CT62 ACT入門 学習補助

メインテーマ

この資料は、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の入門として、その基本的な概念、目的、そして実践における重要なツールである「選択ポイント(Choice Point)」を紹介しています。主なテーマは以下の通りです。

  1. 人間の苦悩と心理的柔軟性の必要性: 人生は困難であり、人間の心は自然と心理的苦痛を生み出す傾向がある。ACTは、苦しい思考や感情を受け入れつつ(アクセプタンス)、価値に基づいた行動をとる(コミットメント)ことで、豊かで意味のある人生を送るための「心理的柔軟性」を高めることを目指す。
  • 「なぜ幸せになることはこんなにも難しいのでしょうか?なぜ人生はこんなにも困難なのでしょうか?なぜ人間はこれほどまでに苦しむのでしょうか?そして、私たちは現実的にこれに対して何ができるのでしょうか?」(”CT62 ACT入門”冒頭より)
  • 「苦しみに向き合うことで、人生が開かれることがある」(『ACT Made Simple』第二版「序文」より)
  • 「心理的柔軟性とは、『マインドフルに、価値に導かれて行動する能力』のこと」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  1. ACTの基本概念: ACTは、「アクト」と発音し、「行動をとること」を核とする。重要なのは、自分の「価値観」に導かれた行動、つまり「自分がなりたい人物として振る舞うこと」である。また、「マインドフルな行動」、つまり意識的に、十分な気づきのもとで行動することも重視する。
  • 「ACTの核にあるのは“行動をとること”だからです」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  • 「大切なのは、自分の「価値観」に導かれた行動をとること──つまり、**「自分がなりたい人物として振る舞うこと」**です。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  1. ACTの六つのコアプロセス: ACTは、以下の六つの相互に関連するプロセスで構成される。
  • 現在との接触(Contacting the present moment): 今この瞬間の体験に柔軟に注意を向けること。
  • 脱フュージョン(Defusion): 思考、イメージ、記憶から距離を置き、それに巻き込まれないようにすること。
  • 「脱フュージョンとは、「一歩引いて」自分の思考、イメージ、記憶から分離または切り離すことを学ぶことです。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  • 受容(Acceptance): 望ましくない内的体験に心を開き、それらにスペースを与えること。
  • 「受容とは、望ましくない内的体験――思考、感情、感覚、記憶、欲求、イメージ、衝動、身体感覚――に心を開き、それらにスペースを与えることです。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  • 文脈としての自己(Self-as-context): 思考や感情を観察する「気づく部分」としての自己に気づくこと。
  • 「日常的な言葉で言えば、心には二つの異なる側面があります:**「考える部分」と「気づく部分」**です。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  • 価値(Values): 人生で大切にしたい方向性や行動のあり方を明確にすること。
  • 「**価値とは、望ましい身体的または心理的な行動の特性を指します。**言い換えれば、**自分がこれからどう生きていきたいのかを示す「行動のあり方」**です。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  • コミットされた行動(Committed action): 価値に導かれた効果的な行動をとること。
  • 「コミットされた行動とは、価値に導かれた効果的な行動を取ることです。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  1. 心理的硬直性とフュージョン/回避: 心理的苦痛の根源として、「認知的融合(cognitive fusion)」と「体験回避(experiential avoidance)」を挙げる。
  • 認知的融合: 思考が行動を支配し、自己破壊的な影響を与える状態。思考を事実として捉え、それに囚われること。
  • 「認知的融合――通常は「融合(fusion)」と略されます――とは、認知が私たちの行動(外的でも内的でも)を支配し、その結果として自己破壊的または問題的な影響を与えることを意味します。」(”CT62 ACT入門” 第2章より)
  • 「ある認知にフュージョンしているとき、それは次のように感じられます:従わなければならない、受け入れなければならない、あるいは行動に移さなければならない何か;回避すべき、または排除すべき脅威;全注意を向ける必要がある非常に重要なもの」(”CT62 ACT入門” 第2章より)
  • 体験回避: 望ましくない内的体験を避けたり排除したいという欲求と、そのための行動。
  • 「この用語は、望ましくない「内的経験(private experiences)」を避けたり、排除したいという欲求、そしてそれを実現しようとして取るあらゆる行動を指します。」(”CT62 ACT入門” 第2章より)
  • 「望ましくない思考や感情を避けたり排除しようとすると、たいていうまくいきません。あるいは、たとえ一時的にうまくいったとしても、人生をさらに困難にする新たな問題を大量に生み出してしまうことがあります。」(”CT62 ACT入門” 第2章より)
  1. ワーカビリティ(効果性)の重視: ACTでは、思考の真偽ではなく、「ワーカブルかどうか」、つまり長期的に見て望む人生を築くのに役立つかどうかを重視する。
  • 「ACTモデル全体は、**ワーカビリティ(効果性)**という概念を基盤としています。」(”CT62 ACT入門” 第2章より)
  • 「私たちがここで関心を持っているのは、その思考が役に立つかどうか、助けになるかどうか――つまり、それがあなたの人生をより良くするのに役立つかどうか、です。」(”CT62 ACT入門” 第2章より)
  1. 選択ポイント(Choice Point): 問題をマッピングし、苦しみの源を特定し、ACTアプローチを組み立てるためのシンプルなツール。クライアントの行動を「向かう動き(towards moves)」と「離れる動き(away moves)」に分類し、困難な思考や感情に「引っかかる(hooked)」状態と、そこから「外れる(unhooked)」状態を視覚的に示す。
  • 「チョイス・ポイントとは、問題を素早くマッピングし、苦しみの源を特定し、それに対処するACTアプローチを組み立てるためのツールです。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  • 「“離れる動き”をしているとき、それは効果的でない行動をしていて、自分がなりたい人間とは違うふるまいをし、長期的には人生を悪化させる傾向のある行動をしているということになります。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  • 「“向かう動き”をしているとき、それは効果的に行動しているということです。つまり、自分がなりたい人間としてふるまい、人生をより意味深く、充実させる行動をしているのです。」(”CT62 ACT入門” 第1章より)
  1. 第二版における変更点: 『ACT Made Simple』第二版では、自己への思いやり、柔軟な視点取得、トラウマへの対応などに関する新たな情報や章が追加され、書籍の60%以上が新規の内容または大幅な書き直しとなっている。特に「選択ポイント」ツールが中心的な役割を果たすように再構成されている。
  • 「現在、全面的に改訂・更新された本書の第二版には、自己への思いやり、柔軟な視点取得、トラウマへの対応などに関する新たな情報や章が追加されています。」(”CT62 ACT入門”冒頭より)
  • 「実際には本書の60%以上が新規の内容であり、それ以外の部分も大幅に書き直されています。」(『ACT Made Simple』第二版「第二版で新しくなった点は?」より)
  • 「2015年以降、これは私のすべてのライブワークショップとオンライン・トレーニングコースにおいて中心的なツールとなっており、私は現在、自分のすべての著書をこのツールを中心に据えて書き直しているところです。」(『ACT Made Simple』第二版「第二版で新しくなった点は?」より)

