コンパッション-4

以下に、**コンパッションの仏教的洞察と臨床心理学的技法(特にCFT: コンパッション・フォーカスト・セラピー)**の統合的応用例を3つご紹介します。


🔷 応用例①:自己批判の強いクライエントへのCFT実践(うつ・不安)

■ 背景

  • うつや社会不安を抱える人の多くは、自己批判的な内的独白をもっており、「自分はダメだ」「価値がない」と感じています。
  • これは「脅威システム(threat system)」が過活動している状態です。

■ CFT的アプローチ

  • ポール・ギルバートは、人間の感情システムを3つに分けて説明します:
    1. 脅威・防御システム(不安・怒り・自己批判)
    2. 駆動システム(達成・報酬)
    3. 安心・癒しシステム(愛情・つながり・安全)

→ CFTでは、安心・癒しシステムを意識的に活性化させることで、脅威システムのバランスを取ろうとします。

■ 仏教的要素との統合

  • **慈悲の瞑想(Metta Meditation)**を用い、「自分に、苦しみからの解放を願う言葉をかける」実践が導入されます。
  • 例:「私が安心できますように。健康でありますように。自由でありますように。」
  • これにより、内なる「批判者」ではなく、「慈悲の声」に耳を傾ける体験が育まれます。

🔷 応用例②:トラウマ治療における慈悲的想像(Compassionate Imagery)

■ 背景

  • トラウマを経験した人は、自分自身や他者に対して「警戒」「無価値感」「恐怖」を抱きやすい。
  • 安全な他者像(セーフベース)が形成されていないことが多い。

■ CFT的アプローチ

  • **慈悲に満ちた他者(Compassionate Other)**を想像する練習を行います:
    • 「あなたの苦しみを見守り、裁かず、受け入れてくれる存在」
    • 表情、声のトーン、姿勢、温かさ、知恵を思い描く

■ 仏教的要素との統合

  • この「慈悲に満ちた他者像」は、菩薩(観音や地蔵など)のイメージと重ねられることもあります。
  • 臨床的には、「慈悲を投影し、それを内在化する」プロセスと理解されます。

🔷 応用例③:終末期医療・スピリチュアルペインへの応答

■ 背景

  • 終末期の患者では、「人生の意味」「死の不安」「遺された人への罪悪感」など実存的苦悩が顕在化します。

■ CFTおよび臨床応用

  • CFTの枠組みでは、これらの苦悩に対し、**「苦しみに開かれ、それを見守り、共に在ろうとする態度」**を育てます。
  • 医療者やカウンセラーが「何も解決できなくても、そこに共に在る」ことの意味が尊重されます。

■ 仏教的要素との統合

  • 「共に苦しむ(karuṇā)」という慈悲の立場が、患者の存在全体を受け入れるための内的態度として活用されます。
  • 「苦しみの意味を問わないが、その現実に対して心を開く」という瞑想的な実践が援用されることもあります。

🔚 補足:CFTと仏教の融合を実践する著名な例

著者・実践家内容
ポール・ギルバートCFTの創始者。仏教哲学(慈悲、無常、非自己)と進化心理学を統合。
チョーデン(Choden)元チベット僧。『Mindful Compassion』(共著)では瞑想とCFTの融合を詳述。
クリストファー・ガーマー / クリスティン・ネフ自己コンパッションのトレーニング・研究で有名。MBSRやMBCTと統合。

ご関心があれば、これらの技法を組み込んだ具体的なワークシートセラピーのセッション構成例も提示できます。必要であればお知らせください。

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