進化論 理論の修正を迫る事実

進化論(ダーウィニズム)は現代生物学の金字塔ですが、科学の世界において「批判」は理論をより強固にするための健全なプロセスです。宗教的な否定ではなく、学術的・論理的な視点からの議論は今も活発に行われています。

現在、進化論そのものを完全に覆す事実は見つかっていませんが、「チャールズ・ダーウィンの素朴な自然選択説」では説明しきれない現象や、理論の修正を迫る事実はいくつか存在します。


1. 「跳躍」と「停滞」:化石記録の不連続性

ダーウィンは、進化は極めてゆっくりと、一定の速度で進む(漸進論)と考えました。しかし、実際の地層(化石記録)を見ると、新しい種が突如として現れ、その後数百万年も姿を変えない「停滞」が一般的です。

  • 断続平衡説 (Punctuated Equilibrium): スティーヴン・ジェイ・グールドらが提唱。生物は通常、安定した状態を維持し、環境の激変時などに短期間で爆発的に進化するという説です。
  • カンブリア爆発: 数億年前、現在存在する動物の「門(グループ)」がほぼ一気に出現した現象。これはダーウィンの漸進的なモデルにとって、今なお大きな謎の一つです。

2. 「還元的不能な複雑性」:分子生物学からの問い

インテリジェント・デザイン説に近い文脈で語られることも多いですが、純粋な生化学的批判として「複雑すぎるシステム」の構築プロセスが議論されます。

  • マイケル・ベーヒーの議論: 例えば、細胞の「べん毛」や血液の凝固システム。これらは多くの部品が同時に揃わないと機能しません。「少しずつ進化する過程(中間段階)」では役に立たない部品を、自然選択はどうやって維持したのか?という問いです。
  • 中立進化説: 木村資生が提唱。分子レベルの変異の大部分は、生存に「有利」でも「不利」でもなく、ただ「運」によって広まるという説です。これは「すべての変化は適応のためである」という強い選択万能主義への強力な反論となりました。

3. エピジェネティクス:獲得形質の「再評価」

かつて「親が努力して得た能力は遺伝しない(ラマルク説の否定)」とされてきましたが、近年の研究で、環境による遺伝子のスイッチのオン・オフ(エピジェネティクス)が子世代に引き継がれる現象が確認されています。

  • ソフトな継承: 飢餓やストレスの記憶が化学的なマーカーとしてDNAに付着し、次世代の形質に影響を与える。これは、DNAの塩基配列の変化のみを重視する従来のネオ・ダーウィニズムに修正を迫っています。

4. 系統樹の崩壊:水平伝播

進化は「木の枝分かれ」のように進むと考えられてきましたが、特に微生物の世界では、異なる種の間で遺伝子が直接やり取りされる「水平伝播」が頻繁に起きています。

  • 網状進化: 進化は一本の樹木(Tree of Life)ではなく、網目状(Web of Life)になっているという批判です。これにより、「共通の先祖」を特定する作業が非常に複雑化しています。

学術的批判の現在地

これらの批判は、進化論を「否定」するものではなく、むしろ**「拡張(拡張された進化総合:EES)」**しようとする動きです。現代では、単なる突然変異と自然選択だけでなく、以下の要素を統合する作業が進んでいます。

批判・修正の視点主な内容
発生拘束生物の形は物理的・発生学的な制約により、進化できる方向に限界がある。
ニッチ構築生物は環境に適応するだけでなく、自ら環境を作り替え(ダムを作るビーバーなど)、進化の方向を制御する。
自己組織化複雑な構造は、淘汰だけでなく物質の物理的な特性によって自発的に生じる。

ダーウィンの理論は、150年以上経った今も「中心的な柱」ですが、その周囲には多くの「例外」や「補足」が肉付けされ、巨大な建築物へと進化し続けています。


進化論の二つの重要トピックについて、2025年〜2026年現在の最新知見を交えて深掘りします。これらは、従来の「ダーウィン的な見方」を否定するのではなく、より多層的でダイナミックなものへと塗り替えています。


