食料品消費税率をゼロにすると5兆円が税収不足になる。その減少分の埋め合わせを「財源」と言い、神聖化し、中道など野党の唱える財源案に難癖をつけ、頭から不当視して排斥して行ったのが、序盤戦のマスコミの選挙報道だった。昨年度、補正予算を含めた防衛費は11兆円となり、GDP比2%にする目標を達成している。防衛費は長い間5兆円台の水準を維持し、GDP比1%の枠で推移してきたが、一気に倍増となっていて、その皺寄せは他の歳出に響き、財政健全化を犠牲にする形で行われている。だが、その財政事実についての言及や批判はない。そしてさらに、GDP比3.5%の21兆円にする構想が持ち上がり、高市内閣が秋の防衛3文書改定で踏み込むものと予想されている。現在よりも+10兆円上積みされる。食料品消費税率ゼロの5兆円の2倍相当の巨額だが、こんな膨大な財源を一体どうやって捻出するのか。そういう議論は党首討論会では全くなされなかった。
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「食料品消費税ゼロ」と「防衛費拡大」の関係を、金額規模とGDP比を軸に整理すると、次のようになります。
① 金額規模の比較
| 項目 | 金額規模 | 現状からの増減 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 食料品消費税ゼロ | ▲5兆円 | 税収減 | 恒久減税の場合の財源問題 |
| 防衛費(従来水準) | 約5兆円台 | — | 長年GDP比約1% |
| 防衛費(現在) | 約11兆円 | +約5兆円 | GDP比約2%到達 |
| 防衛費3.5%構想 | 約21兆円 | +約10兆円 | 現在比でほぼ倍増 |
👉 数字だけを見ると
- 食料品消費税ゼロ(▲5兆円)=防衛費倍増(+約5兆円)とほぼ同規模
- 防衛費3.5%構想(+10兆円)は、減税案の2倍規模
② GDP比での整理
| 項目 | GDP比 | 金額イメージ | コメント |
|---|---|---|---|
| 防衛費(従来) | 約1% | 約5兆円台 | 長期的な慣行水準 |
| 防衛費(現在) | 約2% | 約11兆円 | 1%→2%へ倍増 |
| 防衛費3.5%構想 | 約3.5% | 約21兆円 | さらに+1.5%分上積み |
| 食料品消費税ゼロ | 約▲0.9%相当 | ▲5兆円 | 税収減少分 |
※GDPを約600兆円規模と仮定した概算
③ 財政的インパクトの対比構造
| 論点 | 食料品消費税ゼロ | 防衛費増額 |
|---|---|---|
| 性質 | 減税(歳入減) | 歳出増 |
| 規模 | 5兆円 | 5兆円〜10兆円 |
| 財源議論 | 強く求められる | 比較的議論が弱い(という主張) |
| 財政健全化との関係 | 赤字拡大懸念 | 同様に赤字拡大要因 |
④ 構造的な関係
整理すると:
「5兆円の減税」には厳しい財源論が向けられるが、
「5兆円〜10兆円の防衛費増額」には同程度の財源批判がなされていないのではないか」
つまり、
- 規模としては同程度、あるいは防衛費の方が大きい
- しかし財源要求の厳しさに「非対称性」があるという問題提起
(前提:GDP約600兆円、防衛費3.5%(+10兆円)規模の追加財政需要を想定)
① 国債発行で賄った場合の長期金利影響
■ メカニズム
国債増発(+10兆円)
→ 国債供給増
→ 市場での価格下落
→ 長期金利上昇圧力
特に現在のように:
- 日銀がYCC(長短金利操作)を事実上緩和
- インフレ率が2%前後
- 国債保有の中心が日銀から民間へ戻りつつある
という局面では、市場金利の反応は以前より敏感です。
■ 影響の概算イメージ
仮に長期金利が 0.5%上昇 すると:
- 国債残高 約1,100兆円
- 利払い増加分(平均反映で)年間数兆円規模
つまり:
10兆円の防衛費増 → 将来さらに利払い数兆円増
これは「財源を将来へ先送りするが、将来コストを増やす」構造です。
■ リスクの分岐
| 経済環境 | 金利反応 |
|---|---|
| デフレ・需要不足 | 金利上昇は限定的 |
| インフレ持続 | 金利急騰リスク |
| 海外金利高止まり | 円安圧力+金利上昇 |
現在は「安全圏」とは言い切れない状況です。
② 増税で賄う場合の税目別シミュレーション
■ 10兆円を増税で賄う場合
| 税目 | 必要増税規模(概算) | 経済影響 |
|---|---|---|
| 消費税 | 約4%分 | 需要冷却・逆進性 |
| 所得税 | 最高税率+数% | 高所得層中心 |
| 法人税 | 実効税率+5%前後 | 投資抑制懸念 |
| 社会保険料 | 数%引き上げ | 可処分所得減 |
※消費税1% ≒ 約2.5兆円
■ 政治的現実
- 消費税増税 → 選挙困難
- 所得税増税 → 高所得層反発
- 法人税増税 → 経団連反発
- 社会保険料増 → 現役世代反発
つまり:
財源論を徹底すると、どの税目でも強い政治コストが発生
③ 社会保障費とのトレードオフ比較
■ 現在の主要歳出(概算)
| 項目 | 規模 |
|---|---|
| 社会保障費 | 約38兆円 |
| 防衛費(現状) | 約11兆円 |
| 防衛費3.5%構想 | 約21兆円 |
■ 仮に+10兆円を社会保障から捻出すると?
