若年層の自殺増加

 総死亡数の動向に隠れた若年層の自殺増加(社会学的分析)

新型コロナパンデミック期における、日本の人口動態統計に関する分析記事です。

  • 総死亡数の推移: 2021年頃から急増しているが、これは直接的な新型コロナの影響やワクチン副作用によるものではなく、「国民の高齢化による年齢構成の変化」および「2020年頃に生じた生存期間の一時的な延伸」が主因であると分析しています。
  • 若年層の自殺増加: 総死亡数全体は高齢化の影響で説明がつきますが、その影で15〜19歳の死亡率は上昇しており、その主因は自殺の急増です。
  • 深刻な状況: 特に女性の若年層で自殺率が顕著に高まっており(2024年の女性自殺率は2015年比で15〜19歳が3.2倍、20〜24歳が2.6倍)、この10年間で最も深刻な問題の一つであると指摘しています。
  • 結論: 総死亡数の動向ばかりに注目するのではなく、若年層の自殺という重大な社会問題への対策が急務である。

4 考察

(1)年次統計の総死亡数が変動する原因

感染症のパンデミックや大災害の発生によって死亡要因が増加すると,集団を構成する多数の人々の
生存期間が短縮し,その年の総死亡数は増加する。しかし,この逆は必ずしも成立しない。すなわち,
総死亡数が増加しても,人々の生存期間が短縮した,あるいは,死亡要因が増加したとは言えない。総死亡数は,個人の生存の終点のみを横断的に計上した,生存期間とは関連がない指標だからである。

一般的に,ある集団の死亡率(mortality)に年次差が生じる原因は,死亡の発生率(incidence)の違い以
外に,年齢構成の変化と生存期間の短縮/延伸の2つがある4)。前者の影響は年齢の交絡という疫学の基本概念として広く認識されているが,後者の影響は時に盲点となる。年次統計の総死亡数は,バイアスとも言えるこの2つの因子によって,死亡要因の影響や介入の効果と乖離した動向を呈することがある。


この2つの因子の影響が大きい場合,総死亡数をエンドポイントとして見てしまうと,死亡現象の解
釈を誤ることになる。これは,総死亡数増加の指標として用いられる超過死亡にも当てはまる。


(2)総死亡数に対する生存期間の短縮/延伸の影響年

次統計の総死亡数には,他のデータにない特性がある。それは,1例の出生に対して,1例の死亡が必ず発生することである。すなわち,観察期間を設定しなければ,総死亡数は出生数に一致し,死亡要因や介入で変化することはない。変化するのは,生存期間と死亡時期である。


1例の生存期間が短縮し,ある年に死亡すれば,翌年以降の死亡が1例減少することになる。逆に,1
例の生存期間が延伸し,ある年の死亡を回避すれば,翌年以降の死亡が1例増加することになる。つまり,生存期間が短縮/延伸すると死亡時期が前後にシフトし,その結果,年次で計上される総死亡数に増減が生じる。注意すべきことは,生存期間の延伸という公衆衛生上は良いアウトカムによって,翌年以降に計上される総死亡数が増加するという逆説的な現象が生じる点である。


わが国の総死亡数は,2020年,それまで一貫していた増加傾向から減少に転じた(図1)。これは,減
少した分の人数の生存期間が延伸し,死亡時期が後ろにシフトしたことを意味する。したがって,その後の総死亡数の増加は,シフトした死亡を観測したものである可能性がある。他の死亡要因の影響がなければ,この総死亡数の増加は,公衆衛生上の良いアウトカムを反映していることになる。


(3)新型コロナ感染拡大後の死亡現象の分析

新型コロナの感染拡大後,国民の死亡率はどう変化したのだろうか。年齢の交絡と生存期間の延伸の影響を排除して評価するために,年齢で層化された死亡データを用い,生存期間の延伸を包含する観察期間で算出した死亡率が表1の2020~2024年の値である。同様の方法で算出した2015~2019年の死亡率と比較すると,年齢階級により差異はあるが,全体として2020~2024年のほうが高いとは言えない。

この結果より,2021年頃から観測された総死亡数の急増は,国民の年齢構成の変化(高齢化)と2020年頃に生じた生存期間の一時的な延伸でほぼ説明できる。つまり,新型コロナそのものの影響,あるいは,新型コロナワクチンの影響のいずれでもないことになる。生存期間の延伸の原因は,新型コロナが脅威となった2020年頃の社会環境や医療介入の変化,すなわち,多くの国民が外出や他人との接触を控えたことによって事故や感染症罹患の機会が減少したことや,従来は高齢等の理由で急性期医療の対象ではなかった人々が新型コロナの感染,あるいはその懸念により高度の医療介入を受けるようになったことなどが考えられる。


2つの期間の死亡率を年齢階級別に比較すると,2020~2024年に死亡率が最も上昇したのは15~19歳であった。それは自殺の増加に起因し,自殺は総死亡数の半数を超えた。自殺の増加は女性に顕著
であり,2024年の女性の自殺死亡率を2015年と比較すると,10~14歳は3.2倍,15~19歳は2.6倍,
20~24歳は1.8倍になっている(図2)。これらの事実は総死亡数の動向の陰に隠れて目立たないが,死
亡現象としてはこの10年間で最も深刻な問題の1つということになるだろう。

2021年頃から観測された総死亡数の急増は,国民の年齢構成の変化(高齢化)と2020年頃に生じた
生存期間の一時的な延伸が原因と考えられる。その中で,若年層,特に女性の自殺増加という深刻な事態が進行していたが,総死亡数の動向の陰に隠れ,重大な社会問題とは認識されなかった。原因
究明と対策が急務である。

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