ガエミ氏が、現代精神医学の王道である「抗うつ薬+カウンセリング」というパッケージを批判する理由は、それが**「診断の精度」と「科学的根拠」を犠牲にした、安易な折衷主義(何でもあり)**に陥っていると考えているからです。
彼のアプローチとの決定的な対立点は、主に以下の4つのポイントに集約されます。
1. 「うつ」の正体に対する見解の相違
現代の一般的な治療は、患者が「悲しい、意欲がない」と訴えれば、その背景(原因)を深く分けないまま「うつ病」と診断し、治療を開始します。
- 一般的な治療: 「うつ状態」はすべて「うつ病(単極性)」として扱い、抗うつ薬を第一選択にする。
- ガエミの批判: 「うつ状態」の裏には、**「双極性スペクトラム(躁うつ病の素因)」や、薬が不要な「正常な悲しみ(苦悩)」**が隠れていることが多い。これらを区別せずに抗うつ薬を出すのは、火に油を注ぐ(躁転や慢性化を招く)か、人間に備わった自然な感情を麻痺させる行為である。
2. 抗うつ薬への「科学的信頼」の差
ガエミ氏は、多くの研究データを再分析し、現代精神医学が抗うつ薬の効能を過大評価していると指摘します。
- 一般的な治療: 抗うつ薬は化学物質のバランスを整える万能薬だと信じられている。
- ガエミの批判:
- 多くの軽度〜中等度のうつ病において、抗うつ薬の効果はプラセボ(偽薬)と大差ない。
- 逆に、双極性気質がある人に抗うつ薬を使うと、長期的には「気分の波」を激しくし、かえって治りにくくさせる(これを彼は「医原性の悪化」と呼びます)。
3. カウンセリング(心理療法)の適応範囲
ガエミ氏は心理療法そのものを否定しているわけではありません。しかし、その「使いどころ」が間違っていると主張します。
- 一般的な治療: どんな精神症状にも、とりあえずカウンセリングを並行するのが「丁寧な治療」とされる。
- ガエミの批判:
- **「疾患(脳の病気)」**である躁うつ病や重度のうつ病に対して、カウンセリングだけで挑むのは、インスリンなしで糖尿病を治そうとするのと同じ。
- 逆に、**「人生の悩み(苦悩)」**に対して、生物学的な介入(薬)をしながらカウンセリングを行うのは、問題の本質をあやふやにする。
- 心理療法は、本来「人間としての成長や理解」を目指すものであり、脳の生物学的なエラーを修正するものではない。
4. 専門家の役割:折衷主義(エクレクティシズム)への拒絶
ここが最も哲学的な対立点です。
- 一般的な治療(生物心理社会モデル): 「薬も出すし、話も聞く。環境も整える」という、全方位的なアプローチ。一見良さそうに見えますが、ガエミはこれを**「思考停止」**と呼びます。
- ガエミのアプローチ(多元主義): * 医師はまず、その症状が「脳の病気(Explain)」なのか「心の反応(Understand)」なのかを峻別しなければならない。
- 「病気」なら徹底的に生物学的な治療(リチウムや運動)を。「反応」なら徹底的に実存的な対話を。
- これらを混ぜこぜにする「折衷主義」は、結局どちらの治療も中途半端にすると批判しています。
対立点のまとめ
| 項目 | 一般的な治療 | ガエミのアプローチ |
| 主役となる薬 | 抗うつ薬(SSRIなど) | 気分安定薬(リチウム) |
| 診断のスタンス | 症状のチェックリスト(DSM) | 疾患の階層制と歴史(ヤスパース) |
| 心理療法の役割 | 薬の補助、万能なサポート | 人生の「理解」のための独立した手段 |
| 目指すゴール | 症状(苦痛)の除去 | 脳の安定と人生の本質的な理解 |
ガエミ氏の視点は、現代の「マニュアル化された精神医学」に対する強力なアンチテーゼです。彼は、精神科医が「効率的な処方箋書き」になるのではなく、「冷徹な科学者」でありつつ「深い哲学者」であることを求めているのです。
