私の最初のメモは、次のようでした。
1.子供が来院しても、うつ病と診断することはない。なぜかと考えた。
2.脳が出来上がっていないから(A説)。20歳か30歳になって、脳が完成してから後、うつ病は発生する。
2-1.シゾフレニー系と躁うつ病系は20歳くらいから、うつ病系は30歳くらいからという印象がある。
4.(A説に反して、子供の場合、脳の内部ではうつ病の変化が起こっているとしても)、それを大人の言葉と表現で表出できない。だから、本人も周囲も、うつ病と認識できない(B説)。
5.子供の脳は、うつ病になるし、表出もできるが、子供の脳は回復力が高く、急速にうつ病を脱出してしまう(C説)。ジュースのアルミ缶、軟式テニスのボール、バスケットボールと並べてみると、外力が加えられた時の変形の様子と回復の様子が全く異なる。子供の脳はすぐに元に戻る。子供は一般に睡眠も長いので、寝ている間にうつ病期が終わってしまう場合もある。数日から2週間程度で変調があったとしても、現在のうつ病の診断基準では症状が2週間以上の持続することが必要なので、診断されない。
6.何より、子供の果てしないエネルギーに接すると、ほとんど軽躁状態に近いと感じる。それなのにうつ状態が見られないのは、多分、脳神経細胞の回復も早いのだろうと思っていた。
7.「子供にうつ病なんてあるはずがない」——かつて精神医学の世界では、これが常識とされていた。子供は複雑な自己否定を行うほど認知的に成熟しておらず、悩みなどない存在だと過小評価されていた。しかし、最新の神経科学は全く別の事実を告げている。子供もうつ状態を経験するが、それは大人のものとは「見え方」が根本的に違う。だからうつ病と認識されていないだけなのではないか。
これを、本日の議論で深めることができたと思います。
その結果を、一般の人に分かりやすい表現で、エッセイのように解説してみてください。
とても大切で、しかも臨床家として長年抱いてこられた「違和感」から始まる思考だと思います。
以下では、今日の議論で深まった内容を踏まえつつ、専門用語をできるだけ抑え、一般の人にも届くエッセイ調でまとめます。
子どもは、ほんとうに「うつ病にならない」のか
精神科の外来に子どもが来ることは、珍しくありません。
けれども、正直に言えば、子どもを「うつ病」と診断することは、ほとんどありません。
それはなぜなのだろうか――この素朴な疑問から、私の考えは始まりました。
脳がまだ「出来上がっていない」という考え
まず、もっとも自然に浮かぶのは、
「子どもの脳はまだ完成していないから、うつ病は起こらないのではないか」
という考えです。
臨床の印象としても、
統合失調症や躁うつ病のような病気は、20歳前後から目立ち始め、
いわゆる典型的なうつ病は、30歳前後から増えてくる。
そう考えると、「脳が完成してから、うつ病は起こる」という見方(A説)には、一定の説得力があります。
でも、脳の中では何も起きていないのか?
ところが、よく考えてみると、少し引っかかります。
もし、子どもの脳の中で、すでに大人と同じような「うつ状態の変化」が起きていたとしても、
それを大人の言葉で表現できないだけなのではないか。
これが、もう一つの考え(B説)です。
子どもは、
「気分が落ち込んでいる」
「将来に希望が持てない」
「自分には価値がない」
といった抽象的な言葉を、まだ自在には使えません。
その代わりに、
お腹が痛い
頭が痛い
学校に行きたくない
怒りっぽくなる
ぼんやりする
といった形で、身体や行動として表現します。
本人も「自分はうつだ」とは思わない。
周囲の大人も、「性格の問題」「一時的な不調」と受け取る。
結果として、うつ病として認識されないのです。
回復が早すぎて、見えないという可能性
さらに考えを進めると、もう一つの可能性が浮かびます(C説)。
子どもの脳は、とにかく回復が早い。
たとえば、
ジュースのアルミ缶、
軟式テニスのボール、
バスケットボールを並べて、
同じ力で押したら、どうなるでしょう。
アルミ缶はへこみ、戻りません。
軟式ボールは少し戻る。
バスケットボールは、すぐに元の形に戻る。
子どもの脳は、どちらかといえば、バスケットボールに近い。
外からのストレスで一時的に変形しても、
睡眠や休息によって、すぐに元に戻ってしまう。
しかも、子どもはよく眠ります。
場合によっては、寝ている間に「うつ状態」が終わってしまうことさえある。
数日から1週間、調子が悪い時期があったとしても、
現在の診断基準では「2週間以上続かない」と、
うつ病とは診断されません。
つまり、
存在していたとしても、診断の網にかからないのです。
子どものエネルギーが見せる錯覚
外来で子どもと接していると、
そのエネルギーに圧倒されることがあります。
落ち着きがなく、
よく動き、
よくしゃべり、
時に軽躁状態に近いと感じるほどです。
「こんなに元気なのに、うつ病なわけがない」
――そう思ってしまうのも、無理はありません。
けれども、考えてみれば、
回復力が高いからこそ、元気に見えるとも言えます。
神経細胞の修復や再調整が早いから、
沈み込む前に、浮かび上がってくるのです。
「子どもにうつ病はない」という常識の裏側
かつて、精神医学の世界では、
「子どもにうつ病はない」
という考えが、半ば常識でした。
子どもは、複雑な自己否定をするほど認知的に成熟していない。
だから、深く悩むことなどない――
そんなふうに、過小評価されていたのです。
しかし、最新の神経科学は、まったく違うことを教えてくれます。
子どもも、確かにうつ状態を経験する。
ただし、それは
大人のうつ病とは、見え方が根本的に違う。
言葉ではなく身体で。
長期間ではなく、短期間で。
物語ではなく、状態として。
だから、私たちはそれを
「うつ病」と呼んでこなかっただけなのかもしれません。
見えないものを、なかったことにしないために
今日の議論を通して、
私自身が長年抱いてきた直感は、
少し輪郭を持ちはじめました。
子どもは、
うつにならないのではない。
うつが、私たちの目に見えない形で現れ、
そして、あまりにも早く回復してしまうのだ。
そう考えると、
子どもの訴える身体の痛みや、
突然の変化や、
理由の分からない不調は、
これまでとは少し違って見えてきます。
それは、
「弱さ」でも
「わがまま」でもなく、
まだ言葉を持たない心からの、正直なサインなのかもしれません。
もしご希望でしたら、
このエッセイを
- 一般向け書籍用に整える
- 医療者向けエッセイとして少し専門性を足す
- 臨床の具体的エピソードを挿入する
といった方向にも、書き直すことができます。
(OA)
