「Temperament as a basic element of bipolar spectrum and subthreshold manifestations(双極スペクトラムおよび閾値下症状の基本要素としての気質)」2020の要約と解説です。
この論文は、「双極性障害は、突然起こる『病気』ではなく、その人のもともとの『気質(性格の土台)』の延長線上にある」という考え方を強調したものです。
1. 論文の要約
【目的】
気質が双極スペクトラム(双極性障害とその周辺の軽い症状)の形成において、いかに基礎的な要素であるかを明らかにすること。
【方法】
1977年から2007年までの、気質と双極性障害の関連に関する英語論文を系統的に調査・分析しました。
【結果】
- 歴史的転換: 19世紀末までは「躁」と「うつ」は別々の病気と考えられていましたが、クレペリンは両者が地続きであるという「連続体(コンティニュアム)」の概念を提唱しました。
- 現代の視点: アキスカ(Akiskal)らの研究によって、この概念が現代精神医学に再導入されました。双極性障害の患者の歴史を振り返ると、本格的な発症前(病前)から特定の気質が観察され、病気が落ち着いている寛解期にもその気質は持続していることが分かりました。
【結論】
精神科医にとって、多様な双極スペクトラムを正しく診断することは現代の大きな挑戦です。「気質の調節不全」こそが気分障害の病理的な基盤であり、個人の特定の気質的特徴は、将来気分障害を発症する「素因(なりやすさ)」を反映しています。
2. 分かりやすい解説:なぜ「気質」が重要なのか?
この論文の内容を、直感的に理解できるよう3つのポイントで解説します。
① 双極性障害は「性格の延長」にある
「うつ病」や「躁病」という派手な症状が出るずっと前から、その人の内側には「気質の波」が存在しています。
- ハイパーサイミック(発揚気質): 普段からいつも元気で、社交的で、活動的な人。
- サイクロスサイミック(気分循環気質): 普段から気分の浮き沈みが激しく、感受性が豊かな人。
この論文は、こうした「もともとの気質の波」が大きくなりすぎてコントロールを失った状態(調節不全)が、双極性障害の本質であると述べています。
② 「症状がない時」も病気の一部
これまでの医学は「今、躁状態か?うつ状態か?」という点ばかりに注目してきました。しかし、この論文は「症状が出ていない時の、その人の素の性格(気質)」の中にこそ、診断のヒントがあると言っています。
エピソード(発症)は氷山の一角に過ぎず、海面下には広大な「双極的な気質」が広がっているというイメージです。
③ 診断の「見逃し」を防ぐ鍵
単なる「うつ病」だと思って治療していても、実はその人の土台に「双極的な気質(いつもは元気すぎる、あるいは気分のムラが激しい)」がある場合、それは「双極スペクトラム」に属します。
この気質に気づかずに一般的な抗うつ薬だけで治療すると、かえって気分の不安定さを助長してしまうことがあります。医師が患者の人生を「線」で捉え、もともとの気質を理解することが、正しい診断と治療への近道なのです。
結論としてのメッセージ
この論文は、「双極性障害は人生のあちこちにサインを出している」ということを教えてくれています。
「最近うつになった」という点だけでなく、「もともと自分はどういうエネルギーの持ち主だったか?」という気質(性格の土台)を見ることの重要性を、臨床現場に強く訴えかけている内容です。