最も重要なアイデアや事実

  • ACTは、人間の普遍的な苦悩に対処し、心理的柔軟性を高めることを目的とした行動療法である。
  • 人生の困難さや心の働きにより、人は苦痛を感じやすいが、ACTはそれに対する効果的な対処法を提供する。
  • ACTは、アクセプタンスとコミットメントを重視し、価値に基づいた行動を促す。
  • ACTの六つのコアプロセスは、心理的柔軟性の構成要素であり、相互に関連している。
  • 心理的苦痛の大きな要因は、思考に囚われる「フュージョン」と、苦痛な感情を避けようとする「回避」である。
  • 思考の真偽よりも、それがクライアントの望む人生に役立つかどうかという「ワーカビリティ」の視点が重要である。
  • 「選択ポイント」は、クライアントが自身の行動と心の状態を理解し、より効果的な選択をするための強力なツールである。
  • 『ACT Made Simple』第二版は大幅に改訂され、「選択ポイント」が中心的なツールとして統合されている。

このブリーフィングドキュメントは、提供された資料に基づいて作成されており、ACTの基本的な理解と主要な概念を把握するのに役立ちます。


ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)について。

ACTは、**苦しい思考や感情の影響を受け入れ(アクセプタンス)、充実した意味のある人生に向けて行動する(コミットメント)ことを重視する心理療法です。ACTという名称は、単に行動すること(アクト)が核となることに由来し、特に自分の「価値観」に導かれた行動、つまり「自分がなりたい人物として振る舞うこと」**が重要とされます。

ACTは1980年代半ばにスティーブン・C・ヘイズ教授によって創始され、行動分析学の関係フレーム理論(RFT)という行動理論に基づいています。ACTは、弁証法的行動療法(DBT)やマインドフルネス認知療法(MBCT)などを含む「第三の波」行動療法の一部であり、従来の行動介入に加えて、アクセプタンス、マインドフルネス、思いやりを重視します。

ACTの主な目的は、豊かで意味のある人生を送るための人間の潜在力を最大限に引き出し、それに伴って必然的に生じる痛みを効果的に扱えるようにすることです。ACTは、人生には苦痛が伴うことを前提とし、心理的苦痛は人間の心が自然と生み出すものであると考えます。

ACTが「難しい」と思われる理由の一つに、その背景にある関係フレーム理論(RFT)が非常に専門的で理解に時間がかかることが挙げられます。しかし、RFTを知らなくても効果的なACTセラピストになることは可能です。もう一つの理由は、ACTが非線形のモデルであり、6つのコアプロセスの中からどれからでも始めることができ、行き詰まったら別のプロセスに移る柔軟性があるため、最初に学ぶ際に難しく感じられることがあります。

ACTの六つのコアセラピー・プロセスは以下の通りです:

  • 現在との接触(Contacting the present moment): この瞬間の体験に柔軟に注意を向けること。
  • 脱フュージョン(Defusion): 自分の思考、イメージ、記憶から距離を置き、それに巻き込まれないようにすること。思考を単なる言葉やイメージとして捉え、軽く持つようにします。
  • 受容(Acceptance): 望ましくない内的体験(思考、感情、感覚、記憶など)に心を開き、スペースを与えること。戦ったり避けたりする代わりに、それらが自然に流れていくままにします。
  • 文脈としての自己(Self-as-context): 自分が今何を考え、感じ、感覚し、行っているのかを意識している側面。これは「気づく自己」や「観察する自己」とも呼ばれます。
  • 価値(Values): 人生で大切にしたいこと、これからどう生きていきたいかを示す「行動のあり方」。価値は人生の旅路を導くコンパスのようなものです。
  • コミットされた行動(Committed action): 価値に導かれた効果的な行動を取ること。これには身体的な行動と心理的な行動の両方が含まれます。困難な思考や感情が現れても、自分の価値に従って生きるために必要なことを行います。

これらの六つのコアプロセスは、相互に関連しており、「心理的柔軟性」というダイヤモンドの六つの面のようなものです。**心理的柔軟性とは、「マインドフルに、価値に導かれて行動する能力」**のことです。心理的柔軟性が高まるほど、人生の質も向上します。

六つのコアプロセスは、「トライフレックス」という三つの機能的ユニットにまとめることもできます:

  • 今ここにいる(Being Present): 文脈としての自己と現在との接触。
  • 心を開く(Opening Up): 脱フュージョンと受容。
  • 大切なことをする(Doing What Matters): 価値とコミットされた行動。 したがって、心理的柔軟性は、「今ここにいること、心を開くこと、そして大切なことをする能力」として表現できます。

ACTを実践するためのツールとして、「チョイス・ポイント(Choice Point)」があります。これは、問題を素早くマッピングし、苦しみの源を特定し、それに対処するACTアプローチを組み立てるためのツールです。チョイス・ポイントでは、行動を「向かう動き(towards moves)」(人生をより良い方向に進める行動、なりたい自分として振る舞う行動)と「離れる動き(away moves)」(望む人生から遠ざかる行動、自分がなりたい人間とは違うふるまい)に分けます。

