コンパッション-9

コンパッション・フォーカスト・セラピー(Compassion-Focused Therapy, CFT)について解説します。


🌱 コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)とは?

コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)は、英国の臨床心理学者ポール・ギルバート(Paul Gilbert)によって開発された心理療法です。

主に、

  • 恥や自己批判が強い人
  • トラウマやうつ、不安障害を持つ人
    に向けて発展しました。

これらの人々は、思いやり(コンパッション)を自分に向ける力が弱く、自責や羞恥、恐怖が強いため、他の認知行動療法(CBT)だけでは改善しにくいことがあります。
CFTは、そうした「自分を責めてしまう心」に対して、思いやりと温かさを育てる方法です。


💡 CFTの理論的背景

① 進化論的視点

CFTは進化心理学に根ざしており、人間の心は「生き残るため」に発達したシステムだと考えます。

  • 恐怖や怒りなどの「脅威システム」は生存に役立つ。
  • しかし、それが過剰になると恥や自己批判が強まり、精神的苦痛が生じる。

② 三つの感情調節システム

CFTは人間の心を、

  1. 脅威防御システム(危険を探知し、闘争・逃走・凍結を引き起こす)
  2. 動機づけシステム(達成・報酬を追い求める)
  3. 安心・ケアシステム(安全感や思いやり、結びつきを感じる)
    の3つの感情システムとして整理します。

多くの心の問題は、脅威システムが過剰に活性化し、安心システムが働かないことで生じます。
CFTはこの「安心・ケアシステム(思いやりシステム)」を強化することで、脅威システムを鎮め、バランスを取り戻そうとします。


🧘‍♀️ CFTの具体的な技法

🌸 自己への思いやりを育てる

  • 自分自身に向けて「優しい声」で語りかける練習。
  • 自分を責める思考が出てきたときに、その部分に思いやりを向ける。

🌿 イメージを用いる

  • 思いやりに満ちたイメージ(例えば、自分を温かく包む光、優しい人物、動物)を繰り返し思い描き、それとつながる。
  • 恥や恐れが強い人は、自分に優しくすること自体が難しいため、外側から優しさを取り込む形で始める。

🫂 身体や呼吸の調整

  • ゆっくりした呼吸、リラックスした姿勢、穏やかな声を使って、神経系を落ち着かせる。
  • これにより自律神経(特に副交感神経)が活性化し、安心・ケアシステムが働きやすくなる。

📜 マインドフルネス

  • 思いやりの土台として、「今、ここ」に気づく練習をする。
  • 過去の失敗や未来の不安に巻き込まれずに、今この瞬間に優しく注意を向ける。

❤️‍🔥 CFTの特徴的な考え方

  • 意図が重要
     思いやりは単なる感情ではなく「苦しみを軽減しようとする意図」。
     感情がついてこなくても、その意図を持ち続けること自体が治療的。
  • 恥や自己批判を「責めない」
     それも進化の産物であり、脳の仕組みのせいと理解し、責めるのではなく理解と慈悲を向ける。
  • 神経可塑性を活用
     思いやりの練習は脳のネットワークを変える(ニューロプラスティシティ)。繰り返すことで、脳に安心とケアの神経回路が強化される。

🏥 どんな人に役立つ?

  • 自己批判が強く、「自分は価値がない」と感じやすい人
  • 過去の虐待やネグレクトで、愛着に不安がある人
  • 恥や罪悪感でつらくなる人
  • 従来のCBT(自動思考の検討や論理的反証)では十分に改善しない人

📝 まとめ

✅ CFTは「思いやり(コンパッション)」を自己や他者に向ける力を育て、苦しみを減らす心理療法
✅ 進化心理学と神経科学に根ざし、安心システムを強化して脅威システムを抑える
✅ マインドフルネス、優しい自己対話、思いやりのイメージワークなどを用いる


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