1. 中立進化説の最新知見:「見かけ上の中立」という新理論

木村資生博士が提唱した中立進化説(分子レベルの変異の多くは生存に有利でも不利でもないという説)は、長らく分子生物学の「標準モデル」でした。しかし、最新の研究はこの前提に大きな一石を投じています。

  • 「適応的追跡(Adaptive Tracking)」理論(2025年発表): ミシガン大学の研究チーム(Jianzhi Zhang教授ら)が発表した衝撃的な研究では、「中立説の根幹である『有利な変異は極めて稀である』という前提は間違っている」と指摘されました。
    • 事実: 実験進化やゲノム解析により、実は**「有利な変異(適応的な変異)」はこれまで考えられていたよりずっと頻繁に起きている**ことが判明しました。
    • なぜ中立に見えるのか: 環境が常に激しく変化しているため、ある瞬間には「有利」だった変異も、すぐに「不利」や「中立」に変わってしまいます。その結果、長いスパンで見ると、あたかもランダムに(中立に)変化しているように見えているだけだという主張です。
  • 結論のシフト: 「進化はランダムなドリフト(運)である」という中立説から、**「生物は目まぐるしく変わる環境を必死に追いかけているが、追いつけないために結果として中立的なデータとして残る」**という、より動的な「適応主義」への回帰が起きています。

2. カンブリア爆発の最新知見:「爆発」はもっと前から始まっていた?

かつて、5億4100万年前に「突如として」動物の多様性が現れたと考えられていたカンブリア爆発ですが、最新の地質学的・古生物学的知見はその「爆発の火種」をさらに過去へと遡らせています。

  • 「先行する爆発」の証拠(2025-2026年の研究):スペインやイギリスの研究チームは、カンブリア紀より数百万年以上前の**エディアカラ紀末期(約5億4500万年前)**の地層から、複雑な動きをしていた動物の痕跡(生痕化石)を詳細に分析しました。
    • 発見: これまで「動かない、または単純な動き」しかできなかったとされるエディアカラ生物群の中に、すでに左右相称の体、筋肉、そして高度な感覚器を持って海底を這い回っていた種がいたことが数学的な解析で示されました。
    • 意味: カンブリア爆発は「ゼロからの突然の出現」ではなく、その数百万年前から着実に積み上げられてきた**進化の「最終的な仕上げ」**だったという見方が強まっています。
  • 酸素濃度との関係の再考:これまで「酸素濃度の急上昇が爆発を招いた」とされてきましたが、最新の研究では**「酸素濃度の激しい変動(日周期のストレス)」**が、逆に生物に生理学的なストレスを与え、それが進化のイノベーションを促す「危機」として機能した可能性が議論されています。
  • 4つの眼を持つ先祖(2026年の最新報告):中国のチェンジャン(澄江)化石群の解析から、初期の脊椎動物(無顎類)が4つの画像形成眼を持っていたことが判明しました。これは、当時の捕食圧が想像以上に凄まじく、生き残るために極めて高度な視覚システムを「爆発的」に発達させる必要があったことを物語っています。

まとめ:現代進化論が描く新しい姿

トピック従来の定説最新の知見 (2025-2026)
中立進化説有利な変異は稀。進化は主に「運(ドリフト)」で進む。有利な変異は多い。しかし環境変化が速すぎて、結果として「中立」に見える(適応的追跡)。
カンブリア爆発5.4億年前に突如として動物の門が出揃った。5.45億年以上前から複雑化は始まっており、緩やかなプロセスが臨界点を超えた結果である。

これらの発見は、ダーウィンの「自然選択」というエンジンを認めつつも、その背景にある**「環境の激変」や「ゲノムの柔軟な応答」**が、私たちが想像していた以上に複雑であることを示しています。


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