困難な状況や思考・感情が現れたときに、「引っかかり(hooked)」が生じ、「離れる動き」をしてしまう傾向があります。ACTでは、この引っかかりから自分を外し(引っかかりから外れる(unhooked))、価値に基づいた「向かう動き」をすることが目指されます。チョイス・ポイントは、この選択の瞬間(選択のポイント(choice point))を意識化し、「引っかかりから外れるスキル」と「自分がしたい向かう動き」を明確にすることを支援します。

チョイス・ポイントでは、表在的行動(身体的な行動)と内在的行動(心理的な行動)の両方が含まれます。また、「離れる動き」を定義するのはセラピストではなく、クライアント自身です。あらゆる活動は、文脈によって「向かう動き」にも「離れる動き」にもなりえます。

「フックを外す」スキルは、ACTの4つのコアとなるマインドフルネス・プロセス(脱フュージョン、受容、文脈としての自己、現在との接触)の組み合わせを指します。

ACTでは、思考や感情そのものは問題とはされません。問題となるのは、それらに対して**硬直的で柔軟性のない反応(例:フュージョンや回避)**を取った場合です。

**認知的フュージョン(Cognitive Fusion)**とは、認知(思考、感情など)が私たちの行動や気づきを支配し、その結果として自己破壊的な影響を与える状態です。フュージョンしているとき、思考は従わなければならないもの、回避すべき脅威、全注意を向けるべき重要なもののように感じられます。脱フュージョンすることで、思考を単なる言葉やイメージの集まりとして認識し、その影響力を弱めることができます。フュージョンは、過去、未来、自己概念、理由、ルール、評価・判断といった様々なカテゴリーで現れます。

**経験回避(Experiential Avoidance)とは、望ましくない内的経験(思考、感情、記憶など)を避けたり排除したいという欲求、そしてそれを行うためのあらゆる行動を指します。人間の心は「問題解決マシン」のように、望ましくない内的経験を避けようとしますが、これはしばしば苦しみを増大させます。過剰な経験回避は、不安障害、うつ、依存症など、多くの心理的問題に関連しています。ACTでは、過剰で硬直的で不適切な経験回避のみが問題とされ、「ワーカビリティ(効果性)」の観点から対処されます。ACTが推奨する経験の受容(experiential acceptance)**は、思考や感情の回避が制限されている場合や、回避の方法が長期的に人生を悪化させている場合に有効です。フュージョンは、困難な思考や感情を「悪い」と判断し、「これらを取り除かなければならない!」というルールを作り出すことで、経験回避を引き起こすことがあります。

ACTにおける中核的な病理プロセスは、フュージョン、経験回避、注意の柔軟性の欠如、価値からの遠ざかり、実行可能でない行動、自己概念とのフュージョンという6つであり、これらは心理的硬直性を引き起こす可能性があります。ACTの治療的プロセスは、これらの裏返しとして、心理的柔軟性を育むことを目指します。


「心理的柔軟性」について。

心理的柔軟性とは、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)における重要な概念であり、人生の質を高める鍵とされています。資料中では、いくつかの定義と側面からこの概念が説明されています。

まず、心理的柔軟性は、**「マインドフルに、価値に導かれて行動する能力」**と定義されています。これは、単に思考や感情を受け入れるだけでなく、自分にとって本当に大切なこと(価値観)を明確にし、それに沿った行動を意識的に選択し、実行していく能力を指します。

資料では、心理的柔軟性を育むことで、人生が避けがたくもたらす問題や困難に、より効果的に対応できるようになると述べられています。また、自分の人生に完全に関与し、価値に従って生きることで、深い意味と目的感が生まれ、**活力(vitality)を感じることができるとされています。ここでいう活力とは、感情ではなく、「今この瞬間を完全に生きているという感覚」**であると強調されています。たとえ悲しみや苦しみを感じている瞬間でも、活力を感じることは可能であると説明されています.

心理的柔軟性は、ACTの六つのコアセラピー・プロセスと深く関連しています。これらのプロセスは、あたかもダイヤモンドの六つの面のように、全体として心理的柔軟性を構成していると例えられています。六つのコアプロセスとは、以下の通りです:

  • 現在との接触(Contacting the present moment): この瞬間の体験に柔軟に注意を向けること。
  • 脱フュージョン(Defusion): 思考、イメージ、記憶から距離を置き、それに巻き込まれないようにすること。
  • 受容(Acceptance): 望ましくない内的体験(思考、感情、感覚など)に心を開き、スペースを与えること。
  • 文脈としての自己(Self-as-context): 自分が今何を考え、感じ、感覚し、行っているのかを意識している側面。
  • 価値(Values): 自分がこれからどう生きていきたいのかを示す「行動のあり方」。
  • コミットされた行動(Committed action): 価値に導かれた効果的な行動をとること。

さらに、これらの六つのプロセスは、**「トライフレックス(Triflex)」**という三つの機能的ユニットにグループ化することもできます:

  • 今ここにいる(Being Present): 文脈としての自己と現在との接触。
  • 心を開く(Opening Up): 脱フュージョンと受容。
  • 大切なことをする(Doing What Matters): 価値とコミットされた行動。

したがって、心理的柔軟性は、**「今ここにいること、心を開くこと、そして大切なことをする能力」**として表現することもできます。

資料では、心理的柔軟性を高めるためのツールとして**「選択ポイント(Choice Point)」**が紹介されています。選択ポイントは、問題行動を「離れる動き(Away Moves)」と「向かう動き(Towards Moves)」に分け、困難な思考や感情(状況、思考と感情)に「引っかかる(Hooked)」か「引っかかりから外れる(Unhooked)」かという選択肢を視覚的に示すことで、クライアントが自身の行動をより意識的に捉え、価値に基づいた行動を選択できるように支援します。

