Dysfunction of the Purinergic System in Bipolar Disorder
Magda Malewska-Kasprzak 1, Agnieszka Permoda 1, Janusz K Rybakowski 1
Affiliations Expand
- PMID: 35279658
- DOI: 10.1159/000520146
Abstract
Objective: To verify the purinergic hypothesis of bipolar disorder (BD), we assessed the concentration of various components of the purinergic system in manic and depressed bipolar patients.
Methods: Sixty-two patients (19 male and 43 female), aged 22-69 (49 ± 14) years, with BD were studied. Twenty-three patients (9 male and 14 female) were assessed during a manic episode and subsequent remission, and 39 patients (10 male and 29 female) were investigated in a depressive episode and the following remission. Twenty-two healthy subjects (8 male and 14 female), aged 19-70 (41 ± 14) years, served as the control group (CG). The severity of symptoms was evaluated using the Hamilton Depression Rating Scale (HDRS) and the Young Mania Rating Scale (YMRS). The concentrations of uric acid (UA) were estimated by the uricase-based method, whereas xanthine dehydrogenase (XDH), adenosine (Ado), and adenosine deaminase (ADA) by ELISA.
Results: The mean score in the acute episode was 32 ± 8 points in the YMRS for mania and 31 ± 8 in the HDRS for depression. UA levels were significantly higher in female bipolar patients compared to the females in the CG. The concentrations of XDH, Ado, and ADA were significantly lower in bipolar patients both during an acute episode and remission compared to CG.
Conclusions: A significant dysfunction of the purinergic system in patients with BD was observed. In most instances, the disturbances were not different in the acute episode than in remission what qualifies them as trait dependent. The results may confirm the role of the purinergic system in the pathogenesis of BD.
Keywords: Adenosine; Adenosine deaminase; Bipolar disorder; Purinergic system; Uric acid; Xanthine dehydrogenase.
© 2022 S. Karger AG, Basel.
2022年に発表された論文『Dysfunction of the Purinergic System in Bipolar Disorder(双極性障害におけるプリン作動性システムの機能不全)』の要約と詳しい解説をまとめます。
この研究は、双極性障害(BD)の生物学的な原因として注目されている「プリン作動性仮説」を検証した、非常に重要な研究です。
論文要約
1. 研究の目的
双極性障害の原因として、エネルギー代謝や神経伝達に関わる「プリン作動性システム」が関係しているという説があります。この研究は、躁状態、うつ状態、および寛解期(症状が落ち着いている時期)の患者において、このシステムの各成分がどのように変化しているかを調査し、この仮説を検証することを目的としました。
2. 対象と方法
- 対象者: 双極性障害患者 62名(躁状態から寛解した群23名、うつ状態から寛解した群39名)、および健康な対照群 22名。
- 測定項目: 以下の物質の血液中濃度を測定しました。
- 尿酸 (UA): プリン代謝の最終産物。
- キサンチンデヒドロゲナーゼ (XDH): 尿酸を作る酵素。
- アデノシン (Ado): 神経を鎮静させる働きを持つ物質。
- アデノシンデアミナーゼ (ADA): アデノシンを分解する酵素。
3. 主な結果
- 尿酸 (UA): 女性の双極性障害患者は、健康な女性よりも尿酸値が有意に高いことがわかりました。
- その他の成分 (XDH, Ado, ADA): これらの濃度は、双極性障害患者において、急性期(躁・うつ)でも寛解期でも、一貫して健康な人より有意に低いという結果が出ました。
4. 結論
双極性障害の患者には、プリン作動性システムの著しい機能不全が存在します。特筆すべきは、これらの異常が症状の有無(躁・うつ・寛解)にかかわらず見られたことです。これは、この機能不全が一時的な「状態」ではなく、双極性障害という病気が持つ「体質的な特徴(特性)」であることを示唆しています。
詳しく解説:なぜこの研究が重要なのか?
この論文をより深く理解するために、3つのポイントで解説します。
① 「プリン作動性システム」とは何か?
プリン体(アデノシンなど)は、細胞のエネルギー源(ATP)の原料ですが、脳内では「神経伝達の調整役」としても働きます。
特にアデノシンは、脳の興奮を抑える「天然のブレーキ」のような役割を持っています。このアデノシンの働きが弱まると、脳が過剰に興奮しやすくなり、躁状態を引き起こす一因になると考えられています。
② 「特性依存(Trait-dependent)」という発見
この研究の最も重要な発見は、アデノシンや関連酵素の低さが「寛解期(症状がない時期)」でも見られたという点です。
- 状態依存 (State-dependent): 躁の時だけ高い、うつの時だけ低い(症状に連動する)。
- 特性依存 (Trait-dependent): 調子が良くても悪くても、常に異常がある(その人の持っている病気の本質)。
つまり、双極性障害の人は、「脳のブレーキ(アデノシン系)が常に弱いという生物学的な基盤(体質)」を持っている可能性をこのデータは示しています。
③ 尿酸と躁状態の関係
これまでの多くの研究で「躁状態の時には尿酸値が上がる」ことが報告されてきました(尿酸が高いと活動的・攻撃的になりやすい)。
今回の研究でも、女性において尿酸値の高さが確認されました。尿酸はプリン体の燃えかすのようなものですが、これが高いということは、「アデノシンなどの有用なプリン体がどんどん分解されてしまっている(結果としてブレーキが利かなくなっている)」というプロセスの裏返しであるとも解釈できます。
先述の「躁病先行仮説」との関連性
この論文の結果は、以前議論した「躁病先行仮説(躁病こそが病気の本質である)」とも非常に相性が良いものです。
脳のプリン作動性システム(ブレーキ役)に恒常的な欠陥があるからこそ、何かのきっかけでシステムが暴走(躁状態)しやすく、その暴走による極度の疲弊が「うつ」を招く、という一連のメカニズムを裏付ける生物学的な証拠の一つと言えます。
まとめると:
この論文は、「双極性障害は、脳の鎮静システム(プリン系)が根本から弱っている病気であり、それは症状が落ち着いている時でも変わらない体質のようなものである」ということを科学的に示した研究です。
