提供された資料に基づき、本書で紹介されている主要な質問紙、アセスメントシート、およびワーク用ツールを、その目的別に整理して示します。
1. 心理的柔軟性の総合評価・ケース定式化ツール
クライエントの心理的柔軟性の状態を6つのプロセス(ヘキサフレックス)に基づいて可視化・評価するためのツールです。
- ヘキサフレックス・ケース・モニタリング・ツール (Hexaflex Case Monitoring Tool): 心理的柔軟性の6つのプロセスを10点満点で評価し、現在の強みと弱みをレーダーチャートのように可視化して追跡するための図です。
- 柔軟性評価シート (Flexibility Rating Sheet): 各プロセスの主要な特徴について、クライエントの行動がどの程度流暢で柔軟かを0〜10の数値で評価するための詳細な一覧表です。
- タートル(カメ)定式化ツール (Turtle Case Formulation Tool): カメの甲羅のような形をした図で、初期のケース定式化や治療計画を視覚化し、スーパービジョンなどで共有しやすくしたツールです。
- サイフレックス計画ツール (Psy-Flex Planning Tool): 「オープン、センター、エンゲージ」という3つのレスポンススタイルに基づき、それぞれの領域での障壁や介入戦略を整理するための計画書です。
- ACTアドバイザー (ACT Advisor): セッションごとに「受容、脱フュージョン、今この瞬間、自己、価値、コミットメント」を素早く自己評価し、合計スコア(0〜60点)で進捗を確認できる簡易評価ツールです。
2. 価値の明確化と行動計画ツール
人生の方向性を定め、具体的な目標と行動を結びつけるために使用されます。
- 価値アセスメント・ワークシート (Values Assessment Worksheet): 家族、結婚、育児、仕事、健康など12の人生領域について、理想の世界でどのような価値を持ちたいかを記述する自由回答式のシートです。
- 価値ナラティブ・フォーム (Values Narrative Form): ワークシートで書かれた内容を、セラピストと協力して簡潔な「価値の物語(ナラティブ)」としてまとめ直すためのフォームです。
- 価値ある生き方質問紙-2 (Valued Living Questionnaire-2: VLQ-2): 各価値領域について、その可能性、現在の重要性、全体的な重要性、行動の度合い、満足度、懸念度を1〜10で評価する詳細な質問紙です。
- ブルズ・アイ (Bull’s Eye): ダーツの的のような図を使い、自分がどれだけ価値の中心(的の真ん中)に近い生き方ができているかを直感的に評価するツールです。
- 目標・行動・障壁フォーム (Goals, Actions, and Barriers Form): 定めた価値に基づき、達成可能な目標、具体的なステップ(行動)、およびそれを妨げる心理的障壁を特定して整理するためのシートです。
3. 特定のプロセスのための指標(既存の尺度)
ACTの理論的構成概念を測定するために広く使用されている既存の質問紙も言及されています。
- 受容と行動に関する質問紙 (Acceptance and Action Questionnaire: AAQ / AAQ-II): 体験的回避と心理的不柔軟性を測定するための、ACTにおける最も代表的な質問紙です。
- 自動思考質問紙 (Automatic Thoughts Questionnaire: ATQ): 本来は認知の内容を測るものですが、ACTではその内容への「信じ込みの度合い(Believability)」を測定することで脱フュージョンの指標として活用されます。
- その他: セルフ・コンパッション尺度、思考抑制インベントリ(White Bear Suppression Inventory)、マインドフルネスの多次元尺度(Five Facets of Mindfulness Questionnaire)などが、アセスメントを補完するものとして挙げられています。
これらのツールは、単なるデータ収集のためではなく、セラピストがクライエントの内的世界を理解し、介入の焦点を定めるための機能的なガイドとして設計されています。
**ヘキサフレックス・ケース・モニタリング・ツール (Hexaflex Case Monitoring Tool)**は、ACTの「心理的柔軟性モデル」に基づき、クライエントの状態を視覚化・評価するために設計された非常に重要な臨床ツールです。
提供された資料に基づき、その具体的な内容と役割を整理して解説します。
1. ツールの構造と評価方法
- 図の形状: ACTの6つのコア・プロセスを象徴する**六角形(ヘキサフレックス)**が、ピザのように6つの領域に分割されたグラフィックになっています。
- 評価尺度: 各領域内には同心円状の線が引かれており、中心を0点(最大の弱点)、一番外側の線を**10点(最大の強み)**とする10段階の尺度になっています。
- スコアリング: セラピストは「柔軟性評価シート (Flexibility Rating Sheet)」などで評価した各プロセスの平均値を算出し、その点数まで図を塗りつぶす(またはマークする)ことで評価を行います。
