「リチウムの血中濃度」と「自殺予防」0.4 mmol/L 程度でも自殺予防効果(抗衝動性・抗攻撃性)が発揮される

ゴードン・パーカー(Gordon Parker)教授は、リチウムの熱烈な支持者であると同時に、その使用法については非常に繊細かつ実用的なアプローチを提唱しています。

特に2002年の論文やその後の著作において、彼が強調している「リチウムの血中濃度」と「自殺予防」に関する考え方は、従来の「高濃度維持」という常識を覆すものでした。

結論から言うと、パーカー教授は「自殺予防や長期維持のためには、一般的に推奨される濃度(0.8〜1.2 mmol/L)よりも、かなり低い濃度でも十分に効果がある」と主張しています。

具体的には、以下のポイントに集約されます。

1. 自殺予防のための「至適濃度」

パーカー教授は、急性期の躁状態を抑えるための濃度と、再発予防や自殺予防のための濃度を明確に区別すべきだと述べています。

  • 推奨される維持濃度:0.4 〜 0.6 mmol/L
    • 従来のガイドライン(0.8 mmol/L以上)よりも低めです。
    • 多くの研究を引用し、0.4 mmol/L 程度でも自殺予防効果(抗衝動性・抗攻撃性)が発揮されることを指摘しています。
    • 「血中濃度が高いほど自殺を防げる」というわけではなく、一定の低濃度であってもリチウム特有の「脳を保護し、衝動性を抑える効果」が得られるという考え方です。

2. なぜ「低濃度」を推奨するのか(アドヒアランスの重視)

彼が低濃度を推奨する最大の理由は、「副作用による服薬中断を防ぐため」です。

  • 副作用の壁: 血中濃度が0.8 mmol/Lを超えると、手の震え、認知機能の低下(頭に霧がかかったような感じ)、喉の渇き、腎機能への影響などの副作用が顕著になります。
  • 中断の代償: 患者が副作用を嫌って自己判断でリチウムを中止すると、その直後に「リチウム離脱による急激な再発」や「自殺リスクの急上昇」が起こります。
  • パーカーの論理: 「副作用で薬をやめて自殺してしまうくらいなら、副作用が出ない程度の低濃度(0.4〜0.6)で飲み続けてもらう方が、結果として多くの命を救える」という極めて臨床的な判断です。

3. リチウム特有の「抗自殺効果」の独立性

パーカー教授は、リチウムの自殺予防効果は、単に「気分を安定させる(躁鬱をなくす)効果」とは別のメカニズムである可能性を指摘しています。

  • たとえ軽いうつ状態や気分の波が残っていたとしても、リチウムが血中に一定量(低濃度でも)存在しているだけで、自殺行動に結びつく「衝動性」や「絶望感に伴う攻撃性」が特異的に抑制されるという点に注目しています。

4. 「ケイド病」患者への適用

2002年の論文で定義した「ケイド病(典型的な双極I型)」の患者にとって、リチウムは「インスリンのような必須の薬」ですが、パーカー教授はここでも「その患者にとっての最小有効量(Sweet Spot)」を見つけることを医師に求めています。

  • 一律に数値を追うのではなく、その患者が「副作用を感じず、かつ気分の波が制御できている最低のライン」を探ることが、長期的な生存率を高めると説いています。

5. 最新の知見(2022年の流れ)との関連

2022年の「CRDC-BP」論文でも、彼は「リチウムへの反応性」を診断基準の重要な要素に置いています。

  • 「低濃度のリチウムで劇的に安定する人」こそが、真の双極性障害(ケイド病に近い群)であり、それを見極めることが精密な精神医学(Precision Psychiatry)の第一歩であるとしています。

まとめ

パーカー教授の教えを要約すると、「自殺を防ぎたいなら、教科書的な高濃度に固執して患者に無理をさせるな。0.4〜0.6 mmol/Lの低濃度でもリチウムの魔法(自殺予防効果)は十分に効く。細く長く、一生飲み続けられる濃度を見つけることこそが、最高のリチウム療法である」ということになります。

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