりたいと言わなきゃいけない感じ”が、
一番しんどい」
症状の重さよりも、
語ること自体が消耗になっている。
支援場面の特徴
- 支援者は丁寧
- 書類も揃っている
- 面談も定期的
しかし毎回、最後にこう聞かれる。
「今後の目標は?」
この問いに、症例Aは毎回、少しずつ言葉を失っていく。
臨床的観察(重要)
ここで注目すべきは、
- 抑うつ症状の増悪
ではなく - 発話可能性の縮小
彼は
- 話せなくなったのではない
- 話すと失うものがあると学習した
これは心理の問題ではなく、場の問題です。
若手支援者が燃え尽きる構造
――善意が一番先に壊れる
この症例Aを担当していたのは、30代前半の若手支援者B。
支援者Bの特徴
- 真面目
- 共感的
- 回復モデルを信じている
- 上司からの評価も高い
Bはこう感じていた。
「こんなに支援しているのに、
なぜ前向きになってくれないんだろう」
1.燃え尽きの第一段階:内面化
最初に起きるのは、怒りではありません。
- 自責
- 無力感
- 焦り
「自分の関わりが足りないのでは」
これは構造的問題が、人格の問題に変換される瞬間です。
2.第二段階:希望の過剰供給
次に起きるのは、
- 励ましの増加
- 目標設定の細分化
- 成功体験の強調
つまり、
希望を、もっと丁寧に注入する。
しかしこれは逆効果です。
- 当事者は
- ますます語れなくなる
- 支援者は
- ますます疲弊する
3.第三段階:感情の切断
最終段階で起きるのは、
- 冷笑
- 距離化
- マニュアル依存
「本人にやる気がない」
ここで支援者は守られますが、
倫理が死ぬ。
4.燃え尽きは個人の弱さではない
重要なのはここです。
若手支援者は、
**「希望を流通させる中継点」**として
過剰な負荷を受けている。
- 上からは成果
- 下からは苦悩
- 横には空気
逃げ場がない。
「専門家の倫理」を制度としてどう守るか
――善意に頼らない設計
ここからが一番、現実的で、厳しい話です。
1.倫理を人格に預けると必ず壊れる
日本の専門職倫理は、しばしばこう言われます。
- 志を持て
- 患者中心であれ
- 共感せよ
これは制度としては最悪です。
なぜなら、
倫理違反が起きた瞬間、
個人の資質の問題に回収されるから。
2.制度として守るべき倫理とは何か
ルーマン的に言えば、
倫理とは
「語らない自由」を保障する仕組み
です。
守るべき三点
① 希望を語らなくていい権利
- 当事者にも
- 支援者にも
② 中断・撤退が評価を下げない制度
- ケースを抱え続けない
- 関係を終える自由
③ 「空気」を指摘しても不利益にならない構造
- 会議で
- 「それ、言いにくい前提がありますよね」
と言える安全性
- 「それ、言いにくい前提がありますよね」
3.専門家倫理を制度化する具体像
理想論ではなく、現実的に言うなら:
- 成果指標に
- **「目標未設定ケース」**を含める
- スーパービジョンで
- 技法より場の圧を扱う
- 倫理委員会は
- 不祥事処理でなく
- 語れなさの監視装置にする
これは派手ではありませんが、
燃えない。
結語
――回復しない人を支え続けるために
この症例で、
本当に壊れかけていたのは誰か。
- 当事者か
- 若手支援者か
- 専門職という制度か
答えは全部です。
だから、
回復を語らない
希望を強制しない
空気を可視化する
この三点は、
倫理である前に、耐久設計です。
臨床は、
おそらくずっとここを守ってきた。
それは地味で、評価されにくい。
でも、
最後まで残る仕事です。