また、心理的柔軟性は、ACTにおける六つの中核的な病理プロセスの「裏返し」であるとも考えられています。これらの病理プロセスは心理的硬直性を引き起こす可能性があり、心理的柔軟性を育むための治療的プロセスを通じて対処されます:

  1. フュージョン(fusion)
  2. 経験回避(experiential avoidance)
  3. 注意の柔軟性の欠如(inflexible attention)
  4. 価値からの遠ざかり(remoteness from values)
  5. 実行可能でない行動(unworkable action)
  6. 自己概念とのフュージョン(fusion with self-concept)

資料全体を通して、ACTの目標は、この心理的柔軟性を育むことであると繰り返し述べられています。心理的柔軟性が高まることで、困難な思考や感情にとらわれずに、自分にとって大切なことに向かって行動できるようになり、より豊かで意味のある人生を送ることができると説明されています。


「認知的フュージョン」について。

認知的フュージョン(Cognitive Fusion)とは、認知(思考)が私たちの行動(外的行動と内的行動の両方)を支配し、その結果として自己破壊的または問題的な影響を与える状態を指します。言い換えれば、私たちの認知が、私たちの行動や気づきに対して否定的な影響を与えている状態です。

ACTでは、「認知(cognition)」という用語は、信念、アイデア、態度、仮定、空想、記憶、イメージ、スキーマなどあらゆる種類の思考を含み、さらに感情や情動の一部も含むとされています。そのため、筆者はしばしば「思考と感情の融合」という表現も用いています。クライアントに対しては、事前に「融合(fusion)」という用語を知っている場合を除き、通常は融合と体験回避の両方をカバーする便利な言葉として「ハマる(getting hooked)」という用語を使うことが多いと述べられています。

認知的フュージョンは主に以下の2つの方法で現れます

  1. 私たちの認知が、問題のある形で私たちの身体的行動を支配する場合:自分の認知に反応して、望む人生を築く上で効果的でないことを言ったり行ったりします。例えば、「誰にも好かれていない」という思考に反応して、重要な社交イベントに行くのをやめてしまうことがあります。
  2. 私たちの認知が、問題のある形で私たちの意識を支配する場合:認知に「引き込まれ」たり「没頭」したりして、意識が狭まり、効果的に注意を払えなくなってしまいます。例えば、不安や反芻に「とらわれて」しまい、職場での大事な作業に集中できず、多くのミスをしてしまうことなどです。

重要な点として、ACTでは、「フュージョン」という用語は、そのプロセスが問題行動や自己破壊的な行動を引き起こす場合にのみ使用されるべきであるという一般的な合意があります。認知に反応して、私たちの表面的または内面的な行動が狭く、硬直的で、柔軟性を失い、その結果として効果を欠き、自己破壊的(長期的に人生を悪化させたり、健康や幸福を損なったり、自分の価値から遠ざけたりする)になる場合に、「フュージョン」という言葉が使われます。そうでない場合、例えば海辺の休暇中に空想にふけるなど、人生を豊かにする「思考に没頭している」状況は「吸収(アブソープション)」と呼ばれ、フュージョンとは区別されます。

認知的フュージョンと脱フュージョンの概念を伝えるためのメタファーとして、「手は思考と感情」メタファーが紹介されています。このメタファーでは、手を自分の思考と感情に見立て、目を覆うことで思考や感情にとらわれた状態(フュージョン)を、手を顔から遠ざけることで思考や感情から距離を置いた状態(脱フュージョン)を体験的に理解することができます。このメタファーは、体験に完全に関与することと、効果的な行動を促すという脱フュージョンの2つの主な目的を示しています。

フュージョンしているとき、私たちは認知を以下のように感じがちです

  • 従わなければならない、受け入れなければならない、あるいは行動に移さなければならない何か
  • 回避すべき、または排除すべき脅威
  • 全注意を向ける必要がある非常に重要なもの

一方、認知から脱フュージョンすると、認知を本来の姿である「頭の中の言葉やイメージの集まり」として認識できるようになり

  • 従わなければならないものでも、受け入れなければならないものでも、行動に移さなければならないものでもないこと
  • 私たちにとって脅威ではないこと
  • 重要であるかもしれないし、そうでないかもしれない——どれだけ注意を向けるかを自分で選べること

認知的フュージョンは、ACTにおける心理的硬直性の6つの中核的な病理プロセスの一つです。他のプロセスには、経験回避、注意の柔軟性の欠如、価値からの遠ざかり、実行可能でない行動、自己概念とのフュージョンが含まれます。これらのプロセスは、心理的柔軟性を育むための6つの治療的プロセスの「裏返し」と考えられています。

うつ病の文脈では、クライアントは以下のような役に立たない思考とフュージョンしている可能性があります:

  • 「私はダメだ」
  • 「私はそれに値しない」
  • 「私は変われない」
  • 「私はずっとこうだった」
  • 「人生は最悪だ」
  • 「すべてが困難すぎる」
  • 「セラピーは効果がない」
  • 「状況は決してよくならない」
  • 「こんな気分のときはベッドから出られない」
  • 「何をするにも疲れすぎている」

また、拒絶、失望、失敗、虐待といった苦痛な記憶とも強くフュージョンしていることがよくあります。臨床的うつ病では、フュージョンはしばしば、心配、反芻、思考によるコントロールの試みといった形で現れます。

さらに、フュージョンは経験回避を生み出す主な原因の一つであるとされています。私たちの心は、困難な思考や感情を「悪い」と判断し、「これらを取り除かなければならない!」というルールを作り出すため、私たちは無意識的にそれらを回避しようとします。

ACTでは、「フュージョンなのか、それとも回避なのか?」と悩んだ場合、その答えはたいてい「その両方」であるとされています。クライアントは、不安を避けたいという動機(経験回避)と、「〇〇が必要だ」という思考とのフュージョンによって、特定の行動をとることがあります。このようなプロセスの重なりがあるため、ACTでは「hooked(とらわれている)」という用語がフュージョンと回避の両方に対して用いられます。

