この論文は、2007年に学術誌『Biological Psychiatry』で発表された、The Prevalence and Correlates of Eating Disorders in the National Comorbidity Survey Replication「米国における摂食障害の普及率と関連要因」に関する非常に重要な研究です(NCS-R:全米共病構造調査再現調査のデータを使用)。
一般人口を対象とした大規模な調査により、拒食症、過食症、そして当時はまだ比較的新しい概念だった「むちゃ食い障害」の実態を明らかにしました。
以下に、要点を絞って解説します。
1. 研究の背景と目的
これまで、摂食障害の研究は「病院を受診した患者」を対象にすることが多く、一般人口の中にどれくらい患者がいるのか、どのような問題を抱えているのかという正確なデータが不足していました。この研究は、米国の全人口を代表するサンプル(9,282人)を対象に、対面調査でその実態を調べました。
2. 主な結果:有病率(一生のうちに経験する割合)
調査では、DSM-IV(当時の診断基準)に基づき、3つの主要な摂食障害の「生涯有病率」を算出しました。
- 神経性無食欲症(拒食症/AN)
- 女性:0.9% / 男性:0.3%
- 神経性大食症(過食症/BN)
- 女性:1.5% / 男性:0.5%
- むちゃ食い障害(BED)
- 女性:3.5% / 男性:2.0%
【ここがポイント】
- むちゃ食い障害(BED)が最も多い: 拒食症や過食症よりも、むちゃ食い障害(代償行為としての嘔吐などがない過食)の方が一般的であることが示されました。
- 男性の存在: 摂食障害は女性に多いものの、男性も決して少なくない(BEDでは2.0%)ことが浮き彫りになりました。
3. 健康状態と合併症
- 精神疾患との併存: 摂食障害を持つ人のほとんど(約8割〜9割)が、不安障害、気分障害(うつ病など)、薬物依存など、他の精神疾患を生涯のいずれかの時期に併発していました。
- BMI(体格指数)との関連:
- 拒食症の経験者は、現在の体重も低め(BMI 18.5未満)である傾向がありました。
- むちゃ食い障害(BED)は、重度の肥満(BMI 40以上)と強く関連していました。
4. 治療と社会的な影響
- 機能障害: 過食症(BN)やむちゃ食い障害(BED)の患者の多くが、私生活や仕事において何らかの支障(役割障害)をきたしていると回答しました。
- 深刻な未治療率: 摂食障害のために治療を受けたことがある人は、全体のわずか一部でした。多くの人が適切な助けを得られていない「未治療」の状態にあることが分かりました。
- 時代による増加: 出生年代別に分析したところ、若い世代ほど過食症やむちゃ食い障害のリスクが高まっている傾向が見られました。
5. 結論とメッセージ
この研究は、以下のことを強調して締めくくっています。
- 公衆衛生上の大きな課題: 摂食障害は単なる「食べ方の問題」ではなく、他の精神疾患との併発率が高く、生活に深刻な支障をきたす重大な疾患である。
- BED(むちゃ食い障害)への注目: 非常に高い有病率と肥満との関連があるため、医療現場での認識を高める必要がある。
- 治療アクセスの改善: 多くの人が苦しんでいるにもかかわらず、専門的な治療に結びついていない。早期発見と治療支援の体制づくりが急務である。
解説のまとめ
この論文は、「摂食障害は決して珍しい病気ではなく、特に『むちゃ食い障害』は多くの人が抱える深刻な問題であること、そしてその多くが適切な治療を受けられていないこと」を世界に知らしめた、マイルストーン的な研究と言えます。
