5. 回避をアセスメントする
前節では、融合——特定の関係フレームが文脈を支配し、他の関係フレームや直接経験が排除された状態——のアセスメント方法を扱った。そこでは、どのような思考やルールにクライアントが飲み込まれているのか、どの関係フレームが硬直化しているのかを評価する具体的な方法を展開した。
本節では、融合と対をなすもう一つの核心的プロセス——体験的回避——のアセスメントを扱う。体験的回避とは、第1章で導入し、第2章でRFTの観点から再定義した概念である。すなわち、変容した嫌悪的刺激機能を持つ私的事象に対して、言語的に媒介された回避行動が強化されている状態である。
本節では、この体験的回避を臨床面接の中でどのようにアセスメントするのか——クライアントが何を避けようとしているのか、どのように避けているのか、回避によって何が維持され、何が犠牲になっているのか——を具体的に展開する。
回避をアセスメントするとは何か
回避の再定義
第2章第6節で私たちは、体験的回避を以下のように再定義した。
体験的回避とは、変容した嫌悪的刺激機能を持つ私的事象(思考、感情、記憶、身体感覚)に対して、言語的に媒介された回避行動が強化されている状態である。
この定義には、三つの重要な要素が含まれている。
- 変容した嫌悪的刺激機能:本来は中性的な私的事象が、関係フレームを通じて嫌悪的機能を獲得している
- 言語的に媒介された回避:直接経験していないもの(過去のトラウマ、未来の失敗、自己評価)も回避の対象となる
- 強化されている:回避行動は、短期的な嫌悪的私的事象からの解放という結果によって維持されている
アセスメントの目的
回避のアセスメントの目的は、以下の点にある。
- 何を避けているのか——回避の対象(思考、感情、記憶、身体感覚、状況)を特定する
- どのように避けているのか——回避の形態(行動的回避、認知的抑制、感情制御、物質使用など)を明らかにする
- 回避のパターン——どのような文脈で回避が生じやすいのか、回避の連鎖はどのように展開するのかを理解する
- 回避を維持する強化——短期的に何が得られ、その結果として長期的に何が失われているのかを明確にする
これらの情報は、治療において「受容」というプロセスをどのように展開するかの指針となる。
回避の対象を特定する
回避のアセスメントの第一歩は、クライアントが何を避けようとしているのかを特定することである。
回避の対象の種類
| 対象の種類 | 具体例 | アセスメントの問い |
|---|---|---|
| 思考 | 「ダメな自分」という思考、「死」のイメージ | 「どんな考えが浮かぶと、すぐに追い払いたくなりますか?」 |
| 感情 | 不安、悲しみ、怒り、恥 | 「どんな感情が一番つらいですか? その感情を感じたくないと思いますか?」 |
| 記憶 | トラウマ記憶、失敗の記憶 | 「思い出したくない過去の出来事はありますか?」 |
| 身体感覚 | 動悸、震え、息苦しさ | 「どんな身体の感覚が怖いですか? それを感じたくないと思いますか?」 |
| 状況 | 人混み、会議、対人場面 | 「どんな場所や状況を避けるようになりましたか?」 |
回避対象の言語化
クライアント自身が回避対象を言語化できるようになることが重要である。
問いの例:
- 「あなたが一番避けたいと思っているものは何ですか?」
- 「『あれだけは避けたい』というものはありますか?」
- 「どんなことが起きると、『これはまずい』と感じますか?」
複数の回避対象の連鎖
回避対象は単一ではないことが多い。複数の対象が連鎖している場合がある。
連鎖の例:
動悸(身体感覚)→ 「死ぬかもしれない」(思考)→ 恐怖(感情)→ 人混み(状況)
アセスメントの問い:
- 「最初に何が起きますか? その次に何が起きますか?」
- 「その連鎖の中で、あなたが一番避けたいのはどの部分ですか?」
回避の形態を特定する
回避の対象が特定できたら、次にどのように避けているのか——回避の形態——を明らかにする。
回避の形態の分類
| 形態 | 定義 | 具体例 | アセスメントの問い |
|---|---|---|---|
| 行動的回避 | 特定の状況や場所を物理的に避ける | 外出しない、会議を欠席する、電話に出ない | 「どんなことを避けるようになりましたか?」 |
| 認知的抑制 | 思考やイメージを押しのける、考えないようにする | 「考えないようにする」「別のことを考える」 | 「その考えが浮かんだ時、どうしていますか?」 |
| 感情制御 | 感情を消そうとする、コントロールしようとする | 感情を押し殺す、無理に明るく振る舞う | 「その感情を感じた時、どうしようとしますか?」 |