ご提示の資料からは、認知的フュージョンがACTの基本的な概念の一つであり、心理的な苦しみの根源となる重要なプロセスであることが理解できます。


経験回避について。

経験回避とは、望ましくない「内的経験」を避けたり、排除したいという欲求、そしてそれを実現しようとして取るあらゆる行動を指します。「内的経験」とは、思考、感情、記憶、イメージ、情動、欲求、衝動、願望、感覚など、他人には見えず、話さない限り他人にはわからない体験のことです。

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、ある程度の経験回避はすべての人間に見られる正常なことであると考えられています。

ACTでは、人間の心は「問題解決マシン」のようなものだと説明されることがあります。物理的な世界では問題を避けたり排除したりすることが有効ですが、このアプローチを思考や感情といった内的な世界に適用しようとすると、うまくいかないことが多いです。むしろ、望ましくない思考や感情を避けたり排除しようとすればするほど、長期的には心理的な苦しみが増す可能性があります。

例えば、依存症は、退屈、孤独、不安などの望ましくない思考や感情を避けようとする試みとして始まることが多いです。一時的には効果があるかもしれませんが、時間が経つにつれて、より大きな苦しみを生み出す可能性があります。

不安障害も経験回避の明確な例です。不安そのものは正常な感情ですが、不安障害の根底には、不安をどうにかして避けよう、排除しようとする過剰な経験回避があります。例えば、社交場面での不安を避けるために一切社交をやめると、不安はより強く深刻になり、「社交不安症」につながる可能性があります。

経験回避には、単に状況を避けるだけでなく、感情と格闘し、それが消えることを必死に願うことも含まれます。これは受容ではなく、「我慢(tolerance)」です。我慢は多大な努力とエネルギーを必要とし、その状況から得られるはずの楽しさや充実感を損なう可能性があります。

さらに、望ましくない思考を抑え込もうとすると、「リバウンド効果」が生じ、その思考の強度と頻度が増加することが研究で示されています。

研究により、高いレベルの経験回避は、不安障害、うつ病、物質乱用、生活の質の低下、境界性パーソナリティ障害、PTSDの重症化など、多くの問題と関連していることが示されています。

ACTでは、「常に今この瞬間にいなければならない」「常に脱フュージョンしていなければならない」といった**「マインドフルネス原理主義」を提唱しているわけではありません**。経験回避は本質的に悪いものではなく、問題となるのは、過剰で、硬直的で、不適切な経験回避であり、それが豊かで意味のある人生の妨げになっている場合です。

経験回避が問題かどうかは、その「ワーカビリティ(実用性・機能性)」、つまり長期的に見て望む人生を築くのに役立っているかどうかで判断されます。短期的には有効な経験回避(例:頭痛薬を飲む)も存在します。

ACTが経験の受容を推奨するのは、以下の2つの状況です:

  • 思考や感情の回避が制限されている、あるいは不可能な場合
  • 思考や感情の回避が可能ではあるが、使用されている方法が長期的に人生を悪化させている場合

過剰な経験回避は、主に判断(困難な思考や感情を「悪い」と判断すること)とルール(「これらを取り除かなければならない!」というルールを持つこと)とのフュージョンによって引き起こされます。困難な思考や感情が生じた瞬間に、自動的にそれらを回避しようとするのは、これらのルールへのフュージョンの結果と考えることができます。

ACTでは、「フュージョン」と「経験回避」は密接に関連しており、どちらか一方だけが存在することは稀です。そのため、「チョイス・ポイント」では、これらをまとめて「hooked(とらわれている)」という用語で表現することがあります。

「hooked」な状態は、**自動モード(思考や感情に自動的に従ってしまう状態)回避モード(望ましくない思考や感情を避けようとする行動に走る状態)**の2つの異なるモードで説明されることがあります。

経験回避は、ACTにおける6つの中核的な病理プロセスの一つであり、心理的硬直性を引き起こす可能性があります。経験回避は、心理的柔軟性を育むための6つの治療的プロセスの一つである「受容」の裏返しであると考えられます。

うつ病のクライアントの例では、様々な役に立たない思考(「私はダメだ」「人生は最悪だ」など)とフュージョンし、苦痛な記憶とも強くフュージョンしていることが多く、これが心配や反芻といった形での経験回避につながることがあります。


チョイスポイントについて。

チョイスポイントの定義と目的

チョイスポイントは、問題を素早くマッピングし、苦しみの源を特定し、それに対処するためのACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)のアプローチを組み立てるためのツールです。ACTモデルの柔軟性を保ちながらも、クライアントとセラピストの双方にとってシンプルで分かりやすい地図を提供することを目的としています。セラピーのどの段階でも導入可能で、さまざまな目的に応じて使用できます。

チョイスポイントの構成要素

チョイスポイントは、通常、以下のような要素で構成される図として描かれます:

  • 向かう動き(Towards Moves): 人生をより良い方向に進めてくれる、効果的な行動。自分がなりたい人間としてふるまい、人生をより意味深く、充実させる行動であり、セラピーがうまくいったときに始めたい、あるいはもっと増やしたい行動です. 図では右向きの矢印(→)で示されます.
  • 離れる動き(Away Moves): 本当に築きたい人生から遠ざけてしまうような、効果的でない行動。自分がなりたい人間とは違うふるまいをし、長期的には人生を悪化させる傾向のある行動であり、セラピーがうまくいったときにやめたい、あるいは減らしたい行動です. 図では左向きの矢印(←)で示されます.
  • 状況、思考と感情(Situation(s), Thoughts & Feelings): クライアントが出会う困難な状況や、そこで生じる困難な思考や感情。この本全体を通して、「思考と感情」という用語は、思考、感情、情動、記憶、欲求、衝動、イメージ、身体感覚などを含むプライベートな体験の略語として使われています。
  • 引っかかり(Hooked): 困難な思考や感情が現れたときに、それらに自動的に反応してしまう傾向。まるで釣り針にかかるように、巻き込まれ、引きずり回されるような状態です。離れる動きの矢印の横に示されます. 一部のACT実践者はこの用語を**認知的フュージョン(cognitive fusion)**のみを意味するものとして使用しますが、チョイスポイントではより広い意味で用いられ、認知的フュージョンと経験的回避(experiential avoidance)の両方を含んでいます.
  • 引っかかりから外れる(Unhooked): 引っかかりから自分を外し、向かう動きをすることができる状態。向かう動きの矢印の横に示されます.
  • 選択のポイント(Choice Point): 状況に直面し、困難な思考や感情が現れたときに、「引っかかる」か「引っかかりから外れる」かの選択を迫られる点。向かう動きと離れる動きの矢印が交差する点に小さな円で示されます.

