Cultural Psychiatry（文化精神医学）第1章：歴史的展望

第1章：歴史的展望から見た文化精神医学

著者：ローレンス・J・キルマイヤー（Laurence J. Kirmayer）

編者による導入

ここ数十年の文化精神医学の進化は、観察すべき興味深い現象である。精神医学は、医学の諸分野の中でもおそらく若い部類に属する。精神医学が専門職として成熟したことは、訓練の発展や、徐々にエビデンス（根拠）に基づいたものへと変化してきた知識基盤の確立と密接に関連している。二つの世界大戦の間の期間は、精神障害の病因や管理における社会的要因への疑問を強めることとなった。少なくとも英国では、社会精神医学が規律として明確に確立され、ライフイベントとその現象学、愛着、およびその他の社会的要因への影響に関する印象的な研究が生み出された。過去20年間で、社会精神医学は文化精神医学へと変容したように見える。

本章でキルマイヤーは、規律としての文化精神医学の歴史を概説している。さらに、この規律に関連する懸念事項、特に精神病理と治癒実践の普遍性、多様なサービスのニーズへの対応、黒人や少数民族グループ、および特定の文化史の産物としての精神医学理論と実践の分析などを取り上げている。文化は、キルマイヤーが主張するように、欧州の歴史において文明化のプロセスとして定義されてきた。これは migratory groups（移動集団）から農耕社会へ、都市国家へ、そして最終的には国民国家（ネーション・ステート）への変容に関わっている。この文脈における文化の定義は、洗練と高度化に関連していた。文化の第二の定義は、歴史的系統、言語、宗教、遺伝、または民族性に基づいた集合的アイデンティティに関わるものである。キルマイヤーは、これら二つの定義が融合してしまったことを示唆している。植民地時代から1960年代までの比較精神医学の歴史的発展は、苦痛の次元を文化を超えて研究する際に、現地の文化的実践やそれらの経験の解釈を無視してきた。精神疾患を持つ個人の診断と管理における人種差別の役割は、完全には消え去っていない。地球規模での東から西へ、北から南への大規模な移住は、民族文化の多様性に関する問題を提起している。精神医学というより大きな規律の中で、組織化された比較的新しい参入者である文化精神医学は、主流となりつつあり、ヘルスケアサービスの提供や研究に影響を与え始めている。

導入

文化精神医学は、行動と経験に対する文化の影響に関わる諸規律の交差点に位置している。それは、異なる背景を持つ人々が出会ってきた歴史の中から生まれ、精神病理の疎遠な質を「文化的他者」の奇妙さと混同してきた文脈において、人間の苦悩を理解し、それに対応しようと苦闘してきた。文化という構成概念は、そのような差異を概念化するための一つの方法を提供し、人種、民族性、生活様式を一つの大きなカテゴリーの下にまとめ、社会知識、制度、および実践が健康、疾患、および治癒に及ぼす影響を検討することを可能にする。文化精神医学は、医学の社会科学とは異なり、理論的な問題よりも臨床的な要請によって主に推進されている。研究課題や方法の選択、さらには所見の解釈や専門的実践の枠組みは、治療の有効性の探求を強調するこの臨床的アジェンダによって形作られている。

その歴史の過程において、文化精神医学は三つの大きな懸念事項によって推進されてきた。すなわち、精神病理と治癒実践の普遍性または相対性に関する問い、民族的に多様な集団にサービスを提供する際のジレンマ、そして、ごく最近では、特定の文化史の産物としての精神医学理論と実践の分析である。これらの懸念は、この分野の発達における三つの連続する波に対応している。すなわち、(1) 植民地主義的および比較精神医学から、(2) 入植者社会における民族文化コミュニティや先住民のメンタルヘルス、そして (3) 精神医学のポスト植民地人類学までである。

これら各テーマの出現と発展は、主要な歴史的出来事、特に世界的な移住のパターンとその関連する社会的、政治的、経済的帰結と密接に関連している（Castles & Miller, 1998; Papastergiadis, 2000）。1700年代半ば以降、ヨーロッパ諸国の海外への植民地拡大は、精神医学への観察や、遠隔地におけるヘルスケアを組織化するための時折の努力をもたらした。19世紀および20世紀におけるヨーロッパ人の北米、オーストラリア、およびその他の地域への大規模な移住は、民族性と健康、疾患の関係に対する注目を促した。相次ぐ戦争は、ストレスやトラウマに対する心理的反応を精神医学の主要な関心事とした。大恐慌と福祉国家の出現は、社会的階級や貧困の影響を疾患の原因として浮き彫りにした。科学的人種差別の公布は、研究者や臨床医に自らの民族文化的な差異についての思考を明確にすることを強いた。第二次世界大戦後およびその後の紛争による難民や避難民の流出は、トラウマ関連の障害や移民の適応に関する研究を活性化させた（Murphy, 1955）。1948年の世界人権宣言や、世界各地で湧き上がった反植民地主義の闘争は、精神医学の歴史の覇権に挑戦し、認識論的・歴史的な代替システムの検討への道を開いた。