| 物質使用 | アルコール、薬物、過食などで感覚を変える | 飲酒、過食、市販薬の乱用 | 「苦しい時、何かに頼りたくなりますか?」 |
| 安全行動 | 不安を軽減するための行動(回避ではないが、依存する) | お守りを持つ、誰かに付き添ってもらう | 「その状況で、何か特別なことをしていますか?」 |
| 気晴らし | 苦痛から注意をそらす活動 | テレビを見る、スマホをいじる、仕事に没頭する | 「つらい時、何をして気を紛らわせていますか?」 |
複数の回避形態の併用
クライアントは、一つの回避対象に対して複数の回避形態を併用していることが多い。
例:人混み(状況)に対する回避
- 行動的回避:人混みに行かない
- 認知的抑制:人混みのことを考えないようにする
- 安全行動:誰かに付き添ってもらう
- 物質使用:事前にアルコールを飲む
アセスメントの問い:
- 「そのことを避けるために、どんなことをしていますか? それだけではありませんか? 他には?」
回避のパターンを理解する
回避は、単発的な行動ではなく、一定のパターン——連鎖——として展開することが多い。このパターンを理解することが、介入の標的を特定する上で重要である。
回避の連鎖を追跡する
第3節で紹介した連鎖分析の枠組みを用いて、回避の連鎖を詳細に追跡する。
問いの例:
- 「最初に何が起きましたか?」
- 「その時、あなたはどうしましたか?」
- 「それをした後、どうなりましたか?」
- 「その次に、何が起きましたか?」
回避の拡大パターン
回避は、時間とともに拡大する傾向がある。
| 段階 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 初期 | 特定の対象のみを回避 | 電車に乗らない |
| 中期 | 回避対象が関連領域に拡大 | 外出全般を避けるようになる |
| 後期 | 回避が生活全般を覆う | 自宅から出られなくなる |
アセスメントの問い:
- 「最初は何を避けていましたか? 今はどうですか?」
- 「避けるようになったことは、増えていますか?」
- 「以前はできていたのに、今はできなくなったことはありますか?」
回避の維持メカニズム
回避がなぜ維持されるのか——短期的強化と長期的弱化——を明確にする。
短期的強化(回避が繰り返される理由):
- 不安の即時的軽減
- 嫌悪的私的事象からの解放
- 「安全」の確認
長期的弱化(回避がもたらす帰結):
- 生活空間の縮小
- 回避対象の拡大
- 自己効力感の低下
- 価値からの乖離
アセスメントの問い:
- 「それをすることで、その時はどう楽になりましたか?」
- 「でも、それを続けることで、長い目で見ると何が失われていますか?」
- 「もしそれをしなかったら、あなたは何をしていたと思いますか?」
回避のコストを明確化する
回避のアセスメントでは、回避によって何が犠牲になっているのか——「回避のコスト」——を明確にすることが重要である。このコストの明確化は、変化への動機づけを高める。
コストの領域
| 領域 | 問いの例 |
|---|---|
| 人間関係 | 「避けるようになって、大切な人との関係はどうなりましたか?」 |
| 仕事・学業 | 「回避のために、仕事や学業でどんな影響がありましたか?」 |
| 健康 | 「避けることで、健康面での影響はありますか?」 |
| 余暇・趣味 | 「楽しみにしていたことは、どのくらいできていますか?」 |
| 自己成長 | 「挑戦したいことはありますか? それは回避のためにどうなりましたか?」 |
| アイデンティティ | 「避けるようになって、自分自身のことをどう思いますか?」 |
コストの言語化
クライアント自身が回避のコストを言語化できるようになることが、変化への第一歩となる。
問いの例:
- 「避けることで、あなたは何を手放していますか?」
- 「もし避けるのをやめたら、どんな人生が待っていると思いますか?」
- 「この回避は、あなたにとって『役に立っていますか』? それとも『邪魔をしていますか』?」
トレードオフの可視化
回避がもたらす「短期的な利益」と「長期的な損失」を対比させ、可視化する。
| 短期的な利益(得ているもの) | 長期的な損失(失っているもの) |
|---|---|
| 不安からの一時的な解放 | 生活空間の縮小 |
| 嫌悪的な感情を感じなくて済む | 大切なことができなくなる |
| 「安全」の確認 | 自己効力感の低下 |
| 人間関係の希薄化 | |
| 自分らしさの喪失 |