チョイスポイントの使い方

セラピストは、クライアントとのセッションでチョイスポイントを以下のように活用します:

  1. 導入: 新しいクライアントとの初回セッションの半ばで、インフォームド・コンセントの一環として紹介することが多いです。簡単な図を描き、「効果的に協力するためのロードマップのようなもの」と説明します.
  2. 行動のマッピング: クライアントの行動を「向かう動き」と「離れる動き」に分け、それぞれの具体例を挙げてもらいます. どの行動がどちらに当てはまるかをクライアント自身に考えてもらうことが重要です.
  3. 困難な思考と感情の特定: どのような状況で、どのような困難な思考や感情が生じるのかを明確にします.
  4. 「引っかかり」の理解: 困難な思考や感情に「引っかかる」と、どのような「離れる動き」をしてしまうのかを視覚的に理解してもらいます.
  5. 「引っかかりから外れる」ことの可能性: 「引っかかりから外れる」ことができれば、「向かう動き」をすることが容易になることを示唆します.
  6. 治療目標の設定: 「向かう動き」を増やし、「離れる動き」を減らすために、どのようなスキル(特に「引っかかりから外れるスキル」、つまりACTの4つのマインドフルネスプロセス)を身につけていくかを話し合います.

チョイスポイントと関連概念

  • ACTの六つのコアプロセスとトライフレックス: 「フックを外す」スキルは、脱フュージョン、受容、文脈としての自己、現在との接触というACTの4つのマインドフルネスプロセスに対応します. 「向かう動き」は、価値に導かれたコミットされた行動を指します. 「フックされる」状態は、認知的フュージョンと経験的回避に関連します. 心理的柔軟性とは、「今ここにいること、心を開くこと、そして大切なことをする能力」として表現でき、チョイスポイントはこの理解を助けます.
  • 行動の定義: ACTにおける「行動」は、「全体としての存在がすることすべて」を指し、食べる、歩くなどの表在的行動だけでなく、考える、心配するなどの内在的行動(プライベート行動)も含まれます. チョイスポイントでは、これらの両方の側面が考慮されます.
  • クライアントの視点: チョイスポイントは常にクライアントの視点からマッピングされ、「離れる動き」を定義するのはセラピストではなくクライアントです.
  • 文脈の重要性: 同じ活動でも、どのような効果をもたらすかによって「向かう動き」にも「離れる動き」にもなり得ます.
  • ワーカビリティ: 「離れる動き」は望む人生から遠ざかるワーカブルでない行動であり、「向かう動き」は望む人生に近づくワーカブルな行動です. チョイスポイントはワーカビリティの概念をクライアントと簡単に使えるようにします.
  • フュージョンと経験回避: 「引っかかる」という用語は、思考に支配される認知的フュージョンと、望ましくない内的体験を避けようとする経験的回避の両方を含むものとしてチョイスポイントでは理解されます.

チョイスポイントの利点

  • シンプルさと分かりやすさ: 複雑なACTモデルを視覚的に分かりやすく提示します.
  • 迅速な問題のマッピング: 問題の所在や苦しみのパターンを素早く把握するのに役立ちます.
  • クライアントとの共通理解の促進: クライアント自身が自分の行動や思考パターンを客観的に見つめ、セラピーの方向性を共有しやすくなります.
  • ワーカビリティの焦点: 行動の良し悪しではなく、望む人生に役立つかどうかというワーカビリティの視点を導入しやすくなります.
  • 治療への動機づけ: 「引っかかりから外れる」ことで「向かう動き」が可能になるという見通しを持つことで、クライアントの行動変容への意欲を高めることができます.

このように、チョイスポイントはACTにおける重要なツールの一つであり、心理的柔軟性を育むための具体的な道筋をクライアントに示す上で非常に有効な手段となります.


ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とはどのような心理療法ですか?

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、苦痛な思考や感情を受け入れ(アクセプタンス)、価値観に基づいた行動を積極的に行うこと(コミットメント)を通じて、豊かで意味のある人生を送ることを目指す行動療法です。従来の心理療法のように症状の除去を目指すのではなく、心理的な柔軟性を高めることに重点を置いています。ACTは、マインドフルネスのスキルを活用し、クライアントが現在の瞬間に意識的に注意を向け、思考や感情に囚われずに、自分にとって本当に大切なこと(価値観)に沿った行動をとることを支援します。

ACTの基本的な考え方として、「心理的柔軟性」とは何ですか?

心理的柔軟性とは、「今この瞬間に意識的に気づき、その気づきに基づいて、自分の価値観に沿った行動をとる能力」のことです。これは、ACTの中核となる概念であり、以下の3つの要素で構成されています。

  1. 今ここにいる(Being Present): 現在の瞬間の体験に意識的に注意を向け、完全に参与すること。
  2. 心を開く(Opening Up): 困難な思考や感情を避けたり抵抗したりするのではなく、それらを受け入れ、スペースを与えること。
  3. 大切なことをする(Doing What Matters): 自分の価値観に基づいて、人生を豊かにする行動をとること。

心理的柔軟性が高いほど、人生で起こる様々な困難や問題に対して効果的に対処でき、より充実した人生を送ることができます。

ACTの「フュージョン(融合)」とはどのような状態を指しますか?

