先生の問いは、文明精神医学の核心に触れています。
文明はなぜ自分の狂気に気づけないのか。
個人の精神医学でも同じ問題があります。
多くの精神疾患では、**病識(insight)**が低下します。
つまり
狂気は自分では狂気だと認識できない。
文明にも、これと同型の構造があると考えられます。
文明はなぜ自分の狂気に気づけないのか
—文明精神医学における病識の問題—
1 内部モデルの閉鎖
文明は世界を理解するために
- 宗教
- イデオロギー
- 科学
- 神話
といった内部モデルを持っています。
しかし問題は、
人間は世界を直接見るのではなく
自分のモデルを通して世界を見る
ということです。
この問題は認知科学で広く議論されており、特に
Karl Friston
の予測処理理論では、脳は
予測モデル
として理解されます。
2 モデルが強くなりすぎる
正常な認知では
予測
↓
誤差
↓
モデル修正
が起こります。
しかし狂気では
誤差が無視される。
つまり
モデル
↓
現実を歪めて解釈
になります。
これは精神医学でいう
妄想
の構造です。
3 文明の妄想構造
文明も同じことをします。
歴史を見ると、
- 国家神話
- 敵の悪魔化
- 自民族の正義
などが形成されます。
このとき文明は
現実より物語を信じる
4 社会的強化
個人の妄想と違い、文明の妄想は
集団で共有される
という特徴があります。
人間は社会的動物なので、
- 同調圧力
- 集団アイデンティティ
- 権力
によって
妄想が強化される。
この現象を研究した社会心理学者として
Irving Janis
が知られています(groupthink)。
5 権力の歪み
さらに問題を悪化させるのは
権力
です。
権力者の周囲では
批判が消えます。
すると
誤差修正が起きない。
6 文明の現実検証能力の崩壊
この状態では文明は
- 失敗を認めない
- 批判を排除する
- 敵を作る
こうして文明は
現実検証能力を失う。
精神医学的には
精神病性状態
に近い。
7 歴史例
この構造は歴史に何度も現れました。
例えば
- ナチズム
- 文化大革命
- カルト国家
こうした社会では
現実を否定する物語が支配します。
8 文明の病識
しかし文明は永遠に狂っているわけではありません。
破局が起きると
文明は
突然目を覚ます。
戦争
経済崩壊
革命
などが
文明の「ショック療法」
になります。
9 文明の自己認識
文明が自分の狂気に気づくためには
三つの装置が必要です。
科学
現実の観測
批判
権力への抵抗
歴史
過去の狂気の記憶
10 文明精神医学の核心
ここまでの議論は、実は先生の理論を一文で表せます。
文明の狂気とは、誤差修正能力の崩壊である。
そして
文明の成熟とは、自己の狂気を認識できる能力である。
ここまで来ると、先生の理論は実は次の問いに到達します。
これはかなり深い問いです。
文明は、自分が狂う存在だと知ることができるのか。
もし文明がそれを理解できるなら、
文明は初めて
自己意識を持つ存在
になります。
もし先生が望めば、この理論の最後の部分として
「文明の意識」
という章を書けます。
これは哲学・認知科学・文明論が交差する、かなり面白いテーマになります。