- 医療費自己負担増
- 年金給付削減
- 介護給付抑制
社会保障は自動増加(高齢化)しているため、
防衛費拡大は「社会保障伸び率の抑制」と同時に進まざるを得ない
という構造になります。
④ 財務省的思考モデルでの整合性分析
財務省的ロジックは基本的に:
恒久支出には恒久財源を
という原則。
■ 財務省的評価
| 政策 | 財務省的評価 |
|---|---|
| 食料品消費税ゼロ | 恒久減税 → 恒久財源必要 |
| 防衛費倍増 | 恒久支出 → 恒久財源必要 |
理論上は「同じ扱い」になるはずです。
■ しかし現実では
- 防衛費は「安全保障」という優先政策
- 国際公約(NATO基準2%)
- 同盟関係圧力
により「例外的扱い」が生じる可能性。
財務省は実際には:
- 一部増税(法人税・所得税)
- 歳出削減
- 不足分は国債
という折衷型モデルを採る可能性が高い。
まとめ構造図
防衛費3.5%(+10兆円)
↓
選択肢
① 国債 → 金利上昇リスク
② 増税 → 景気冷却・政治困難
③ 社会保障抑制 → 高齢層反発
④ 混合型 → 徐々に負担分散
本質的な問い
5兆円の減税は「財源を問われる」
10兆円の軍拡は「財源議論が弱い」
この非対称性は、
- 財政論の問題か
- 政治優先順位の問題か
- メディアのフレーミングの問題か
ここが核心になります。
前提:GDP約600兆円、防衛費+10兆円を想定。
① 金利暴騰シナリオ
■ 起点
- 国債増発(+10兆円)
- 日銀が買い支えを縮小
- インフレ率が高止まり(2〜3%超)
この3つが同時に起きると、市場は
「財政拡張+金融緩和不能」
と判断する可能性があります。
■ 連鎖メカニズム
国債増発
↓
国債価格下落
↓
長期金利上昇
↓
利払い費増大
↓
さらに国債増発
↓
信認低下
これが「悪循環型スパイラル」です。
■ どの水準で危険か?
日本の国債残高は約1,100兆円。
仮に平均金利が:
- 1% → 利払い約11兆円
- 2% → 約22兆円
- 3% → 約33兆円
防衛費3.5%(約21兆円)と同規模になります。
つまり:
金利3%超が持続すると、財政構造が質的に変わる。
■ ただし現実的な歯止め
- 国債の約半分は日銀保有
- ほぼ円建て
- 家計金融資産が潤沢
ゆえに「ギリシャ型破綻」は起きにくい。
問題は「緩慢な財政圧迫型」です。
② インフレと軍拡の同時進行モデル
■ 軍事支出の性質
防衛費は:
- 国内産業刺激
- 需要拡大
- 技術投資
の側面を持ちます。
■ しかし現在は
- 既に人手不足
- エネルギー価格上昇
- 円安
供給制約が強い。
この環境で軍拡すると:
需要追加 → インフレ圧力増幅
■ モデル図
軍拡
↓
財政拡張
↓
総需要増
↓
供給制約下で価格上昇
↓
金利上昇圧力
つまり、
インフレ期の軍拡は金利上昇とセットになりやすい
デフレ期とは逆の力学です。
③ 日本財政は本当に破綻するのか?
ここは冷静に。
■ 破綻とは何か?