フュージョンとは、自分の思考や感情と一体化し、それらがまるで現実そのものであるかのように信じ込んでしまう状態を指します。思考が行動や意識を支配し、その結果として非効果的な行動や自己破壊的な行動につながることがあります。例えば、「自分はダメだ」という思考にフュージョンすると、新しいことに挑戦することを避けたり、他人との関係を避けるなどの行動をとってしまう可能性があります。ACTでは、フュージョンから距離を置き、思考や感情を単なる言葉やイメージとして捉える「脱フュージョン」というプロセスを用いて、思考の影響力を弱めることを目指します。

ACTにおける「経験回避」とは何ですか?それはなぜ問題なのでしょうか?

経験回避とは、望ましくない思考、感情、感覚、記憶などの内的経験を避けたり、抑え込もうとしたりする行動全般を指します。私たちは進化の過程で問題を解決する能力を発達させてきましたが、この問題解決の思考パターンを内的経験に適用しようとすると、かえって苦しみが増幅することがあります。例えば、不安を感じたくないあまり社交的な場面を避けることは、一時的には不安を軽減するかもしれませんが、長期的には孤立を招き、不安をさらに強くしてしまう可能性があります。ACTでは、経験回避は心理的苦痛を維持・悪化させる要因の一つと考えられており、代わりに苦痛な感情を受け入れながら価値観に基づいた行動をとることを重視します。

ACTの「選択ポイント(チョイス・ポイント)」とは何ですか?どのように活用しますか?

選択ポイントは、クライアントが自身の行動を理解し、より意識的な選択をするための視覚的なツールです。通常、縦の線と横の線で十字を描き、上向きの矢印を「向かう動き(Towards Moves)」、下向きの矢印を「離れる動き(Away Moves)」とします。横の線の下には、困難な状況や思考・感情を書き込みます。クライアントは、困難な状況や思考・感情に直面した際に、どのような「離れる動き」をしてしまい、代わりにどのような「向かう動き」をしたいのかを視覚的に把握することができます。セラピストはこのツールを用いて、クライアントが苦しみの源を特定し、心理的な「引っかかり(フック)」から抜け出し、「向かう動き」を増やすためのACTのスキルを導入していきます。

ACTの目標は「幸せになること」ではないのですか?

ACTの主な目標は、「幸せになること」や「苦痛をなくすこと」ではありません。ACTは、人生には喜びと同じように苦しみも避けられないものであり、苦痛をコントロールしようとすること自体がさらなる苦しみを生み出す可能性があると考えます。代わりに、ACTは、クライアントが苦痛な思考や感情を受け入れつつ、自分にとって本当に大切な価値観に焦点を当て、その価値観に基づいた意味のある行動をとることを支援します。その結果として、活き活きとした充実した人生を送ることができ、幸福感も自然と向上することが期待されます。

ACTを実践するために、セラピストはどのようなスキルを重視しますか?

ACTを実践するセラピストは、まずACTの理論と6つの核となるプロセス(現在との接触、脱フュージョン、受容、文脈としての自己、価値、コミットされた行動)を深く理解している必要があります。その上で、これらのプロセスをクライアントに効果的に教えるための、様々な技法やエクササイズ、メタファーを活用するスキルが求められます。また、クライアントの経験や価値観を尊重し、共感的な関係を築きながら、クライアント自身が心理的な柔軟性を高め、行動変容を促せるように支援する能力が重要です。さらに、セラピスト自身もマインドフルネスを実践し、心理的な柔軟性を持つことが、効果的なACTセラピーを行う上で不可欠とされています。

ACTはどのような問題や状況に効果があるとされていますか?

ACTは、うつ病、不安障害(全般性不安障害、社交不安障害、パニック障害など)、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、依存症、摂食障害、慢性疼痛、ストレス、境界性パーソナリティ障害(BPD)、統合失調症など、幅広い心理的な問題や精神疾患に対して効果が実証されています。また、メンタルヘルスの問題だけでなく、職場のストレス軽減、パフォーマンス向上、人間関係の改善、ウェルビーイングの向上など、様々な状況においても活用されています。ACTは、特定の診断カテゴリーに限定されず、人間の苦しみの根源的なプロセスに取り組むため、多様なクライアントや問題に対応できる可能性があります。


クイズ (短答式 – 各2~3文)

  1. ACTの正式名称を日本語で記述し、それぞれの言葉がどのような意味を持つのか簡潔に説明してください。
  2. ACTの主な目的は心理的柔軟性を高めることとされていますが、それは具体的にどのような能力を指しますか?
  3. 「チョイス・ポイント」というACTのツールは、セラピーにおいてどのような目的で使用されますか?
  4. ACTにおける「フュージョン」とはどのような状態を指し、クライアントの行動にどのような影響を与えうるでしょうか?
  5. 「経験回避」はACTにおいて問題視される行動の一つですが、それはなぜでしょうか?具体的な例を挙げて説明してください。
  6. ACTの6つのコアプロセスを全て列挙してください。
  7. ACTの6つのコアプロセスは、3つの機能的ユニット「トライフレックス」としてまとめることができます。それぞれのユニットに含まれるプロセスと、そのユニットのキーワードを記述してください。
  8. ACTでは、思考の真偽よりも「ワーカビリティ(効果性)」が重視されます。それはなぜでしょうか?
  9. 「文脈としての自己」とは、ACTにおいて心のどのような側面を指しますか?
  10. ACTは「第三の波」の行動療法の一つとされていますが、「第一の波」や「第二の波」と比較して、どのような点が特徴的と言えるでしょうか?(本文から推測できる範囲で)

