第二章二節 ジョン・ロールズが提唱した「正義の二原理」

ジョン・ロールズが提唱した**「正義の二原理」**は、個人の「自由」を最大限に尊重しながら、社会的な「平等」をいかに確保するかという、近代自由主義が抱えるもっとも困難な矛盾を解決するための画期的な理論です。

以下に、その内容を具体例とともに解説します。

1. 正義の二原理を導くための設定

ロールズは、どのようなルールが公平であるかを考えるために、**「無知のヴェール」**という思考実験を提案しました。これは、自分が社会の中でどのような地位(金持ちか貧乏か、才能があるか否かなど)に生まれるか分からない状態でルールを選ぶという設定です。この状態であれば、人々は自分がもっとも不遇な立場になった時のことを考え、最悪の状況を底上げするようなルールに合意するはずだとロールズは考えました。

2. 第一原理:平等な基本的自由の原理

まず、社会の誰もが譲れない「自由」を平等に持つべきだとする原理です。

  • 具体例: 政治的自由(投票権など)、言論や集会の自由、信教の自由、身体の自由、私有財産を所有する権利などが含まれます。
  • ポイント: この第一原理は、次の第二原理(経済的平等)よりも絶対的に優先されます。例えば、社会全体の経済を豊かにするためであっても、特定の人の「言論の自由」を奪うようなことは、この原理に基づき許されません。

3. 第二原理:社会的・経済的不平等を認める条件

現実には完全な平等を達成しようとすると個人の活力が失われるため、ロールズは一定の「格差(不平等)」は認める立場をとります。ただし、それには以下の2つの厳しい条件が必要です。

(a) 格差原理

社会的・経済的な格差があることが、「最も不遇な人々(もっとも貧しい人々など)」の利益を最大化する場合にのみ、その格差は認められます。

  • 具体例(医療と医師の報酬): 医師の給料が他の職業より非常に高い(格差がある)とします。この格差が、優秀な人材を医師に惹きつけ、結果として僻地医療が充実したり最新の治療が貧しい人にも行き渡ったりして、「社会でもっとも医療を必要とする貧しい人」の状況が、医師の給料を平等にした時よりも改善されるのであれば、その給料の格差は「正義」にかないます。
  • 具体例(オバマケア): アメリカの医療保険制度改革(オバマケア)は、自由診療の伝統を守りつつも、保険料を支払えない困窮者が医療を受けられるように制度を整えたもので、自由と平等のバランスの一つの解決策とされます。

(b) 公正な機会均等の原理

地位や職務につくための機会が、すべての人に平等に開かれていなければならないという原理です。

  • 具体例(教育): 単に「試験を受けられる」という形式的な平等だけでなく、貧しい家庭に生まれた子供でも、豊かな家庭の子供と同じように才能を伸ばせるよう、教育機会が実質的に保障されていなければなりません。

結論

ロールズの「正義の二原理」は、以下の優先順位で矛盾を解決します。

  1. 「自由」を最優先し、誰もが基本的な自由を平等に享受する。
  2. その上で、**「実質的な機会の平等」**を確保する。
  3. 経済的な「格差」については、それが**「もっとも不遇な人のためになる」**場合に限り許容し、再分配を行う。

このように、自由を尊重しつつも、単なる「弱肉強食」に陥らないよう、もっとも恵まれない人々を救う仕組みを組み込むことで、自由と平等の両立を図っています。

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