援助交際を繰り返している若い女性に、自分を傷つけないで、自分を大切にして、と語りかけることは有効でしょうか。
結論から申し上げますと、その言葉が彼女に届き、行動や意識を変える「決定打」になる可能性は、残念ながら極めて低いと言わざるを得ません。
むしろ、場合によっては逆効果(心の距離を遠ざける、あるいは強い反発を招く)になることもあります。なぜそう言えるのか、いくつかの視点から理由を解説します。
1. 「自分を大切にする」という言葉の具体性の欠如
「自分を大切にして」という言葉は、非常に美しく、正しい言葉です。しかし、彼女たちにとってその言葉は、「具体的にどうすればいいのか全くわからない言葉」であることが多いのです。
- 彼女たちにとっての「自分を大切にする」手段が、皮肉にも「パパ活や援助交際で稼いだお金で美味しいものを食べる」「ブランド品を買う」「孤独を紛らわせる」ことになっている場合があります。
- 彼女たちは、自分自身を「大切にする価値があるもの」として認識できていないことが多いため、空虚なスローガンのように聞こえてしまいます。
2. 「傷ついている」という認識のズレ
周囲から見れば「自分を傷つけている」ように見えても、本人にとってはそれが「生き残るための生存戦略」であることがあります。
- 「体を売ってでもお金を手に入れなければ生きていけない」
- 「こうして誰かに求められないと、自分の存在価値を感じられない」
- 「もっとひどい家庭環境や人間関係から逃げるための手段である」
という切実な事情がある場合、「自分を傷つけないで」という言葉は、「今のあなたの生き方を否定された」というメッセージとして受け取られてしまいます。
3. 「道徳的な説教」として響いてしまう
たとえ善意であっても、その言葉には「あなたのやっていることは間違っている」という道徳的なジャッジが含まれているように感じられます。
- 彼女たちは、世間から自分がどう見られているかを十分に分かっています。
- わかっていてやっている人に対して、「正論」をぶつけることは、相手に「この人は私の本当の苦しみや事情を知ろうとせず、上から目線で綺麗な言葉を投げかけてくるだけだ」という絶望感や疎外感を与えてしまいます。
4. では、何が「有効」なのか
もしあなたが、その女性を本当に支えたいと考えているのであれば、言葉をかけるよりも前に、以下のプロセスが必要かもしれません。
- 否定せずに聞く: なぜそれを続けているのか、その背景にある孤独、貧困、家庭の問題などを、評価(ジャッジ)せずに聞く場所があること。
- 実利的な解決策: もし経済的な問題であれば、公的な支援やシェルターの紹介など、「体を売らなくても生きていける具体的な手段」を提示すること。
- 「居場所」になる: 「何かあった時に、この人だけは自分を拒絶しない」という安心感(信頼関係)を、長い時間をかけて築くこと。
結論
「自分を大切にして」という言葉は、信頼関係が十分に築かれ、彼女自身が「今の状況から抜け出したい」と心から思った時に、初めて支えとして機能する言葉です。
今の段階でその言葉を投げかけても、「言われなくてもわかっているけれど、そうせざるを得ないんだ」という彼女の心をさらに孤独にさせるだけかもしれません。
彼女に必要なのは、「正しい言葉」よりも、彼女が抱えている「痛みの正体」を理解しようとする姿勢ではないでしょうか。
援助交際を繰り返している若い女性に、それは資本主義という制度のせいだとか、家父長制・男性優位社会のせいだとか、話してみて有効でしょうか。
結論から申し上げますと、そのアプローチは「彼女の抱える罪悪感を和らげる」という意味では一定の効果があるかもしれませんが、「彼女の行動や状況を変える」という意味では、あまり有効ではない可能性が高いです。
その理由を、いくつかの側面から分析します。
1. 「罪悪感の軽減」にはなる(プラスの側面)
彼女たちが援助交際などの活動をしている背景には、自分を責める気持ちや、「自分は汚い」「まともな道から外れてしまった」という強い自己否定感があることが多いです。
そこで「それは君のせいではなく、社会構造(資本主義や家父長制)の問題なんだよ」と伝えることは、「自己責任論」の呪縛から彼女を解き放つ助けにはなります。
「自分が悪いのではなく、搾取する側やシステムに問題がある」と認識することは、精神的な救いになる場合があります。
2. 「現実との乖離」が大きすぎる(マイナスの側面)
一方で、彼女たちが直面しているのは、極めて「具体的で個人的な」問題です。
- 「今日のご飯代、家賃、推し活の費用が足りない」
- 「親との仲が悪くて家に居場所がない」
- 「寂しさを埋めてくれる相手が他にいない」
これらに対して、「資本主義が悪い」「男性優位社会の弊害だ」という説明は、あまりに抽象的で遠い話に聞こえてしまいます。「構造が悪いのはわかったけれど、じゃあ明日の生活費はどうすればいいの?」という問いに対して、社会理論は答えを持っていないからです。
3. 「理屈」は心の空腹を満たさない
彼女たちが求めているのは、多くの場合「理屈」ではなく「安心」や「充足感」です。
社会学的な説明は、知的な納得感は与えてくれますが、彼女が抱えている孤独感や、低すぎる自己肯定感、身体を売ることでしか得られない「必要とされている感覚」を直接癒やすことはできません。
むしろ、難しい言葉で説明されることが、「この人は私の痛みを分析対象として見ているだけで、私の隣にいてくれるわけではない」という疎外感に繋がるリスクもあります。
4. 誰が語るかという問題
もし、男性である場合、こうした社会構造の話をすることは「加害側の構造にいる人間が、安全な場所から講釈を垂れている」という、非常に皮肉な構図に見えてしまう恐れがあります。
「男性優位社会が悪い」と言いながら、その構造の中で彼女に接しているという矛盾を、彼女は敏感に察知するでしょう。
では、どのようなアプローチが考えられるか?
もし彼女をサポートしたい、あるいは現状を変えるきっかけになりたいのであれば、理論(マクロ)ではなく、彼女の個別の事情(ミクロ)に焦点を当てる方が有効です。
- 「構造」ではなく「権利」の話をする:
「社会が悪い」と批判するよりも、「あなたには、自分の体や心を守る権利があるし、それを守るための公的な仕組み(生活保護、シェルター、若者支援団体など)がある」という、具体的な武器(権利)を伝える方が現実的です。 - 感情の言語化を助ける:
「資本主義のせいだね」と言う代わりに、「本当はやりたくないのに、そうせざるを得ないのは苦しいよね」「本当はどうしたいと思っているの?」と、彼女自身の内面にある言葉を引き出す手伝いをすることです。 - 「自分を大切に」を具体化する:
前回の回答にも繋がりますが、抽象的な「大切に」ではなく、「今日は美味しいものを食べて、温かい布団でゆっくり寝よう」といった、身体的な充足を促す方が、彼女たちの心に届きやすいです。
結論
社会構造の話をすることは、彼女の「知的な防壁」にはなりますが、「心の拠り所」にはなりにくいです。
彼女に必要なのは、社会を分析する「学者」ではなく、彼女の固有の苦しみを共に眺め、具体的な生存戦略を一緒に考えてくれる「味方」なのかもしれません。