直近では、東から西へ、南から北への新しい移住の波が、比較的似通ったヨーロッパ諸国から発展した文化や民族性の既存のモデルに挑戦を突きつけている（Castles & Miller, 1998）。同時に、先住民が被ってきた歴史的不正義への認識の高まりが、入植者社会の制度における同化の破壊的な影響や、先住民のアイデンティティ、コミュニティ、および治癒実践におけるレジリエンス（回復力）の可能性を問い直させている（Cohen, 1999; Kirmayer, Simpson & Cargo, 2003）。米国におけるヒスパニック系、アジア系、およびその他の非ヨーロッパ系人口の増加、およびそれに対応する民族文化的な背景を持つメンタルヘルス専門家の増加は、内部から、そして専門職そのものの中から変化への圧力を生み出しており、公式の精神医学的分類（ノソロジー）における文化への注目に反映されている（Alarcon, 2001; Mezzich et al., 1996）。同様の人口統計学的変化はほとんどの社会に影響を及ぼしており、文化の問題を今後数年間の精神医学の中心的な関心事とするだろう。

文化の用法

「文化」という用語には、しばしば融合して語られる三つの広範だが明確な用法があり（Eagleton, 2000; Kuper, 1999）、それぞれが文化精神医学の歴史において反映されている。

第一に、文化は「耕作（cultivation）」、すなわち文明化のプロセスを意味していた。これは欧州の歴史において、移動集団から農耕社会へ、そして都市国家や、帝国を含むより大きな政治的実体へと移行するプロセスであった。この歴史を通じて、行動や市民性の規範は徐々に精緻化されていき、当初はエリート社会階級の所有物であったが、正式な教育を通じて他者にも徐々にアクセス可能となった（Elias, 1982; Gellner, 1988）。この意味における文化は、都会の中心部でのコスモポリタンな生活、高い教育、および「ハイ・カルチャー（大文字のCで始まるCulture）」の芸術や文学の成果によって測定される、洗練や高度化の基準を表している。文明としての文化は、ヴィコのルネサンス期の文明化の力としての文化観（Bergin & Fisch, 1984）から、ルソーの「高貴な野蛮人」の理想化、さらには『文明のなかの不満（Civilization and Its Discontents）』におけるフロイトの「欲望の葛藤と社会的制約との格闘としての自我」という悲劇的・英雄的な見解（Freud, 1962）に至るまで、精神病理に関する思考に影響を与えてきた。欧州の文明化が、それ以外の文明を判断する唯一の基準として近視眼的に見なされてきたが、歴史や複雑さにおいて比肩する多くの他の伝統が存在しており、現代の世界を、計り知れない価値観や認識論を持つ偉大な文明間の争いとして見る見方もある（Huntington, 1996）。

文化の第二の意味は、集合的アイデンティティに関わるものである。これは、歴史的系統、言語、宗教、ジェンダー、または民族性に基づいて一グループの人々を他と区別するものであり、コミュニティ、地域、国家、またはその他の歴史的人々への帰属を含む可能性がある（Banks, 1996）。文化の概念が、誰もが「文明化される」機会を与えられる普遍的な価値体系として提示されることもある一方で（たとえ実際には、文化の排他的な概念がこの可能性を損なわせるとしても）、民族文化的なアイデンティティは局地的で特殊的であり、そのグループを歴史的血統、親族関係、市民権、またはその他のアイデンティティの社会的マーカーに沿って分布させるものである。民族性はそれぞれの社会において異なって構築されており、「人種」や国家的アイデンティティ、あるいはその他の「発明された伝統」の概念と融合することもある（Hobsbawm & Ranger, 1983）。民族性はアイデンティティ、自尊心、およびグループの結束のポジティブな源となり得る一方で、差別、グループ間の紛争、および大量虐殺（ジェノサイド）の火種となってきた歴史もある。

