Ⅰ.診断学的位置づけ
現在、DSM-5-TRやICD-11に「SNS依存」という正式診断名はありません。
しかし臨床的には以下の枠組みで理解されます:
- 行動嗜癖(behavioral addiction)
- インターネット使用障害
- 強迫スペクトラム
- 気分障害の自己調整行動
参考として、ICD-11では
世界保健機関が
「Gaming disorder(ゲーム障害)」を正式診断に含めています。
SNS依存はその近縁領域に位置づけられることが多い。
Ⅱ.神経生物学的理解(脳主義的側面)
SNSは報酬系を直接刺激します。
- 可変比率強化(いつ「いいね」が来るか分からない)
- 社会的承認報酬
- 怒り・炎上による覚醒
これはギャンブルと同様のドーパミン系活性を引き起こします。
臨床的には:
- 刺激耐性の上昇(より強い投稿を求める)
- 離脱症状(不安・焦燥)
- コントロール困難
が観察されます。
SNS依存は「脳主義」が報酬系をハックされた状態
Ⅲ.気分障害との関連(躁うつ循環)
SNS依存は特に以下と関連が強い:
- 双極スペクトラム
- 軽躁傾向
- 境界性パーソナリティ特性
軽躁状態では:
- 投稿頻度増加
- 承認追求の加速
- 攻撃性の上昇
抑うつ期には:
- 他者比較による自己否定
- 監視的閲覧(いわゆる doomscrolling)
つまり、
SNSは躁うつ循環を増幅する環境装置
Ⅳ.精神分析的理解
1.ナルシシズム
SNSは「鏡の間」。
自己像を外部評価に依存させる構造を持つ。
ジークムント・フロイトの二次的ナルシシズムの再活性化。
2.分裂と投影
メラニー・クラインのいう妄想分裂ポジションが持続。
- 自分=正義
- 他者=悪
炎上や集団攻撃は投影性同一視の社会的現象。
3.恥の回避
SNS依存の根底にはしばしば「恥の回避」がある。
現実対面では恥が作動する。
SNSでは匿名性がそれを弱める。
よって、
恥の防衛としてのSNS没入
が生じる。
Ⅴ.人間学的精神療法の視点
依存の根底にあるのは:
- 存在不安
- 承認不安
- 孤立恐怖
SNSはそれらを一時的に鎮静する。
しかし本質的な関係性は形成されない。
臨床では、
- 対面関係の回復
- 身体感覚の回復
- 時間感覚の回復
が治療軸になる。
Ⅵ.日本文化との関係
日本では:
- 同調圧力
- 恥文化
- 空気支配
が強い。
SNSはそれを可視化し数値化する。
結果:
- 承認スコア化
- 空気の過剰読解
- 炎上恐怖
が依存を強化。
Ⅶ.臨床で実際に見る症状パターン
精神科外来でよく見るのは:
- 不眠(深夜スクロール)
- 不安発作(通知への過覚醒)
- 抑うつ増悪(比較劣等)
- 軽躁化(投稿過多)
- 対人回避の強化
重要なのは:
SNS依存は単独疾患というより「増幅器」
既存の脆弱性を拡大する。
Ⅷ.理論との統合
まとめると:
- 脳主義 → 即時報酬ループ
- DNA主義 → 長期関係維持
- 恥 → 協力維持装置
- SNS → 恥装置を無効化する環境
よってSNS依存は:
進化的協力装置が神経報酬装置に乗っ取られた状態
Ⅸ.治療の方向性
精神科臨床で重要なのは:
- 強制的禁止ではなく調整
- スクリーンタイムの段階的制限
- 睡眠の再建
- 双極傾向の評価
- 恥と承認欲求の言語化
根治は「アプリ削除」ではなく、
報酬構造の再設計
