ポストモダン(Postmodernism) ポスト・ポストモダン

ポストモダン(Postmodernism)は、20世紀後半に登場した近代(モダン)への批判と超克を目指す思想的潮流です。哲学、文学、芸術、建築、社会学などさまざまな分野にまたがり、「真理」「理性」「普遍性」「主体性」といった近代的価値観を相対化・解体しようとします。


🔍 ポストモダンの基本的特徴

特徴説明
大きな物語の終焉(リオタール)科学、進歩、啓蒙などの「すべてを説明する大きな物語」はもはや信じられない。社会は多様な小さな物語で構成されている。
主体の解体(フーコー、デリダ)一貫した理性的主体という観念は幻想であり、権力や言語によって構成されるもの。
権力の微視的分析(フーコー)権力は国家や暴力に限られず、教育、医療、精神医学など日常の制度にも染み込んでいる。
記号とシミュラークル(ボードリヤール)現代社会は「本物」ではなく、記号の模倣=シミュレーションの世界に生きている。
脱構築(デリダ)テキストや意味は常に揺らいでおり、固定的な解釈はできない。中心と周縁の二項対立を解体する。
断片性・多様性の肯定一つの価値観で社会をまとめるのではなく、差異や多様性を肯定する。

🧠 主な思想家とその概念

人物主な概念と思想
ジャン=フランソワ・リオタール『ポストモダンの条件』で「大きな物語」の崩壊を論じた。科学や啓蒙の普遍性は幻想。
ミシェル・フーコー『監獄の誕生』『性の歴史』などで、権力と知の関係、主体の形成過程を分析。
ジャック・デリダ『グラマトロジーについて』などで脱構築の方法論を提示。意味は決して確定されない。
ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』『シミュラークルとシミュレーション』など。リアリティの喪失を描く。
ジャン=リュック・ナンシー共同体・身体・存在論的空白をめぐる考察。「共にある存在」への新しい倫理的展開を試みる。

📚 ポストモダンが生まれた背景

  • 近代(モダン)の特徴
    • 啓蒙主義、科学的合理主義、進歩信仰、普遍的価値、国家中心の社会秩序
  • 20世紀の経験
    • 二度の世界大戦、ホロコースト、全体主義の暴力、植民地支配の崩壊、資本主義の空洞化
  • → これらにより、「進歩」や「真理」のイデオロギーに対する懐疑が高まり、ポストモダン思想が登場

🧩 ポストモダンの影響

分野具体例
建築多様な様式の折衷(例:ラスベガス的な混在、ザハ・ハディド)
文学物語性の解体、メタフィクション、断片的な語り(ポール・オースター、村上春樹)
芸術アイロニーやパロディの多用、ジャンルの越境(ウォーホル、バスキア)
社会学グローバリズム、アイデンティティの揺らぎ、リキッドモダニティ(ジグムント・バウマン)

⚖️ 批判と限界

  • すべてを相対化することで、倫理や判断の基準が曖昧になる(ニヒリズムとの紙一重)
  • 実践的な政治や運動と結びつきにくい
  • 新自由主義と親和的である可能性がある(「何でもあり」が消費社会に回収される)

🧭 最後に:ポストモダンの意義

ポストモダンは、「問い直すことの勇気」を私たちに与えました。

  • 「本当にそれが当たり前なのか?」
  • 「誰の声が排除されてきたのか?」
  • 「“正しさ”とは誰のためのものか?」

という根源的な問いを投げかけ、私たちが「見えていなかったもの」を見えるようにしてくれます。


ポストモダン思想が「近代批判」を徹底した一方で、その過剰な相対主義やアイロニー、実践の困難さに対する反発や修正の動きが21世紀以降に広がっています。こうした潮流をまとめて「ポスト・ポストモダン(Post-postmodernism)」と呼びます。


🌀 なぜ「ポスト・ポストモダン」が必要とされたのか?

ポストモダンの特徴批判・問題点
大きな物語の終焉社会的希望や共通の目標を失った。ニヒリズムに陥る。
主体の解体行動主体が不在になり、倫理や責任が曖昧に。
すべての真理は相対的フェイクニュースや陰謀論の拡散を正せなくなる。
アイロニーと皮肉の横行本気で何かを信じ、取り組むことが「ダサい」ことに。

→ 「信じること」「行動すること」「意味を問うこと」への回帰が求められはじめます。


🔄 ポスト・ポストモダンの代表的な動き

1. 🧭 新実存主義(Neo-Existentialism)

  • 「主体性」「意味」「死」「不安」など、実存主義の基本主題に立ち返る動き。
  • ただしサルトル的な英雄的個人ではなく、「不確実で脆弱な存在としての人間」を見つめる。
  • 現代版ヤスパースやフランクル、あるいは現象学の復興ともいえる。

例:レイ・ブラスier(Ray Brassier)やジェイソン・ウォリングらが、「死」「無意味さ」「意味の再構築」に哲学的に取り組む。


2. 🌱 ナラティヴの再構築(Post-Postmodern Narrative)

  • 皮肉を排し、感情や倫理を伴う「新しい誠実さ(New Sincerity)」を追求。
  • 村上春樹、ジョナサン・フランゼン、デヴィッド・フォスター・ウォレスらの文学が代表。
  • アートや音楽でも「感情に訴える真剣さ」が復活。

3. 🏛 実践哲学・政治哲学の復権

  • アーレント、フーコー、アガンベンなどを踏まえつつ、倫理・正義・ケア・責任といった問題に再接近。
  • ブルーノ・ラトゥールやチャールズ・テイラーらが「近代の枠組みを超えた共存」を模索。
  • 「持続可能性」「共生」「対話的公共圏」などがキーワード。

4. 🧠 ポストヒューマン思想/実在論の回帰

  • 人間中心主義の見直し(例:動物、AI、地球環境との共存)→ ポストヒューマニズム
  • 「言語ゲーム」から脱し、現実の物質性・存在に立ち戻る→ スペキュレイティブ実在論(Meillassoux)

🧩 キーワードで見る「ポスト・ポストモダン」

キーワード解説
新たな誠実さ(New Sincerity)アイロニーではなく、真剣な思い・感情・倫理への回帰。
意味の再発見絶対的ではないが、共有可能な価値や物語を模索する。
ケアと関係性自律よりも相互依存とケア(配慮)の倫理。
身体性と現場抽象理論より「ここで・いま・誰と」の具体性を重視。
小さな物語の再接続ポストモダンが断片化した世界を、緩やかにつなぎ直す試み。

🗣️ 現代の思想家・実践者たち

名前立場/貢献
ブルーノ・ラトゥール科学・自然・社会をつなぐ「アクターネットワーク理論」。脱近代の思索。
チャールズ・テイラー「自己とアイデンティティ」「共通善」「多文化共生」の哲学的探究。
バイング=チュル・ハンポストモダン以後の「疲弊社会」「透明性社会」における倫理と感性を批判的に描く。
ドナ・ハラウェイサイボーグ・フェミニズムから、共生的関係性(Companion Species)へ。

🔚 結論:ポスト・ポストモダンとは?

ポスト・ポストモダンは、
「すべてが相対的」「何も信じられない」といった閉塞から抜け出し、

👉 もう一度、「意味」「倫理」「つながり」「行動」を本気で考え直そうとする流れです。

  • それは近代の復古ではなく、
  • ポストモダンの「問いの遺産」を受け継ぎつつ、
  • 人間の有限性や共同性を前提とした新しい生き方・考え方への模索でもあります。

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