文化の第三の用法は、より中立的かつ分析的で、人類学において一般的なものである。それは、一グループの人々の生活様式を導き、それらに意味を与える共有された知識、信念、象徴、および実践のシステムを指す。この意味における文化は、個人が世界を経験し、それと相互作用するための背景を提供しており、それは必ずしも意識的なアイデンティティの対象ではない。この定義の下では、医学の専門的実践や精神医学そのものも、一つの「文化」を構成している。なぜなら、それらは特定の見方や価値観、および人々の苦しみを扱うための特有の手続きや制度を持っているからである。

比較精神医学の出現

精神医学における文化への関心は、エミール・クレペリン（Emil Kraepelin）の業績にまで遡ることができる。1904年、彼はジャワ島（現在のインドネシア）のブイテンゾルグを訪れ、現地の患者の観察を行った。彼は、西洋で見られる精神疾患（特に早発性痴呆、後の統合失調症）がジャワでも存在することを確認したが、同時にその現れ方における顕著な違いにも注目した。

クレペリンは、文化を超えた疾患現象の比較、および自国の人々との比較に基づき、全体的な類似性は逸脱した特徴をはるかに上回っていると結論づけた。

「……特に、ジャワ人に見られる妄想の少なさは、知的発達の段階が低いことに関連している可能性があり、幻覚の少なさは、彼らが感覚的なイメージに支配される傾向が少ないという事実を反映しているのかもしれない。」 (Kraepelin, 1904)

クレペリンは文化的な差異を、人種や民族における生物学的な違いの反映と見なし、精神疾患の社会的文脈を事実上無視した（Roelcke, 1997）。彼の退化理論や精神疾患の原因としての知的衰退に関する提唱は、ドイツにおける優生学政策の台頭に寄与し、最終的にはナチスのジェノサイドへと繋がった。

クレペリンの生物学的本質主義には従わなかったものの、マギル大学のH. B. M. マーフィー（1915-1987）やロンドン大学のジュリアン・レフらは、比較精神医学の伝統を受け継ぐ者として、体系的な文化比較を行うために臨床観察と疫学的手法の両方を用いた。彼らは、植民地主義的な思考や社会的ダーウィン主義の影響を払拭しようとしたが、その説明の多くにおいては、依然として「伝統的」対「現代的」な社会といった発達上の階層を想起させ、レフ（1981）は、インド・ヨーロッパ言語の感情語彙の進歩性を、それ以外の言語（例えば現代のブリティッシュ・イングリッシュが最も分化されているとする）と対比させた（批判については Beeman, 1985 を参照）。

アレクサンダー・レイトンとジェーン・マーフィーの革新的な研究の多く（Leighton, 1981; Murphy & Leighton, 1965）は、アフリカ、アラスカ、そしてカナダの田舎のノバスコシアにおいても、比較精神医学の傘下に属している。彼らは苦痛の次元的な尺度を用いたが、それらの苦痛は特定の社会的訓練に関わるものであり、文化的な文脈がメンタルヘルスや疾患に与える影響についての調査を可能にした。こうした民族誌的指向にもかかわらず、ジェーン・マーフィー（1976）の論文は、精神病症状の普遍性を主張し、精神病に対する文化的態度に関する歴史的な情報を考慮しなかった（Sadowsky, 1999）。

1980年のDSM-IIIにおける「新クレペリン派」革命は、精神障害の記述のための次元的あるいはナラティブな記述よりも、離散的な診断カテゴリーを優先して運用された（Wilson, 1993）。これに伴い、高度に構造化された診断面接を伴う新しい分類学は、離散的な診断カテゴリーを中心とした研究を支持し、それらを洗練させていった。この流れの研究は、国際的な精神病性障害の研究（World Health Organization, 1973, 1986）、さらにうつ病の多国間研究（World Health Organization, 1983）へと集約された。連続的な世代の研究者たちが、より洗練された尺度、例えば Composite International Diagnostic Interview（Robins et al., 1989）などを使用した。しかし、これらの用具は、文化を越えた、あるいは手法上の限界を避けることはできておらず、診断カテゴリーの特異性は、欧州やアメリカの文化的歴史を普遍的なものとして輸出する傾向を隠蔽してきた。

比較精神医学のもう一つの重要な流れは、伝統的な、あるいは先住民族の治癒慣習の有効性に関するものであった（Kiev, 1969; Marsella & White, 1982; Rivers, 1924）。癒しの儀式に関する豊かな民族誌的な記述から、ジェローム・フランク（1961）、レイモンド・プリンス（1980）らは、心理療法はすべての文化において共通の、象徴的な癒しという普遍的な特徴を共有していると主張した。この研究は、精神保健従事者と伝統的・先住民の治癒者との活動を統合、あるいは調整しようとする努力において、ますます重要になっている。