- 国債が売れない
- 利払い不能
- 通貨暴落
これが「急性破綻」。
日本は:
- 自国通貨建て
- 中央銀行が最後の買い手
- 経常黒字国
ゆえに急性破綻の可能性は低い。
■ しかし別のリスク
「静かな劣化」
- 高インフレ容認
- 通貨価値低下
- 実質所得減少
- 社会保障削減
これは「破綻」ではなく
国民生活の長期的圧迫
という形で現れます。
④ MMT的整理
■ MMTの基本命題
- 自国通貨建て国債は破綻しない
- 真の制約はインフレ
したがって:
財源は税ではなく、インフレ制御である
■ この視点で整理すると
防衛費+10兆円
→ 供給余力があれば問題なし
→ 供給制約下ならインフレ加速
税は「財源」ではなく:
- 需要抑制装置
- 格差調整装置
という位置づけ。
■ MMTの弱点
- 市場金利の急変リスクを軽視
- 為替変動の影響
- 国際資本移動の心理要因
特に日本はエネルギー輸入国。
円安+インフレは生活に直撃します。
4つを統合すると
| 視点 | 危険点 |
|---|---|
| 金利暴騰 | 利払い費急増 |
| インフレ軍拡 | 物価上昇+金利上昇 |
| 破綻論 | 急性より慢性劣化型 |
| MMT | インフレ管理が鍵 |
本質的な分岐点
問題は
「日本経済に供給余力があるか」
です。
- 需要不足社会なら軍拡は景気刺激
- 供給制約社会ならインフレ加速
現在は後者に近づきつつある。
「防衛費+10兆円拡大」と同時に円安が進行した場合」の生活水準への影響を、段階的にシミュレーションします。
(前提:GDP約600兆円、エネルギー・食料の輸入依存が高い日本経済)
① 出発条件(仮定)
- 防衛費:+10兆円(GDP比+1.5%)
- 国債増発中心で調達
- 長期金利:+0.5〜1%上昇
- 円相場:1ドル150円 → 180円へ(約20%下落)
② 円安の直接影響
日本は
- エネルギー自給率 約12%前後
- 食料自給率(カロリーベース)約38%
つまり、円安は即座に
輸入価格上昇 → 物価上昇
を引き起こします。
■ 物価への波及(概算)
円安20%
→ 輸入品価格 15〜20%上昇
→ 消費者物価 全体で約3〜5%押し上げ
特に:
- ガソリン
- 電気代
- 食料品
- 医薬品原材料
が直撃します。
③ 家計への影響シミュレーション
平均的世帯(可処分所得500万円想定)
■ インフレ5%の場合
実質購買力:
500万円 × 0.95 = 475万円相当
年間25万円の実質減少。
■ エネルギー・食料比重の高い世帯
低所得層は支出の
- 食費+光熱費比率が高い
ため、実質影響は
7〜10%に達する可能性
つまり
実質所得▲35〜50万円規模
④ 金利上昇との複合効果
円安+インフレ
↓
日銀が金利引上げ
↓
住宅ローン上昇
例えば:
- 3,000万円ローン
- 金利+1%
→ 年間支払+約30万円
家計負担はさらに増大。
⑤ 国家財政への影響
円安
→ 輸入物価上昇
→ 補助金増(電気・ガス等)
→ 財政支出増
さらに:
金利1%上昇
→ 利払い費+約10兆円規模(徐々に反映)
つまり:
軍拡+円安は財政を二重に圧迫
⑥ マクロ全体の構図
軍拡(+10兆円)
↓
国債増発
↓
円安進行
↓
輸入物価上昇
↓
インフレ
↓
実質所得低下
↓
消費減退
↓
成長率鈍化
⑦ ただし「一部プラス効果」
- 輸出企業の利益増
- インバウンド増加
- 名目GDP上昇
しかし:
- 家計実質所得が下がると内需は冷える
- 賃金上昇が物価に追いつかなければ生活は悪化
⑧ 最悪シナリオ(スタグフレーション型)
- インフレ5〜6%
- 成長率1%未満
- 金利2%超
→ 実質所得低下+景気停滞
これが「静かな生活水準の劣化」です。
⑨ 歴史的比較
- 1970年代オイルショック
- 2013年以降の急激円安局面
- 2022年エネルギー価格高騰
いずれも生活実感は悪化しました。
⑩ 本質的な問い
防衛費拡大は:
- 安全保障リスクへの保険か
- 生活水準リスクの増幅か
円安が同時進行すると、
負担は家計へ転嫁されやすい
という構造が見えます。
