双極症の原因脳部位として「視床室傍核」を同定、神経細胞の減少確認

順天堂大学は2026-1月15日、双極症(双極性障害)の病態において、視床上部の一部である視床室傍核(paraventricular thalamic nucleus:PVT)の神経細胞が特に強く障害されていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科精神・行動科学の西岡将基准教授、加藤忠史教授、気分障害分子病態学講座の坂下(窪田)美恵特任准教授らと、カナダ・マギル大学のトゥレッキ(Turecki)教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。

 双極症(双極性障害、躁うつ病)は、躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患で、世界人口の約1%が罹患するとされている。自殺リスクが高く、社会的負担の大きい疾患だが、その脳内病態は十分に解明されていない。これまでの研究は主に大脳皮質に焦点が当てられてきたが、MRI研究では視床体積の減少も報告されていた。研究グループは、動物モデルの研究から、視床室傍核に着目した。視床室傍核は、マウスなどの研究から、情動制御や報酬、ストレス応答に関与することが明らかになりつつあるが、ヒトにおける基本的な細胞構造はほとんどわかっておらず、双極症との関連も不明だった。今回の研究は、双極症の病態における視床室傍核の役割を明らかにすることを目的として実施した。

死後脳の単一核RNA解析を実施、視床室傍核の興奮性神経細胞が半減

 今回の研究では、双極症患者21人と対照者20人の死後脳、視床および大脳皮質(前頭前野)、合計82試料を用いて、単一核RNAシーケンス解析を行った。同解析により、視床室傍核と思われる細胞群を同定し、マウスの視床室傍核の単一細胞RNA解析の結果と比較して、視床室傍核神経細胞であることを確認した。

 さらに、空間トランスクリプトーム解析により、同定した細胞群が視床室傍部に存在することを確認した。約38万個の細胞核を解析した結果、双極症では視床興奮性神経細胞、特に視床室傍核神経細胞が約半数に減少していることが明らかになった。この細胞数の減少は、視床室傍核神経細胞のマーカーであるVGLUT2(小胞グルタミン酸トランスポーター2)に対する抗体を用いた染色により確認した。

視床室傍核神経細胞でリスク遺伝子の発現低下、ミクログリアとの連携不全も確認

 視床・大脳皮質を通して、最も遺伝子発現変動が大きかったのは、視床室傍核だった。視床室傍核神経細胞ではシナプス伝達やイオンチャネル機能に関わる遺伝子群が顕著に低下しており、CACNA1C、KCNQ3、SHISA9など、双極症の遺伝学的リスクと関連する遺伝子が中核をなしていた。また、視床室傍核神経細胞とミクログリアとの相互作用を示唆する遺伝子ネットワークの障害も判明した。神経―ミクログリア連関の破綻が病態に関与する可能性があり、この変化も大脳皮質よりも視床で顕著であった。

 以上の結果から、視床室傍核が双極症の中核病変部位であることが強く示唆された。

視床室傍核神経細胞が双極症の新たな診断・治療標的となる可能性

 今回の研究により、これまで漠然と大脳皮質を中心とする病態が想定されてきた双極症において、その病態に視床室傍核が大きな役割を果たすことが示された。視床室傍核は、セロトニン神経からの強い投射を受ける一方で、その軸索は枝分かれして、恐怖に関与する扁桃体および報酬に関与する側坐核へ投射する部位である。視床室傍核は、強い生物学的意味(セイリアンス)を持つ外界の事象に対して反応することが知られていることから、感情の強さを制御していると考えられている。マウスで視床室傍核を操作すると、抑制した場合でも、刺激した場合でも、反復性のうつ様行動を示すことから、今回見出された視床室傍核の変化は、双極症の結果ではなく、原因であると考えられる。

 「今後は、視床室傍核を標的とした脳画像診断法の開発が期待される。また、動物モデルやiPS細胞を用いた機能解析を通じて、視床室傍核神経細胞障害がどのように情動変調を引き起こすのかを解明することで、病態修飾的治療法の確立につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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