精神医学における文化的本質主義と人種差別

植民地企業の中心的な特徴は、人種という概念やイデオロギーを使用して、植民地化された人々の服従や搾取を正当化することであった（Fredrickson, 2002）。彼らは人種という概念には何の科学的根拠も持たなかったが、特定の人種を特徴づけるためにこの概念を使い続け、それらは他の人間とは本質的に異なり、低い地位にあると見なされた（Lock, 1993）。精神医学そのものが、こうした人種差別的な見解を支持するために使われてきたのである（Littlewood, 1993）。南部の、あるいは非西洋の人々が前頭葉の発達が不十分であり、それゆえに脱抑制的な行動に走りやすいという主張は、数世代の神経精神科医によって支持された。

例えば、リュシアン・レヴィ＝ブリュール（1923）の「原始的心性」という概念に影響を受け、アントワーヌ・ポロ（1918）を筆頭とする「アルジェ学派（École d’Alger）」は、アルジェリア先住民の精神は、文明化されたヨーロッパ人の精神（Begue, 1996）とは構造的に異なると主張した。この生物学的本質主義は、社会文化的および政治的文脈を完全に無視したものであった。同様の本質主義は、1950年代までJ. C. カロザースのアフリカの精神に関する著作にも根強く残り、広範な白質切除術（ロボトミー）の実施を招く一因となった（McCulloch, 1993, 1995）。

もちろん、心理学的レベルにおいて文化的な差異を本質化しようとする試みも存在した。オクタヴ・マノーニ（1948/1950）は、マダガスカルの人々を「依存コンプレックス」に基づいた根本的にヨーロッパ人とは異なるメンタリティを持つ人々として描写した。フランツ・ファノン（1925-1961）は、精神病理の植民地における起源に対するこの批判の重要な声であった（Macey, 1996; Razanajao et al., 1996）。ファノンは『黒い皮膚・白い仮面』（1952/1982）において、疎外されているがゆえに、自らを白人であると思い込む人種的な精神病理を力強く描写した。ファノンの記述は、社会学者のW. E. B. デュボイスの『黒人のたましい』（1903/1989）におけるアフリカ系アメリカ人の「二重の意識」に関する記述とも響き合っている。

人種差別と植民地主義が、入植者から植民地化された人々に及ぼす影響を解明するプロセスは現在進行中であり、現代の精神医学の理論や実践に多大な影響を与えている（Bhabha, 1994; Said, 1994）。

民族文化的多様性：入植者社会と先住民族

1700年代から現在にかけての大規模な移住は、高度な民族文化的多様性を持つ入植者社会を生み出した。1930年代以降の民族文化的なグループの差別的な入院率に関する疫学的研究は、精神科病棟での度重なる移住の波を追跡した（Westermeyer, 1989）。第二次世界大戦やその後の紛争に伴う移住の波は、移民や難民のメンタルヘルス・ニーズを精神医学の主要な関心事とした。

米国やフランスのような社会では、平等主義の価値観が、文化的背景に関わらずすべての市民が平等に扱われるべきであることを強調する一方で、精神医学が民族グループのアイデンティティや実践を同化させることを暗に期待してきた（Todorov, 1993）。近年では「ダイバーシティ（多様性）」という用語が使われるが、民族性は依然として、人々の生活において強力な分断的、かつ、時には暴力的な力の源であり続けている（wa Wamwere, 2003）。

英国においては、人種差別がメンタルヘルス、および、精神科サービスへのアクセスの妥当性における決定的な要因であるという確信が議論の中心となっている（Fernando, 1988）。アフリカ系カリブ海の移民たちは統合失調症の発症率が高いことが観察されているが、これは診断のバイアスや、社会的排除のストレスを反映している可能性がある（Kelly, 2005）。カナダにおいては、1990年のオカ・クライシス（Oka Crisis）が先住民族の声に注目を集め、制度的な変化や先住民族癒し財団（Aboriginal Healing Foundation）の創設へと繋がった。

精神医学の人類学

精神医学の認識論的な問いは、ヨーロッパ的な価値観に基づいた既成の知識に挑戦した。1960年代の「反精神医学」運動やラベリング理論は、精神医学がいかに社会秩序の維持に使われているかに注目を集めた。歴史的なアカウントは、精神医学的な概念が政治的あるいは経済的な関心からいかにして立ち現れてきたかを示した（Ellenberger, 1970; Foucault, 1965）。