クイズ解答

  1. アクセプタンス&コミットメント・セラピーです。アクセプタンスは苦しい思考や感情を受け入れること、コミットメントは価値に基づいた行動をとることを意味します。
  2. 心理的柔軟性とは、今この瞬間に意識的に関わりながら、生じる思考や感情に囚われすぎず、自分の価値観に沿った行動を自発的に選択できる能力を指します。
  3. チョイス・ポイントは、クライアントの問題行動や苦しみの根源を視覚的にマッピングし、非効果的な「離れる動き」と価値に基づいた「向かう動き」を明確にするために使用されます。
  4. フュージョンとは、自分の思考や感情を現実そのものとして捉え、それらに強く影響され、行動の自由を失っている状態です。これにより、非効果的な行動や自己破壊的な行動につながることがあります。
  5. 経験回避とは、望ましくない内的体験(思考、感情、感覚など)を避けたり、抑え込もうとする行動ですが、長期的には心理的な苦痛を増大させたり、価値に基づいた行動を妨げたりするため問題視されます。例えば、不安を避けるために社交的な場面を避けることで、孤立を深めるなどです。
  6. 現在との接触、脱フュージョン、受容、文脈としての自己、価値、コミットされた行動。
  7. ユニット1「今ここにいる」:現在との接触、文脈としての自己。ユニット2「心を開く」:脱フュージョン、受容。ユニット3「大切なことをする」:価値、コミットされた行動。
  8. ACTでは、思考の内容が真実かどうかよりも、その思考がクライアントの人生を豊かにし、価値観に沿った行動を促すかどうか、つまり「効果的かどうか」が重要視されます。
  9. 文脈としての自己とは、思考や感情、感覚などが生起し変化していくのを観察できる、気づきの側面を指します。それは、経験の内容とは異なる、不変の「わたし」という感覚です。
  10. 「第一の波」は行動療法、「第二の波」は認知行動療法であり、主に問題行動や思考の変容に焦点を当てます。ACTを含む「第三の波」は、それらに加え、アクセプタンス(受容)やマインドフルネス、価値観に基づいた行動を重視する点が特徴的と言えます。

論述式問題 (解答は含まず)

  1. ACTの核心概念である「心理的柔軟性」は、クライアントの人生においてどのような具体的な変化をもたらす可能性がありますか?具体的な事例を交えながら論じてください。
  2. 「チョイス・ポイント」ツールは、ACTセラピーにおいてクライアントとセラピストの関係性をどのように促進し、治療目標の達成にどのように貢献すると考えられますか?
  3. ACTにおける「受容」の概念は、一般的に理解される「諦め」や「我慢」とどのように異なりますか?苦痛な感情や思考に対する「受容」が、なぜ心理的な健康に繋がると考えられるのか論じてください。
  4. ACTの6つのコアプロセスのうち、あなたが最も重要だと考えるプロセスを一つ選び、その理由を説明してください。また、そのプロセスが他のプロセスとどのように関連し合っているかについても考察してください。
  5. 本文で紹介されている「手のメタファー」は、「フュージョン」と「ディフュージョン」の状態を理解するために効果的なツールと言えますか?その理由と、このメタファーがクライアントに与える可能性のある気づきについて考察してください。

用語集

  • アクセプタンス(Acceptance): 望ましくない思考、感情、感覚などの内的体験に対して、抵抗したり避けたりするのではなく、それらが自然に生じるのを許容し、スペースを与えること。
  • コミットメント(Commitment): 自分の価値観に沿った、意味のある人生を築くための行動を自発的に選択し、実行し続けること。
  • 心理的柔軟性(Psychological Flexibility): 今この瞬間に意識的に関わりながら、生じる思考や感情に囚われすぎず、自分の価値観に沿った行動を自発的に選択できる能力。ACTの主要な治療目標。
  • 脱フュージョン(Defusion): 自分の思考を、文字通りの真実や行動の命令として捉えるのではなく、単なる言葉やイメージとして認識し、それらから距離を置くこと。思考に巻き込まれないようにするスキル。
  • 経験回避(Experiential Avoidance): 望ましくない思考、感情、感覚などの内的体験を避けたり、抑え込もうとする行動。ACTでは、過度な経験回避は心理的苦痛を増大させると考えられる。
  • 価値(Values): 個人が人生において大切に思っている方向性や原則。行動の指針となり、人生に意味と目的を与えるもの。
  • コミットされた行動(Committed Action): 自分の価値観に沿った目標を設定し、たとえ困難な思考や感情が生じても、その目標に向かって具体的な行動を続けること。
  • 現在との接触(Contacting the Present Moment): 今この瞬間の自分の体験(思考、感情、感覚、周囲の状況など)に意識的に注意を向け、完全に気づいている状態。
  • 文脈としての自己(Self-as-Context): 思考や感情、感覚などが生起し変化していくのを観察できる、気づきの側面。経験の内容とは異なる、超越的で観察者としての「わたし」という感覚。
  • 機能的文脈主義(Functional Contextualism): ACTの基盤となる哲学的な視点。心理的な出来事を、その文脈と機能(目的や効果)の中で理解しようとする立場。
  • 関係フレーム理論(Relational Frame Theory: RFT): 人間の言語と認知の根底にある行動理論。言葉や記号を通じて、直接的な経験がない事物間にも関係性を学習する能力を説明する。
  • 第三の波の行動療法(Third Wave Behavioral Therapy): 従来の行動療法や認知行動療法に加え、アクセプタンス、マインドフルネス、価値観などを重視する新しい世代の行動療法群。ACT、DBT、MBCTなどが含まれる。
  • ワーカビリティ(Workability): ある思考、感情、行動などが、個人の価値観に沿った、豊かで意味のある人生を送る上で役立つかどうかという基準。真実かどうかよりも効果性が重視される。
  • チョイス・ポイント(Choice Point): ACTの臨床ツールの一つ。クライアントの行動を、「価値に向かう動き(Towards Moves)」と「価値から離れる動き(Away Moves)」に分け、苦しみの根源と対処法を視覚的に理解するために用いられる。
  • フュージョン(Fusion): 自分の思考や感情を現実そのものとして捉え、それらに強く影響され、行動の自由を失っている状態。認知融合とも呼ばれる。

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