双極性障害(BD)における「光過敏性」と「体内時計(概日リズム)」、そして「リチウム」の関係を調査する大規模研究「HELIOS-BD」の計画書(プロトコル)に関するものです。
Investigating light sensitivity in bipolar disorder (HELIOS-BD) 2024
1. 研究の背景:なぜ「光」に注目するのか?
双極性障害の患者の多くは、睡眠や活動のタイミングが24時間サイクルからずれてしまう「概日リズム(体内時計)の乱れ」を抱えています。
- 光の影響: 体内時計を調整する最大の要因は「光」です。
- 仮説: 双極性障害の人は、健康な人に比べて光に対して過度に敏感(過敏)なのではないか。
- 悪循環: 光に過敏すぎると、体内時計が簡単に狂ってしまい、それが躁状態やうつ状態を引き起こす「スイッチ」になっている可能性があります。
2. 研究の核心:リチウムの「謎」に迫る
リチウムは70年以上、双極性障害の最も効果的な治療薬として使われてきましたが、「なぜ効くのか(メカニズム)」については、いまだに完全には解明されていません。
この研究では、「リチウムは網膜の光過敏性を抑えることで、体内時計を安定させているのではないか」という非常にユニークな視点を提示しています。
3. 主な仮説
このプロジェクトには2つの大きな仮説があります。
- 網膜レベルの異常: 双極性障害の人は、目(網膜)のレベルで何らかの生理的な変化があり、光の視覚的・非視覚的な影響に対して過敏症になっている。
- リチウムの役割: 気分安定薬のリチウムが効くのは、この光への過敏性を緩和し、光による体内時計の乱れを防いでいるからである。
4. 研究の方法(HELIOS-BDスタディ)
180人の参加者を募集し、18ヶ月間にわたって以下の調査を行います。
- 比較グループ:
- 双極性障害の患者(リチウム服用中)
- 双極性障害の患者(リチウム非服用)
- 健康な対照群
- 調査内容:
- 光への反応: 光を浴びた時の視覚的な反応と、体内時計に関わる非視覚的な反応(メラトニン抑制など)を測定。
- 網膜の微細構造: 網膜の組織そのものに変化があるかどうかを精密に検査。
5. この研究がもたらす意義(解説)
この研究が成功し仮説が証明されると、以下のような画期的な進歩が期待できます。
① 新しい診断指標(バイオマーカー)の確立
「目の光への反応」を調べることで、双極性障害の診断や、将来の気分変動の予測ができるようになる可能性があります。
② 患者に合わせた最適な治療(層別化)
リチウムが「光過敏性を抑える」ことで効いているとわかれば、光への反応を測定することで、リチウムが効きやすい患者を事前にある程度特定できるようになります。
③ 治療のイノベーション
薬物療法だけでなく、サングラスや照明の調整といった「光の管理」が、より科学的な根拠に基づいた治療法として確立されるかもしれません。
要約のまとめ
この研究は、「双極性障害は『目の網膜レベルでの光への過敏さ』が原因で体内時計が狂う病気かもしれない」という仮説を検証するものです。また、「リチウムはその過敏さをブロックすることで気分を安定させている」という新説を明らかにしようとしています。
前にお送りいただいた「遺伝子解析の論文(4つの次元)」が「体の中(設計図)」の原因を探るものだったのに対し、今回の研究は「環境(光)と体(目)の接点」における原因を探るものであり、両者が組み合わさることで双極性障害の理解がより一層深まっていくと考えられます。