この分野における独創的な著作は、アーサー・クラインマン（1977, 1980, 1988, 1995）によるものである。彼が提唱した「新しい比較文化精神医学」は、精神病理のカテゴリーや心理学的な表現の普遍性を想定するのではなく、苦悩や治癒の経験における特定の文化的な文脈に細心の注意を払うよう求めた。彼は「カテゴリーの誤謬（category fallacy）」という概念を導入した。これは、ある文化圏において機能する概念的なカテゴリーが、別の文化圏においても同じ意味や有用性を持つという誤った想定のことである。

イアン・ハッキング（1999）は、これらの問題を「ループ効果（looping effect）」と呼んでいる。これは、精神医学的なカテゴリーそのものが、人々が自らを分類する方法を形作り直すことによって、精神病理の対象そのものを変容させてしまう現象である。また、近年のバイオメディカル的な記述への移行は、精神医学の規律の内部における政治的および経済的勢力の変化を反映しており（Luhrmann, 2000）、製薬業界が「臨床的エビデンス」を管理し、新しい精神疾患をマーケティングすることによって、精神科医療の方向性を操作していることも一連の研究で示されている（Healy, 2002; Lakoff, 2005）。

心理人類学の貢献

心理人類学は、個人のパーソナリティをより広範な社会的プロセス、特に文化的に形成された育児慣習に結びつけてきた（Bock, 1999; Spindler, 1978）。フランツ・ボアズは、文化は進化的な段階を反映したものではなく、特定の文化史の産物であると主張した。ベネディクト、ミードらは、社会構造や児童養育がいかに情緒的な発達を形作るかを示した（Stocking, 1986）。

心理人類学における並行した伝統は、臨床的な精神分析的手法を使用して、文化を超えた個人を研究すること、すなわち「民族精神分析」であった（Devereux, 1961）。セネガルのダカールにあるファン病院（Fann Hospital）の、アンリ・コロンブの指導下にある研究は、1960年代にそうした方向性を持っていた。今日では、精神分析理論に基づきつつ文化の深層への洞察を試みる研究が行われている（例：Doi, 1973; Kakar, 1978; Obeyesekere, 1981）。

また、比較文化心理学の分野は、パーソナリティや精神病理を比較するための実証的な定量的手法を採用してきたが、個人の概念を普遍的なものとして扱う英米の実証主義に支配されてきた側面もある。近年では代替的な視点から、自己におけるダイナミクスの中心性を強調するモデルが再定式化されている（Ho et al., 2001）。

心理人類学は過去10年間にわたりルネサンス的な復活を遂げている。現代の認知、社会、発達心理学、さらに社会神経科学の知識が、文化と心理学をインターフェースさせるための洗練されたモデルを提供している（Hinton, 1999; Shweder, 1991; Sperber, 1996）。

結論：流動する世界

文化精神医学は比較的新しい分野だが、短期間で強力な歴史を築いてきた。最初の本格的な研究部門は、1955年にマギル大学のエリック・ウィトカワーらによって設立された。アメリカ精神医学会は1964年に、世界精神医学会（WPA）は1970年に、それぞれ文化精神医学に関する組織を設けた。

過去50年以上にわたり、この規律は周辺的な分野から、現代精神医学にとって不可欠なダイナミックな研究領域へと成長を遂げた。しかし、現代文化にはエキゾチシズム（異国趣味）への根強いレガシーが存在しており、メンタルヘルスの問題を脱文脈化したり、文化を個人の特性として本質化したりする傾向がある。現代的な研究の課題は、文化を、個人が参加しているダイナミックなプロセスとして捉え直すことである。

グローバル化という文脈において、「トランスカルチュラル」は、文化がもはや固定されたものではなく、常に混合され「混血化（クレオール化）」され、新しい形を生み出し続けているという認識に基づいた新しい意味を持つようになっている（Glissant, 1997）。多くの都市環境は、同一性と差異のハイブリッドな形を生み出し続ける「ハイパーダイバーシティ」を示している。文化精神医学は、多様な文化的なハイブリッドの形の中に、生の意味と病いの重要性を探求し続けていかなければならない。

精神医学の理論と実践そのものも、生物学、医学、心理学、そして社会的要因がいかに作用し、それらを介入として統合し変容させてきたかを示す一連の産物なのである。

参考文献 (References)

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