カント(イマヌエル・カント)がその著書『実践理性批判』の結論部分で述べた、あまりにも有名な「二つの不思議(感嘆すべきもの)」とは、以下の二つです。
「わが上なる星空」と「わが内なる道徳法則」
原文のニュアンスを含めて意図を解きほぐすと、次のような内容になります。
1. わが上なる星空(仰ぎ見る天の星々)
これは、私たちの肉体の外側に広がる、無限に広大な「宇宙(自然界)」を指しています。
カントは、夜空に輝く無数の星々を見上げるとき、自分という人間がいかに小さく、無力で、広大な物質宇宙の中の塵のような存在であるかを感じ、そこに圧倒的な神秘と畏敬の念を抱きました。これは、科学や客観的な観察の対象となる「外側の世界」の不思議です。
2. わが内なる道徳法則(心の中の倫理観)
これは、私たちの精神の内側に存在する、「なすべきことをなせ」と命じる「良心(道徳的義務)」を指しています。
たとえ誰に命じられたわけでもなく、損得勘定抜きにして、「人間として正しくあろう」とする崇高な意志が自分の心の中に備わっていること。カントは、この内なる精神の働きこそが、人間を単なる動物(本能に従うだけの存在)から解き放ち、無限の価値を与えるものであると考え、そこに深い感動を覚えたのです。これは、個人の内面や主観の領域にある「内側の世界」の不思議です。
ケン・ウィルバーの思想との繋がり
あなたが先ほどまで見てきたケン・ウィルバーの「四象限(AQAL)」のモデルを使うと、カントが言ったこの二つの不思議は驚くほどきれいに整理されます。
- 「わが上なる星空」= 右側象限(外面的な世界)
客観的に測定可能で、物理的な広がりを持つ「宇宙」や「物質」の世界。 - 「わが内なる道徳法則」= 左側象限(内面的な世界)
主観的な意識や価値観、良心、あるいは文化的な正義といった「意味」の世界。
近代哲学の巨人であるカントは、まさにこの「外側の科学的な真理」と「内側の道徳的な価値」という二つの世界が、どのようにして自分という一人の人間の中で両立しているのかを生涯かけて問い続けました。
ウィルバーのインテグラル思想は、カントが驚嘆したこの「星空(外面)」と「道徳(内面)」を、どちらかを否定することなく、一つの巨大な地図の中に統合しようとした壮大な試みであるとも言えるのです。
