1.関係的主体 × 民主主義 ― 理論的緊張
民主主義(とくに近代リベラル型)は、
- 個人が意見を持ち
- 公共空間で主張し
- 討議し
- 決定に責任を持つ
という構造を前提にします。
これは
John Stuart Mill
以来の「意見の自由市場」モデルです。
一方、関係的主体は:
- 関係の調和を優先する
- 対立を避ける
- 明示的主張より空気を読む
- 決定を場に委ねやすい
ここに摩擦が生じます。
2.関係的主体が民主主義を実行すると起こり得る問題
① 表面的合意の増殖
議論が十分に対立を可視化しないまま、
「なんとなく合意」
が成立する。
→ 熟議なきコンセンサス
→ 反対意見の潜在化
② 責任の拡散
決定は「みんなで決めた」になるが、
- 誰も最終責任を取らない
- 政治的失敗の帰属が曖昧
→ 統治の透明性が低下
③ 空気による規範形成
明文化されていない規範が強く働く。
これは
Michel Foucault
の言う「規律権力」に近い構造を持ちます。
ただし日本の場合は、
- 監視国家的というより
- 相互監視的
という特徴があります。
④ 強いリーダー待望
関係的主体は対立を処理しづらいため、
- 明確に決めてくれる人物
- 曖昧さを整理してくれる存在
を求めやすい。
結果として、
空気型民主主義 → 決断型政治への揺り戻し
が起こり得ます。
3.では現状の日本はどうか?
構造的特徴を整理します。
■ 投票率
政治的主体性の低さが指摘される。
しかしこれは単純な無関心というより、
- 政治を「対立の場」として積極的に消費しない文化
- 日常の関係維持を優先
という側面もある。
■ 政治言語の弱さ
欧米のような「理念対立」型よりも、
- 実務調整型
- 技術官僚型
- 漸進型
が強い。
■ SNS時代の変化
ここで変化が起きています。
- 空気が可視化される
- 同調圧力が増幅される
- 炎上が「恥」の公開処刑化する
つまり、関係的構造がデジタル空間で強化されている。
4.問題は本当に「未成熟」か?
よく言われるのは、
日本は近代主体が未成熟だから民主主義が弱い
という議論。
しかしそれだけでは説明不足です。
日本の民主主義は、
- 対立を最小化
- 調整を最大化
- 漸進的修正を重視
という別様式で動いている。
これは「低強度民主主義」とも言えます。
5.潜在的リスク
関係的主体型民主主義の最大の弱点は:
危機時に弱い
- 明確な対立処理が苦手
- 原理的判断が曖昧
- 外部圧力に対して過剰適応しやすい
歴史的に見ると、これは
World War II
期の集団同調の問題とも接続します。
6.しかし強みもある
- 分断が比較的少ない
- 暴力的衝突が少ない
- 社会秩序が安定
つまり、
高度対立処理能力は低いが、
高度関係維持能力は高い
7.現在の日本の位置
今の日本は:
- 関係的主体の基盤は維持
- しかしデジタル空間で情動強度が増大
- 近代的主張型主体が部分的に増加
- 構造が揺れている
いわば
空気型民主主義と主張型民主主義の混在状態
8.核心
関係的主体が民主主義を実行すると問題が起こるのではなく、
「関係性の強さ」と「原理的判断」のバランスが崩れたときに問題が起こる
日本は今、
- 関係性は強い
- しかし理念的公共討議が弱い
というアンバランスを抱えている。