2. 主な目的と用途
- 視覚化: クライエントが現在どのプロセスにおいて柔軟で、どのプロセスで滞っているのかを「形」としてひと目で把握できます。
- 進捗の追跡: 初回セッションから治療が進むにつれてこの図を更新していくことで、心理的柔軟性がどのように発達しているかを時系列でモニタリングできます。
- ケース定式化と計画: クライエントの特定の弱点(例:脱フュージョンが2点)をターゲットにしたり、強み(例:価値が6点)を治療の味方として活用したりする際の指針となります。
3. 具体的な活用例(事例:ジェニーの場合)
本書では、52歳の女性ジェニーの事例を用いてこのツールの使い方が示されています。
- 現状の把握: 彼女の評価をこのツールに記入した結果、「脱フュージョン(2点)」と「受容(3点)」が極めて低い(=オープンさが課題である)一方で、「コミットされた行為(7点)」や「価値(6点)」は相対的に高いことが視覚的に明らかになりました。
- 介入の決定: この「形」を見たセラピストは、彼女の強みである「価値」を利用して、弱点である「受容」や「自己への思いやり」を促進するという具体的な治療計画を立てることに成功しています。
このツールは、単なるデータ収集のためではなく、**セラピストがクライエントの内的世界を理解し、治療の焦点を定めるための「機能的なガイド」**として機能します。
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**柔軟性評価シート(Flexibility Rating Sheet)**は、ACTの6つのコア・プロセス(ヘキサフレックス)に基づいて、クライアントの心理的柔軟性の状態を数値で追跡・評価するための具体的なツールです。
提供された資料に基づき、その構造と評価項目について詳しく解説します。
1. 評価方法と尺度
- 10段階評価: 各プロセスについて、クライアントの行動の「生じやすさ」や「文脈的・行動的な柔軟性」を0点から10点の間で評価します。
- 0点: 全く、あるいは極めて稀にしか生じない状態。
- 5点: 時々、あるいは促された場合にのみ生じる状態。
- 10点: 流暢かつ柔軟に、機能的に必要な場面で生じる状態。
- 評価のタイミング: セラピストがセッション中、あるいはセッション終了後にこれらの数値を推定して記入します。各領域内の項目の平均値を算出することで、その領域の総合スコアを得ることができます。
2. 6つのプロセスごとの評価指標
シートでは、各プロセスにおける「クライアントの行動の主要な特徴」として以下の項目が挙げられています。
- 今、この瞬間との接触(Present Moment)
- 「今」における内的・外的出来事に気づき、活用している。
- 柔軟な注意(必要に応じて持続させたり切り替えたりできる)。
- 過去や未来に巻き込まれず、反芻や不安な予測から切り離されている。
- 自己(Self)
- 超越的な自己(観察する自己)と接触している。
- 他者、あるいは他の時間や場所の視点に立てる。
- 概念化された自己(自己ストーリー)から切り離されている。
- 視点取得を用いて効果的な行動を促進している。
- 真の共感や思いやりを示している。
- 受容(Acceptance)
- 苦痛な体験に対して、開かれた好奇心のあるアプローチをとっている。
- 執着や喪失の過度な恐怖なしに、ポジティブな感情を楽しめる。
- 困難な思考・感情・身体感覚がある中でも能動的で柔軟である。
- 脱フュージョン(Defusion)
- 「正しいこと」や「体面を保つこと」を手放すことができる。
- 効果的な行動のために、ストーリーや理由づけから切り離される。
- 思考をリテラル(文字通り)な真実ではなく、主に機能性(役に立つか)で評価する。
- 思考に支配された世界ではなく、思考を「進行中のプロセス」として気づいている。
- 価値(Values)
- 自ら選んだ価値を明確に持っている。
- (他者への)従順や回避、フュージョンではなく、内発的に価値づけている。
- 価値が「今」に意味を与えている。
- 価値と目標を区別できている。
- コミットされた行為(Committed Action)
- 行動に軽やかさ、フロー、活力の感覚がある。
- 価値のために行動の方向を変える意志がある。
- 行動が回避ではなく、自ら選んだ「欲求される目的(appetitive purpose)」に結びついている。
- 衝動や回避ではなく、より大きな効果的な行動パターンが構築されている。
3. 他のツールとの連携
この評価シートで得られたスコアは、視覚的な評価ツールである**「ヘキサフレックス・ケース・モニタリング・ツール(六角形の図)」**を作成するためのデータとなります。シートで算出した各領域の平均値を六角形の図に反映させることで、クライアントの心理的柔軟性の「形」を可視化し、治療の進捗をモニタリングすることが可能になります。
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