法的平等(formal equality)と実質的平等(substantive equality)が核心です。
日本国憲法は、法の下の平等を定めています。とりわけ、
日本国憲法 第14条は法的平等を、
第24条は婚姻・家族における両性の本質的平等を掲げています。
しかし、妊娠・出産という身体的出来事は、生物学的に女性に集中する。ここに「形式的に同じ扱いをすること」では解決できない非対称性が生じます。
問題はこう整理できるでしょう:
- 法的平等:同じルールを適用する
- 実質的平等:結果や機会の格差を補正する
- 生物学的非対称性:妊娠出産という身体負担
では、どう補えばよいのか。
① 「女性を守る」発想から「社会が引き受ける」発想へ
現在の制度は、どちらかと言えば
「女性の就労をどう守るか」という補償モデルです。
しかし本来は、
出産は個人の選択ではなく、社会の再生産行為である
という認識に立つ必要があります。
北欧諸国が進めてきたのは、
- 出産は社会的インフラ
- 子どもは社会的資本
という位置づけです。
② 実質的平等をつくる具体策
1. 父親の「強制的」育休取得
象徴的なのは
スウェーデン の制度です。
父親専用の育休枠(パパ・クオータ)を設け、
取得しなければ家族全体の給付が減る。
これは「男性の善意」に頼らない設計です。
→ 出産によるキャリア断絶を「女性だけのリスク」にしない。
2. 経済的完全補償
日本の育休給付は賃金の約67%(その後50%)。
これでは長期取得は難しい。
理想的には:
- 出産期の100%賃金補償
- キャリア評価の不利益禁止の厳格化
- 昇進評価から育休期間を除外
3. 保育の公的インフラ化
保育を「福祉」ではなく「教育・経済政策」と位置付ける。
- 0歳児からの無償保育
- 保育士の賃金引き上げ
- 夜間・病児保育の充実
これは単なる子育て支援ではなく、
労働市場の性差を縮小する政策です。
4. 税制・年金の個人単位化
配偶者控除などは
事実上「女性の扶養内就労」を前提にしています。
- 課税単位を完全個人化
- 第3号被保険者制度の見直し
これにより、
「妻が家庭にいる前提」構造を解体できます。
③ 根本問題:時間の非対称性
妊娠出産は、
- 身体負担
- キャリア中断
- 睡眠不足
- 精神的負担
を女性に集中させます。
完全な対称化は不可能です。
だからこそ、
社会が時間を補填する
という設計が必要になります。
たとえば:
- 生涯所得補填制度
- 子育て期間分の年金上乗せ
- 公的ベビーシッター制度
④ 哲学的な問い
ここには、深い問題があります。
平等とは、
- 「同じであること」なのか
- 「違いを認めつつ補うこと」なのか
妊娠出産は「差異」を消せない領域です。
ゆえに必要なのは
差異を前提とした補償の徹底
つまり
差別禁止 + 積極的格差是正(アファーマティブ・アクション)
です。
⑤ 日本で難しい理由
日本では:
- 家族内ケアの私事化
- 母性神話
- 男性長時間労働
が強く残っています。
制度だけでなく、
労働文化の改革が不可欠です。
⑥ 現実的な到達点
完全平等は不可能です。
しかし、
- 女性の生涯所得差を縮小する
- 管理職比率を高める
- 男性の育児時間を倍増させる
ことで、実質的平等に近づくことは可能です。
これは制度設計の問題であると同時に、
「出産は誰の責任か」
という倫理的問いでもあります。
