ガエミ氏の理論を理解する上で、この「区分け」こそが最も実務的かつ重要な部分です。彼は、現代の精神医学が**「正常な悲しみ」を病気として扱い(過剰診断)、一方で「双極性という病気」を見逃している(過少診断)**という、ダブル・エラーを犯していると警鐘を鳴らしています。
1. 「うつ病」と「悲しみ」をどう区別するか
ガエミ氏は、愛する人の死や失恋、失職など、理由のある落ち込みを**「悲しみ(Normal Sadness)」、脳の機能不全によるものを「メランコリア(真のうつ病)」**として明確に分けます。
| 特徴 | 正常な悲しみ(苦悩 / Distress) | メランコリア(疾患 / Disease) |
| 原因 | 明確な喪失やストレスがある | 理由がない、または理由と不釣り合い |
| 感情の質 | 「悲しい」と感じ、泣くことができる | 感情が「枯渇」し、何も感じられない |
| 身体症状 | 眠れないが、食欲などは保たれる | 日内変動(朝が最悪)、食欲不振、早朝覚醒 |
| 思考 | 喪失した対象について考える | 強い罪業感、自分が無価値だという確信 |
| 反応性 | 良いことがあれば一時的に気分が晴れる | どんな良いことがあっても心が動かない |
- ガエミの指摘: 「正常な悲しみ」に抗うつ薬を使うのは、鎮痛剤で空腹を紛らわすようなものであり、人生の課題を解決する機会を奪ってしまいます。一方、メランコリアは「脳の疾患」であり、これにはリチウムなどの生物学的治療が不可欠です。
2. 「双極性スペクトラム」を自己チェックする基準
ガエミ氏は、典型的な「躁病(入院が必要なレベル)」だけでなく、より軽微で分かりにくい**「双極性スペクトラム(Bipolar Spectrum)」**という概念を提唱しました。
以下の「ガエミの診断基準」に当てはまる項目が多いほど、単なる「うつ病」ではなく、双極性の性質を持っている可能性が高いと考えられます。
A. 過去の気分の波を確認する
- 軽躁状態の経験: 少なくとも2日間、睡眠時間が短くても平気で、活動的になり、おしゃべりになり、自信に満ち溢れた時期があったか?(自分では「調子が良いだけ」と思いがちです)
- 気分の激しい変動: 気分が数日単位でコロコロ変わることがあるか?
B. 「うつ」の性質を確認する(非定型症状)
- 過眠と過食: 落ち込むと、いくらでも眠れる、あるいは食欲が止まらなくなる(「非定型うつ」と呼ばれます)。
- 鉛様麻痺: 体が鉛のように重く、動けない感覚があるか。
C. 家族歴と経過を確認する
- 家族の傾向: 親戚に躁うつ病、自殺者、あるいは非常に「個性的でエネルギッシュすぎる人」がいるか。
- 若年発症: 最初のうつ状態が25歳未満(特に10代)で現れたか。
- 抗うつ薬の反応: 抗うつ薬を飲んで、イライラした、あるいは急激に「ハイ」になったことがあるか。
3. 「激越性うつ病」という危険な状態
ガエミ氏が特に注意を促すのが、**「混合状態(Mixed State)」**です。
これは「うつ」の気分のまま、脳だけが「躁(興奮)」の状態にあることを指します。
- 症状: 猛烈に気分は沈んでいるが、頭の中が忙しく回転し(観念奔逸)、イライラして落ち着かず、強い焦燥感がある。
- リスク: この状態で抗うつ薬(SSRIなど)を飲むと、エネルギーだけがブーストされ、衝動的に自殺行動に移るリスクが極めて高くなります。ガエミ氏はこの状態を「抗うつ薬が最も危険な時」と警告しています。
ガエミ氏からのアドバイス
もし、あなたが「うつ病」と診断されて抗うつ薬を飲んでいるのに、**「気分がザワザワして落ち着かない」「数日で気分が激変する」**と感じているなら、それは「うつの悪化」ではなく「双極性のサイン」かもしれません。
「診断は一度決まったら終わりではありません。自分の過去の波や、抗うつ薬への反応を医師に正直に伝え、診断を『再評価』してもらうことが、回復への第一歩です」