回避のアセスメントと受容の方向性
回避のアセスメントで得られた情報は、治療の方向性——どのように受容を進めるか——の指針となる。
回避の形態別の受容の方向性
| 回避の形態 | 受容の方向性 |
|---|---|
| 行動的回避 | 小さな一歩からの接近。回避をやめて、価値に基づいた行動を選択する練習 |
| 認知的抑制 | 抑制をやめ、思考を「ただの思考」として観察する練習 |
| 感情制御 | 制御をやめ、感情を「ただの感情」として感じる練習 |
| 物質使用 | 物質への依存を減らし、苦痛とともにいることを学ぶ |
| 安全行動 | 安全行動を段階的に手放し、不安とともにいることに慣れる |
| 気晴らし | 気晴らしをやめ、苦痛とともにある瞬間を作る |
クライアントの資源の活用
回避のアセスメントでは、同時に「既にある受容の資源」も見極める。
- 「あの時は、避けずに何とかできたのですね。何が違いましたか?」
- 「この領域では、感情とともにいることができているのですね。どのようにしていますか?」
- 「避けずに済んだ時は、何か特別なことをしていましたか?」
これらの資源は、治療の中で活用することができる。
回避アセスメントの具体的手順
ここで、回避アセスメントの一連の流れを、具体的な手順として整理する。
ステップ1:回避対象の特定
問い:
- 「あなたが一番避けたいと思っているものは何ですか?」
- 「どんなことが起きると、『これはまずい』と感じますか?」
ステップ2:回避形態の特定
問い:
- 「そのことを避けるために、どんなことをしていますか?」
- 「他にはどんなことをしていますか?」
ステップ3:回避の連鎖の追跡
問い:
- 「最初に何が起きますか?」
- 「その時、あなたはどうしますか?」
- 「それをした後、どうなりますか?」
- 「その次に、何が起きますか?」
ステップ4:短期的強化の特定
問い:
- 「それをすることで、その時はどう楽になりましたか?」
- 「何が得られましたか?」
ステップ5:長期的弱化の特定
問い:
- 「それを続けることで、長い目で見ると何が失われていますか?」
- 「避けることで、あなたは何を手放していますか?」
ステップ6:トレードオフの可視化と共有
問い:
- 「この回避は、あなたにとって『役に立っていますか』? それとも『邪魔をしていますか』?」
- 「もし避けるのをやめたら、どんな人生が待っていると思いますか?」
第5節のまとめ
- 体験的回避とは、変容した嫌悪的刺激機能を持つ私的事象に対して、言語的に媒介された回避行動が強化されている状態である
- 回避のアセスメントの目的は、①回避の対象、②回避の形態、③回避のパターン、④回避を維持する強化——を明らかにすることである
- 回避の対象には、思考、感情、記憶、身体感覚、状況がある
- 回避の形態には、行動的回避、認知的抑制、感情制御、物質使用、安全行動、気晴らしがある
- 回避は連鎖として展開し、時間とともに拡大する傾向がある
- 回避は、短期的な嫌悪的私的事象からの解放(強化)によって維持され、長期的には生活空間の縮小や価値からの乖離(弱化)をもたらす
- 回避のコスト——何が犠牲になっているのか——を明確にすることは、変化への動機づけを高める
- 回避のアセスメントは、受容の方向性を決定する指針となる
次の第6節では、回避によって何が犠牲になっているのか——価値からの乖離——のアセスメントを扱う。そこでは、クライアントが人生で何を大切にしているのか、回避によってその大切なものがどのように失われているのかを評価する方法を具体的に展開する。
- 回避の再定義:第2章のRFT的定義を踏まえ、アセスメントの文脈に即した形で再提示しました
- 回避対象の分類:思考、感情、記憶、身体感覚、状況——五つの対象を具体的な例とともに示しました
- 回避形態の分類:行動的回避、認知的抑制、感情制御、物質使用、安全行動、気晴らし——六つの形態を整理しました
- 回避の連鎖と拡大:回避が時間とともに拡大するパターンを、段階別に示しました
- 短期的強化と長期的弱化:回避を維持するメカニズムを、短期的利益と長期的損失の対比で明確にしました
- 回避のコストの明確化:回避によって何が犠牲になっているのかを、具体的な問いとともに示しました
- トレードオフの可視化:短期的利益と長期的損失を対比表で可視化しました
- 受容の方向性への接続:アセスメントの結果が、治療の方向性(受容)にどうつながるのかを明示しました
- 具体的手順の提示:回避アセスメントの一連の流れを、六つのステップとして整理しました
- 節末のまとめ:要点を箇条書きで整理しました
