喜んでお話しします。
以下に、**コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)**の臨床での使い方、典型的なケース例、治療の進め方を具体的に紹介します。
🌿 CFTの臨床ケースの典型
1️⃣ 自己批判の強いうつ病のクライエント
💔 クライエントの背景
- 幼少期から厳しい親に育てられ、「失敗してはいけない」「完璧でなければ愛されない」というメッセージを強く受け取ってきた。
- 仕事での小さなミスを非常に恥ずかしく感じ、「自分はダメな人間だ」と責める。
- 対人場面でも常に「嫌われているのではないか」と不安。
- CBTで「思考の歪み」は理解したが、感情は変わらない。
💡 CFTの介入
- 最初は「自己批判の声」を分離(外在化)し、その声を慈悲深く理解しようと試みる。
- 「その批判は、あなたを守ろうとしている部分かもしれません。完璧でいれば傷つかないと思っているのかもしれません。」
- その後、優しい自己イメージ(思いやりをもつ人物像)をつくり、その人物から励ましの言葉をもらう練習を繰り返す。
- 徐々に「自分を支える声」を自分の中に育てていく。
2️⃣ トラウマや虐待の既往がある人
💔 クライエントの背景
- 子どもの頃にネグレクトや虐待を受けた。
- 愛情をもらった経験が乏しく、他者からの思いやりや優しさを「不気味」「信用できない」と感じる。
- セラピストのやさしい言葉にも強い警戒心が出てしまう。
💡 CFTの介入
- 「優しさ」が逆に脅威になる(これを compassion-focused therapy では ‘fear of compassion’ と呼ぶ)。
- まずは「優しさや思いやりを向けられると怖い」という感覚そのものを丁寧に扱う。
- 自分にとって優しさがどんなリスクを連想させるのか探り、その背景(幼少期の人間関係)をゆっくり共有する。
- 準備ができてから、小さな安全なイメージ(例えば、ペットや風景)から優しさを感じる練習を行う。
3️⃣ 不安障害・社交不安
💔 クライエントの背景
- 他人にどう見られているかが常に気になり、完璧に振る舞おうとする。
- 小さな失敗で「恥ずかしい」「価値がない」と感じやすい。
- CBTの「現実検討」は頭では分かっても、感情がついてこない。
💡 CFTの介入
- 「他人の目を気にしすぎる」背景に、恥や排除される恐怖が強いことを確認。
- コンパッションに基づいた呼吸法や、穏やかな声で自分に話しかける練習。
- 例えば「大丈夫だよ。誰だって間違える。私には優しくする価値がある。」と自分に繰り返す。
- 社会的状況に入る前に「自分に優しい心」を起動する(セーフベースを持ち込む)。
🔍 臨床でよく使うセッション内の例
● セラピストと共に自己批判の声に気づく
「今、どんな声が聞こえていますか?」
「その声はどんな表情をして、どんな口調ですか?」
→ それをやさしく見つめ、批判がどこから来たのか探る。
● 思いやりのあるイメージワーク
「あなたの苦しみを理解し、支えてくれる存在をイメージするとしたら、どんな姿をしているでしょう?」
「どんな声で話しかけてくれるでしょう?」
● 思いやりをこめた自己対話
「その状況に置かれた親友が同じことを話したら、あなたは何と言いますか?」
→ その言葉を自分に向けて言ってみる。
⚖️ CFTで大切にされる臨床態度
- 「それは脳と進化の仕業であって、あなたのせいではない」という非難しない枠組み
- 苦しみや自己批判を追い払おうとするのではなく、「その部分に優しく寄り添う」
- 感情が伴わなくてもまず「意図」を大事にする
- 恥や恐怖が強い場合は、一歩手前から。思いやりが「安全」だと感じられるまで無理はしない。
📜 まとめ
✅ 臨床ケースでは
・強い自己批判や恥、不安を持つクライエントが多い
・思いやりを育むイメージワーク、呼吸、優しい自己対話を用いて、脅威システムから安心システムへ切り替える
・小さなステップから丁寧に進め、思いやりが怖い場合にはその恐れを共感的に扱う